ポストグラムロックとは何か──グラムの遺伝子を受け継ぐ現代の音楽潮流を読み解く
ポストグラムロック──用語の定義と前提
「ポストグラムロック」という語は、現時点で音楽史や学術文献に広く確立されたジャンル名として定義されているわけではありません。本稿では便宜的に「ポストグラム」を「グラム(グラムロック、glam rock)の美学・音楽的要素を継承しつつ、21世紀の技術、ポップ/インディーの文脈、ジェンダーやパフォーマティヴィティに関する現代的な感受性と混交させた音楽潮流」を指す概念として用います。
この定義は学術的コンセンサスによるものではなく、現代のポップ・ロック系作品に見られる傾向を分析的にまとめた一つの読み方です。したがって以下では、グラムロックの歴史的基盤を踏まえつつ、現代における表現の変容、制作・ライブの特徴、批評的論点、そして日本的文脈との接続までを丁寧に掘り下げます。
グラムロックの基盤(起源と特徴の確認)
グラムロックは1970年代初頭にイギリスを中心に花開いたムーブメントで、デヴィッド・ボウイやT. Rex(マーク・ボラン)などが代表的アーティストです。特徴は派手な衣装や化粧、ジェンダーの境界を曖昧にするステージ上のパフォーマンス、そしてシンプルでキャッチーなロック・ナンバーにおける劇的な演出です。グラムはロックの持つ男性性や日常性を装飾と演技によって逸脱させ、視覚とサウンドを融合させた点で新しさをもたらしました(参考:Britannica、AllMusic)。
ポストグラムロックの音楽的特徴
- ヴィジュアルと音の統合:グラム的な視覚演出(強烈な衣装、化粧、舞台演出)を、現代的なプロダクションや映像表現と結びつける傾向があります。MVやライブ映像が作品体験の主要な一部となるケースが多いです。
- ジャンル横断性:クラシックなグラムのロック性に加え、エレクトロニカ、ポストロック、インディー・ポップ、シンセポップなどが混交します。これにより、ギター・リフ主体の一本調子ではなく、テクスチャーの豊かな音像が志向されます。
- ジェンダーとアイデンティティの表現:グラムが持っていたフェイクと演技、性の流動性を受け継ぎつつ、今日のLGBTQ+の視点やパフォーマティブな自己表現がより明確に反映されます。
- プロダクションの手法:アナログ感の残るレトロなエフェクト(ヴィンテージなテープ飽和やリバーブ)と、現代的なデジタル加工(サイドチェイン、シンセ・レイヤリング)を併用し、過去と現在の音響を同居させます。
- 歌詞と物語性:自己演出やエスケープ、仮装的なアイデンティティに関する物語が描かれることが多く、時にメタフィクション的な語り口(アーティストをキャラクター化する等)も見られます。
文化的・社会的文脈
グラムロック当時は、社会的な保守性への反動や消費文化の中での表現の実験が背景にありました。ポストグラムはその精神を受け継ぎつつ、デジタル時代のメディア環境、SNSによるセルフ・ブランド化、そして多様なアイデンティティの可視化といった新たな条件の下で展開します。つまり、個人の「見せ方」が音楽的コンテンツとして直接的な価値を持つようになった点が重要です。
代表的な“ポストグラム的”要素を持つアーティスト(参考例)
注意:以下はあくまで「ポストグラム的特徴を多分に含む例」であり、各アーティストが自らをそのように定義しているわけではありません。
- デヴィッド・ボウイ(歴史的起点):グラムの古典的代表。ステージ上での変身性や演劇性はポストグラムの出発点として参照されます(参考:AllMusic David Bowie)。
- 近年のポップ/ロック系アーティスト:レディー・ガガ等、ポップの文脈でグラム的な演出やアンドロジナスな美学を取り入れる例は多く、視覚と音を一体化させたパフォーマンスが特徴です(参考:AllMusic Lady Gaga)。
- インディー寄りの例:ポストパンク/ニューウェーブの回帰を経由して、現代的なプロダクションでグラムのテイストを再解釈するバンドが見られます(例として批評で指摘される現象を参照)。
- 日本の接続点:ヴィジュアル系:ヴィジュアル系は服飾・化粧・舞台演出でグラムと共通点があり、日本におけるポストグラム的文脈を考える際の重要なローカル参照点になります(参考:Visual kei (Wikipedia))。
制作とライブの実務的傾向
制作面では、アナログ機材の質感を模したプラグインやビンテージ機材の再利用、あるいはあえて粗いテイクを残すことで「時間の層」を感じさせる手法が使われます。ライブでは演劇的演出(照明・衣装・舞台装置)と映像演出が密接に結び付き、音楽をハイブリッドな総合芸術へと昇華させる試みが多く見られます。こうした演出は、音楽そのものの消費様式が「体験」へと変化したことの反映でもあります。
受容と批評的視点
ポストグラム的表現は、肯定的には「表現の幅の拡大」「ジェンダー表現の多様化の促進」と評価されます。一方で批判的には「過去の記号の消費化」「ノスタルジアの商業利用」といった指摘があります。リヴァイヴァルや回帰は常に擁護と批判を生むため、ポストグラムもその列にあります。批評の焦点は、いかに過去の記号を単なる装飾で終わらせず、現代の文脈で再意味化できるかにあります。
日本における受容と可能性
日本では既にヴィジュアル系やアイドル文化、ファッション性の強いポップ表現が存在しており、ポストグラム的な要素は土着的に融合しやすい素地があります。例えば、舞台性を重視するインディー・シーンや、ジェンダー表現を前面に出すアーティスト群は、ローカルな解釈としての「ポストグラム」を生み出す余地があります。ただし、その際も歴史的起源の理解と他文化への配慮(盗用の問題など)が求められます。
まとめ:ポストグラムロックをどう読むか
ポストグラムロックは確立された単一ジャンルではなく、むしろ「グラムの遺伝子」をめぐる現代的再解釈の集合体です。重要なのは、過去のスタイルを単に模倣するのではなく、現在の社会的文脈(デジタルメディア、ジェンダー政治、消費文化)と結び付けて新たな意味を付与する試みが行われている点です。本稿で示した特徴や事例は、ポストグラム的表現を読み解くための一つの観察枠組みであり、今後のリリースやライブ、批評を通じて定義がさらに洗練されていくでしょう。
エバープレイの中古レコード通販ショップ
エバープレイでは中古レコードのオンライン販売を行っております。
是非一度ご覧ください。

また、レコードの宅配買取も行っております。
ダンボールにレコードを詰めて宅配業者を待つだけで簡単にレコードが売れちゃいます。
是非ご利用ください。
https://everplay.jp/delivery
参考文献
- Britannica: Glam rock
- AllMusic: Glam
- AllMusic: Post-Rock
- AllMusic: David Bowie
- AllMusic: Lady Gaga
- Wikipedia: Visual kei
- Simon Reynolds, Retromania (Google Books)
投稿者プロフィール
最新の投稿
全般2025.12.28VCAコンプレッサー徹底解説 ─ 原理・挙動・実践的な使い方ガイド
全般2025.12.28FETコンプレッサー徹底解説:原理・音色・実践的な使い方と1176の活用法
全般2025.12.28ハードウェアコンプレッサー徹底ガイド:種類・原理・使い方と選び方
全般2025.12.28徹底解説:デジタルイコライザーの仕組みと実践テクニック

