モード進行の理論と実践:作曲・即興に使えるモードの使い分けと応用テクニック

モード進行とは何か — 概念の整理

モード進行とは、音階(モード)を基盤にした和声の動きやコード進行のことを指します。一般的な長音階・短音階(調性)に基づく機能和声(トニック→ドミナント→サブドミナントの流れ)とは異なり、モード進行は特定の音階の色合い(モード固有の音)を保ちながら和音を並べ、旋律的・色彩的な効果を重視します。モードは古代からの教会旋法に由来し、現代ではジャズ、ロック、フォーク、現代クラシックなど幅広いジャンルで使われます。

主要7つのモードと特徴音

西洋音楽で扱う代表的な7つのモードと、その特徴的な音(長調(イオニアン)との差異)を整理します。以下はCイオニアン(Cメジャー)を基準にしたときの例です。

  • イオニアン(Ionian): 1 2 3 4 5 6 7(長音階そのもの)
  • ドリアン(Dorian): 1 2 b3 4 5 6 b7 — 小調だが6度がナチュラルなので明るさが残る(例:Dドリアン = D E F G A B C)
  • フリジアン(Phrygian): 1 b2 b3 4 5 b6 b7 — 独特の半音下行の色彩(スペイン風など)
  • リディアン(Lydian): 1 2 3 #4 5 6 7 — #4(増4度)が浮遊感・明るさを強める
  • ミクソリディアン(Mixolydian): 1 2 3 4 5 6 b7 — ドミナントの色を弱めた長調系
  • エオリアン(Aeolian): 1 2 b3 4 5 b6 b7(自然短音階)
  • ロクリアン(Locrian): 1 b2 b3 4 b5 b6 b7 — 不安定で半減七の性格を持つ

モードから導かれるコードの性質

各モードの音から三和音や四和音を積み重ねると、独自の和音群が現れます。例えばイオニアンでは標準的なダイアトニック・コード(Imaj7, ii7, iii7, IVmaj7, V7, vi7, viiø7)が得られます。ドリアンではi-7, ii-7, bIIImaj7風、IV7/IVmaj7的な和音が残るなど、モードによりセンターとなる和音の性格が変わります。

実務的には「モードの特徴音」をガイドトーン(3度や7度、または特徴音そのもの)として意識すると、即興や和声付けがモードの色を損なわずに行いやすくなります。例:リディアンでは#4をメロディやテンションとして強調するとリディアンらしさが出ます。

モード進行の作り方 — 基本テクニック

  • モードの中心音(トニック)を決める。例:DドリアンならDを音楽的中心に設定する。
  • ダイアトニック・コードをモード内で積み上げる。モードの音だけで四和音を作ると、自然にモード色の和音列ができる。
  • モード固有の音をガイドトーンにする。旋律や内声に#4やb2などを配置して色彩を示す。
  • ペダルポイントやオスティナートでモード感を安定化。低音を固定して上部でモードの和音を動かすと浮遊感が生まれる。

モーダル進行の代表的なパターン

いくつか実践的な進行パターンを挙げます(モード名と例示)。

  • ドリアン・ヴァンプ: i-7 → IVmaj7(例:D-7 → Gmaj7 — Dドリアン)。ジャズやモード・ファンクで多用。
  • リディアン・モーション: Imaj7 → II7sus4(#11)(#4を含む響きを強調)
  • ミクソリディアン・ロック: I → bVII → IV(長調のIに対してbVIIを使うことでミクソリディアンの色が出る。例:D → C → G)
  • モーダル・サブドミナント: i → bVII → bVI(エオリアンやフリジアンでの下降的進行)

モーダル・インターチェンジ(平行モード間の借用)

モード進行の強力な手法に「平行モードからの借用(modal interchange)」があります。メジャー(イオニアン)と平行短音階(エオリアン)やその他の平行モード間で和音を交換すると、調性を完全に変えずに色彩を変えることができます。例:Cメジャー進行でbVIIやbVIを使うとミクソリディアンやドリアン風味が加わります。借用の際はメロディでどの音が変化しているかを明確にすると違和感が減ります。

モード・モジュレーション(モード間の移行)

モード進行では、同じトニック上でモードを切り替えること(平行モードの切替)や、トニックそのものを移動して別のモードへ変調することが可能です。平行モードの切替例:CイオニアンからCリディアンへ(4度の音を#4にする)— この場合、共通音(C, E, G など)を保持しながら1音だけを変えることでスムーズに移行できます。キーの移動(例:DドリアンからEドリアン)では、ベースラインやペダルポイントを用いて新しいセンターを提示すると安定します。

即興とモード進行

即興では、モード進行の和音に対して対応するスケールを当て、特徴音を意識的に使うのが基本です。ジャズではテンション(9, 11, 13)をモードの音に対応させて使い、四和音のボイシングを工夫して色を作ります。練習法としては、まずモードのアルペジオ(和音内のガイドトーン)を反復し、次にモード固有のメロディック・モチーフ(例:リディアンの#4→5の跳躍など)を作り込むと良いでしょう。

具体的な楽曲例と分析

代表例として、モーダル・ジャズの名曲「So What」(Miles Davis)はDドリアンを中心にしたシンプルな2コードのヴァンプ(D-7 → E♭-7)でモードの色を引き出しています。ロックの例では「Sweet Home Alabama」がミクソリディアン風味(I→bVIIの利用)として語られることが多く、フォークやロックではb7の導入がモード的な色合いを生みます。各曲の分析では、どの音がモード特有か(例:ドリアンの6度、リディアンの#4、フリジアンのb2など)を明示することが理解を深めます。

和声進行と機能和声の使い分け

モード進行は機能和声と相容れないわけではありません。状況によってはドミナント(V7)を挿入して短い機能的解決を与えつつ、再びモーダルな静止へ戻すことで劇的効果を作れます。一方で、モード進行そのものを維持したい場合はドミナント機能を避け、代わりにIV→I(準終止)やペダルを用いると自然です。

作曲・編曲のための実践的ヒント

  • モードの“特徴音”を最初に決める(どの音がモード感を出すか)。
  • 和音のテンションとして特徴音を活用する(ボイシングの上声で#11やb9などを効果的に)。
  • リズム・ハーモニーを分離する。ハーモニー(コード)はモードの色を保ち、リズムやフレーズで動きを与える。
  • 単純なヴァンプ(1〜2小節の繰り返し)でモードの色を提示してから複雑化する。
  • 録音や既存楽曲を分析して、モードの使われ方(どの音が強調されているか)を学ぶ。

注意点とよくある誤解

モード進行は「単に半音を上げ下げするだけ」で生じるわけではなく、和声機能やメロディの重心をどう扱うかが重要です。特にロクリアンは不安定なため単独で楽曲の基盤にするのは難しく、ペダルや外来音を用いた補強が必要になることが多いです。また、モードの名称や定義は文献によって説明の仕方が異なる場合があるため、複数の資料で確認することを推奨します。

まとめ — モード進行を使いこなすために

モード進行は、和音の色彩を豊かにし、即興や作曲に新たな表現の幅をもたらします。実践法としては、まず各モードの特徴音とそれに基づく和音群を把握し、シンプルなヴァンプやペダルで色を提示してからモジュレーションや借用を試すのが効果的です。機能和声とモード的手法を適切に組み合わせることで、より深い響きと表現力を得られます。

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参考文献