ジャズ・スタンダード入門:歴史・構造・名曲と演奏法を深掘り
ジャズ・スタンダードとは何か
ジャズ・スタンダード(以下、スタンダード曲)は、ジャズ演奏家たちが共通のレパートリーとして演奏し、即興やアレンジの素材として繰り返し取り上げられてきた楽曲を指します。もともとはブロードウェイ、Tin Pan Alley、映画音楽、ポピュラー音楽などで生まれたメロディやハーモニーが、ジャズのアプローチで再解釈されることで“標準曲”となりました。こうした曲群は単に有名な曲というだけでなく、形式(AABAや12小節ブルース等)、和声進行、メロディの特徴が即興学習や演奏会、ジャムセッションで扱いやすい点から定着していきます。
歴史的背景:どのようにしてスタンダードが生まれたか
20世紀初頭から中頃にかけて、ブロードウェイやハリウッドの楽曲、またアメリカの流行歌(いわゆるGreat American Songbookに含まれる曲群)がジャズ・ミュージシャンによって取り上げられました。スウィング時代のビッグバンド、ビーバップ期の小編成、さらにモードやフリーへと進化する過程で、ある曲がさまざまな解釈を経て演奏され続けることで標準レパートリーとなります。加えて、戦後の録音技術の発展やラジオ・レコード流通が、ある演奏が広く共有される機会を増やし、名演が“スタンダード化”する要因となりました。
代表的なスタンダードとその背景
Body and Soul — 作曲:Johnny Green。ジャズでは歌心のあるバラードとしてサックスやピアノの即興で頻繁に取り上げられ、コールマン・ホーキンスやビリー・ホリデイなどの名演が知られます。
All the Things You Are — Jerome Kern(作曲)/Oscar Hammerstein II(作詞)。調性や転調の扱いが変化に富み、学習用のモジュールとしても重宝される曲です。
Autumn Leaves(原題:Les Feuilles Mortes) — Joseph Kosma(曲)/Jacques Prévert(仏詞)/英詞はJohnny Mercerが手がけ、メロディのシンプルさと和声の美しさで多くのジャズ奏者に愛されています。
Take the 'A' Train — Billy Strayhorn作。デューク・エリントン楽団の定番として知られ、スウィング感やアンサンブルのための教材的側面もあります。
So What — Miles Davis作品(モード奏法の代表曲)。モード・アプローチによる即興の自由度や音色の探求が行われ、現代的なスタンダードの例といえます。
Round Midnight — Thelonious Monk作。個性的な和声音法とメロディの不思議さが特徴で、ピアノ奏者を中心に名演が多く残されています。
Misty — Erroll Garner作。バラードの美しさとポップ寄りの親しみやすさで広く演奏されます。
My Funny Valentine — Rodgers & Hartによるミュージカル曲。解釈の幅が広く、歌ものとしてもインストゥルメンタルとしても取り上げられます。
Stella by Starlight — 映画音楽出自のメロディ。和声進行が即興者にとって面白く、ジャズの演奏会で頻出します。
Summertime — George Gershwin作(『ポーギーとベス』)。アメリカ音楽とジャズの交差点を象徴する曲の一つです。
上記は一例にすぎませんが、共通するのは原曲を出発点として演奏者ごとに個別の解釈や即興が付加され続けている点です。
形式と和声の特徴:なぜスタンダードは即興に適しているのか
多くのスタンダードはAABAの32小節形式、あるいは12小節のブルース、Rhythm Changesと呼ばれるI Got Rhythm由来の進行など、明確な構造を持ちます。こうした構造はソロの設計を容易にし、テーマ提示→展開→クライマックス→帰結といった流れを作りやすくします。和声面では、ii–V–Iの循環進行、ドミナントの連鎖、内容的な転調ポイントが即興の方向性を与えます。現代の奏者はこれらの進行に対してトライトーン・サブスティテューション(半音ズラシの代理和音)、クロマティック・アプローチ、循環型のリハーモナイズを行い、オリジナルからさらに発展させます。
即興とアレンジの実践技法
スタンダード演奏における即興は、単なるスケールの羅列ではなく、メロディのパラフレーズ、モチーフの発展、リズムの変奏(後乗り・前ノリ・ポリリズム)を含みます。効果的なアレンジではイントロやエンディングの付加、メロディのテンポやリズムの転換(例えばバラードをラテンに変える)や、ハーモニーの再解釈(新しいテンションの追加や和声進行の入れ替え)などが用いられます。ピアノやギターではガイドトーン(3度・7度)の動きを意識したボイシングが、ソロイストのラインを美しく支えます。
練習法と学習のステップ
スタンダード習得の基本的な流れは次の通りです:まずメロディと歌詞(歌ものの場合)を正確に覚え、次に曲の形式(AABA、12小節など)を把握します。その上でコード進行を読み、重要な機能和音(ドミナント、サブドミナント、導音)を分析します。模範演奏を繰り返し聴き、ソロをトランスクリプト(書き起こし)してフレージングやモチーフの作り方を学びます。実践的には、異なるテンポ・キーで演奏してみる、リズムセクションと合わせる、相互にソロを交換するジャムセッション参加が上達の近道です。
ジャムセッションとフェイクブック
ジャズ文化の中でスタンダードは共通言語として機能します。短いリードシート(フェイクブック)を見て即興のやり取りができることは、演奏者にとって重要な技能です。代表的なフェイクブックとしてReal Bookがありますが、オリジナルの初期版には著作権問題のある非公式版が流通していた歴史があります。現在では正式な版が出版され、教育現場や現場で広く用いられています。
著作権とパブリックドメインについて
歴史的な作品の中には著作権が切れてパブリックドメインとなり自由に演奏・編曲できるものもありますが、多くの20世紀中盤以降の曲は依然として著作権で保護されています。録音やアレンジを公開する場合は権利関係に留意する必要があります。ライブで演奏するだけなら演奏権の扱いは会場や配信の形態で異なりますので、商業公開を行う際は各国の著作権管理団体のガイドラインを確認してください。
現代のスタンダードと新しい“スタンダード”の生成
ジャズは進化を続けており、ビバップやハードバップ以降に生まれた曲群(例:So What、Giant Stepsなど)も次第にスタンダードに組み入れられています。さらにポップスやワールドミュージックからの採り入れ、エレクトロニック要素の導入により、今世紀の演奏家たちは新たなレパートリーを生み出し続けています。重要なのは曲の出自ではなく、演奏コミュニティの間で“繰り返し演奏され、解釈され続ける”というプロセスです。
聞きどころガイド:初学者におすすめの名演
コールマン・ホーキンス「Body and Soul」 — テナーサックスによる歴史的名演。
Miles Davis『Kind of Blue』収録「So What」 — モード奏法の教科書的録音。
Thelonious Monkの「Round Midnight」演奏 — 独自のタイム感と和声語法を学べます。
Bill Evans Trioの各種バラード演奏 — ピアノトリオの密な対話とリハーモナイズが参考になります。
最後に:スタンダードを演奏する意味
スタンダード曲を学ぶことは、歴史的文脈の理解、即興技術の習得、アンサンブル力の向上につながります。単に“曲を弾ける”だけでなく、その曲が持つ文化的背景や既存の名演に対する敬意と対話を通して、自身の演奏表現を成熟させることができます。新しい曲をスタンダードに育てるか否かは演奏コミュニティ次第であり、そのプロセス自体がジャズの活力の源です。
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参考文献
- Wikipedia: Jazz standard
- JazzStandards.com — Song Database
- Britannica: Great American Songbook
- Wikipedia: Real Book
- AllMusic — Artist & Album Database
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