音声デザインとは何か――原理と実践、最新トレンドまで徹底解説
音声デザインとは
音声デザイン(Sound Design)は、音を目的に沿って意図的に設計・制作する行為と概念を指します。単に音を作るだけでなく、ユーザー体験、空間演出、ブランド認知、感情喚起、機能的な情報伝達などを音で実現する広範な領域です。映画やゲーム、UI音、プロダクトのサウンドアイデンティティ、VRや空間音響までも含まれ、技術と心理学が密接に絡み合います。
核となる原理と理論
音声デザインは物理的な音響特性だけでなく、聴覚の心理学的側面に強く依存します。主要な理論・原理を整理します。
- 心理音響学(Psychoacoustics): 周波数感度(イコールラウドネス曲線/フレッチャー・マンソン曲線)、マスキング、定位感、残響感など、人間がどのように音を知覚するかを理解することで説得力あるサウンドを設計します。
- 音の階層性: 基本となる低周波成分(パワー)、中域の明瞭性、上域の空気感を意図的にバランスさせることで、聞き取りやすさや感情的効果をコントロールします。
- 意味化(Semiotics): 音そのものが象徴やメッセージを担う場合、既存の音文化や期待を利用します。例として、サイレンは緊急を、ベルは通知を意味するなど。
- 機能的設計: UI音や通知音は、短時間で情報を伝達する必要があり、周波数帯や長さ、リズムがユーザーの反応に最適化されます。
サウンドブランディングとアイデンティティ
ブランドにとって音はロゴや色と同じく重要な識別子です。短いジングル(オーディオロゴ)や起動音、CM音楽はブランドの記憶を強化します。成功例としては映画館のTHXサウンド、Netflixの“ta-dum”やAppleのスタートアップ音などがあり、短い音が強い認知効果を生みます。
制作ワークフローと技術
音声デザインの制作は、企画段階から最終マスタリングまで複数のステップを踏みます。
- リサーチとコンセプト設計: 目的、対象ユーザー、配信メディア、再生環境(イヤホン、スマホ、スピーカー、空間)を定義します。
- 収録と音源作成: フィールド録音、スタジオ録音、シンセシス、サウンドライブラリの利用など。高品質な収録機材と適切なマイク配置が基本です。
- 編集と加工: EQ、コンプレッション、トランジェントシェイパー、タイムストレッチ、ピッチシフト、エフェクト(リバーブ、ディレイ)で音の性格を整えます。
- ミキシング: 周波数帯域の整理、定位調整、ダイナミクス管理、マスキングの解消を行い、各要素が干渉しないようにします。
- マスタリングと出力: プラットフォームごとの音量規格に合わせて仕上げます。配信や放送のラウドネス基準に従うことが重要です。
ラウドネスと規格(重要な実務知識)
現在、音声制作ではラウドネス管理が不可欠です。単にピークを下げるだけでなく、ラウドネス(LUFS/LKFS)に基づいた正確な調整が求められます。主要なポイントは次の通りです。
- ITU-R BS.1770: ラウドネスメータリングの国際基準。多くの規格やプラットフォームがこのアルゴリズムを使用しています。
- EBU R128: 欧州放送連合の指針で、放送用に-23 LUFS(統合ラウドネス)を推奨するなどの基準が含まれます。
- ATSC A/85: アメリカの放送向け指針の一つで、放送ラウドネス管理を定義しています(米国では-24 LKFSなどの値が用いられることがあります)。
- ストリーミングプラットフォーム: Spotify、Apple Music、YouTubeなどはノーマライゼーションを行っており、一般的に-14 LUFS前後を目安にすると良いとされています(各プラットフォームの推奨値は随時更新されるため確認が必要です)。
空間音響とイマーシブオーディオ
最近のトレンドは立体音響やオブジェクトベースのオーディオ(Dolby Atmosなど)です。リスナーの周囲に音像を配置することで、没入感や情報の優先度をより自然に提示できます。実装では遅延、反射、外乱音を考慮したチューニングと、レンダリング時の最適化が必要です。
インタラクションとリアクティブサウンド
ゲームやアプリケーションでは、音はユーザー操作への即時フィードバックとして機能します。インタラクティブ音声設計のポイントは次の通りです。
- 即時性: 音声は操作に対して遅延なく反応する必要があります。音の長さや立ち上がりを短くすることで応答性を高めます。
- 変化のルール化: 同じアクションでも文脈に応じて異なる音を鳴らす設計(状態依存サウンド)で単調さを回避します。
- オプション性とユーザーコントロール: 音量、エフェクト、音声フィードバックのオンオフなどをユーザーが制御できることは必須です。
アクセシビリティとインクルーシブデザイン
音声デザインは目の不自由な人々にとって重要なインターフェース手段にもなります。音声の明瞭さ、周波数帯の配慮、簡潔な音での状態表現、字幕や触覚フィードバックとの併用がアクセシビリティの向上に寄与します。
評価とユーザーテスティング
音声デザインの品質は主観的評価と客観的測定の組み合わせで評価します。主な手法は次の通りです。
- ユーザーテスト: タスクベースで操作の正確性や反応時間、ユーザーの感情評価を取得します。
- ABテスト: 複数のサウンド案を比較して選定します。
- 計測的評価: LUFSやSNR、周波数スペクトラム分析で技術的基準を満たしているか確認します。
実践的なチェックリスト
実務で忘れがちだが重要なポイントをまとめます。
- 再生環境を想定したモニタリング(モバイル、ヘッドホン、ステレオスピーカー、ラージスピーカー)
- 短い音ほど意味を担わせる効果が強いことを意識する
- ラウドネス基準に合わせたマスタリングを行う
- ブランドと一貫した音色・テンポ・音量設計
- ユーザーが音を制御できるUIの提供
ケーススタディ(短評)
・THX Deep Note:劇場体験を象徴するサウンドで、音響特性を劇的に変化させることで期待感を高める
・Netflixの“ta-dum”:非常に短いシグネチャーだがブランド認知に強力に寄与
・スマートフォンのUI音:短く識別しやすい設計で、誤動作を防ぎつつフィードバックを提供する
ツールと学習リソース
プロの現場ではDAW(Pro Tools、Logic Pro、Cubase、Reaperなど)、プラグイン(EQ、コンプ、リバーブ)、サウンドライブラリ、フィールドレコーダー(Zoom、Sound Devicesなど)が用いられます。学習用のリソースとしては心理音響やラウドネス規格のドキュメント、オンラインコース、専門書が有効です。
まとめ
音声デザインは技術と感性が融合する領域であり、単なる音の制作を超えて、ブランド価値やユーザー体験に直接影響を与えます。心理音響の理解、ラウドネスと配信規格の順守、再生環境に配慮した設計、そしてユーザーテストを回すことが良い音声デザインを実現する鍵です。今後は立体音響やAIによるリアルタイム合成がさらに普及し、より動的でパーソナライズされた音の体験が求められるでしょう。
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参考文献
- ITU-R BS.1770 - Algorithms to measure audio programme loudness and true-peak audio level
- EBU R128 - Loudness normalisation and permitted maximum level (European Broadcasting Union)
- ATSC A/85 - Recommended Practice: Techniques for Establishing and Maintaining Audio Loudness for Digital Television
- Spotify - Loudness normalisation guide
- YouTube - Audio loudness and normalization
- Dolby Atmos - Official
- Psychoacoustics - Wikipedia(入門参考)
- THX Deep Note - Wikipedia(歴史的背景)


