パッシブピックアップ徹底解説:構造・音作り・選び方から改造、メンテナンスまで
パッシブピックアップとは
パッシブピックアップは、ギターやベースなどの弦楽器に取り付けられる磁気式のトランスデューサで、外部電源を必要としないタイプのピックアップを指します。弦の振動が磁場を変化させ、その変化がコイルに誘導されることで微弱な電気信号が生成されます。外部バッテリーやオンボードプリアンプを持つアクティブピックアップと対比され、クラシック/ヴィンテージ系のアンプやエフェクトとの相性の良さ、ナチュラルなダイナミクスが特徴です。
基本構造と動作原理
パッシブピックアップは大きく分けて磁石と銅線を巻いたコイル(エナメル線)、およびベースとなるボビンやカバーで構成されます。弦(通常は鋼線)が磁石の周りにある磁場を震わせ、その変化がファラデーの電磁誘導によりコイルに電圧を発生させます。発生する電圧は弦の振幅やピッキングの強さ、磁石の種類、コイルの巻き数によって決まります。
磁石の種類と音への影響
- アルニコ(Alnico)系:Alnico II、III、Vなどが代表。比較的柔らかく温かみのある中低域と自然なサステインを持つ。ヴィンテージ系のサウンドに好まれる。
- セラミック(Ceramic):磁力が強くアタック感と出力が高め。現代的なハイゲインやタイトなローエンドを求めるセッティングに適する。
- その他(ネオジム等):非常に強力で、小型ピックアップや特殊用途に用いられるが、音色は硬めになりがち。
コイルの巻き数・抵抗・インダクタンスと周波数特性
コイルに巻かれるエナメル線の巻き数が増えると、抵抗(DC抵抗)とインダクタンスが上昇し、一般に出力は増す一方で高域が減衰します。代表的な目安として、シングルコイルはおおむね5kΩ〜10kΩ、インダクタンスは数ヘンリー台(製品により差あり)。ハムバッカーは7kΩ〜16kΩ程度で、インダクタンスはより高めになりやすく、共振周波数(ピーク周波数)はシングルより低めになります(シングル:おおむね4〜6kHz付近、ハムバッカー:2〜4kHz付近という目安)。共振ピークとQ値がそのピックアップの“キャラクター”を作ります。
ハムバッカーとシングルコイルの違い
ハムバッカーは2つのコイルを逆相・逆磁極で配置することにより、電磁誘導で発生するハム(50/60Hzの誘導ノイズ)を打ち消す設計です。結果としてノイズは低減され、太くパワフルな音が得られます。一方でシングルコイルはより明るく、ハイエンドのきらびやかさや弦ごとの分離感が得られる反面、ノイズに敏感です。どちらが良いかは楽曲やアンプ、演奏スタイルに依存します。
トーンコントロールと回路の関係
パッシブ回路では、ピックアップの出力は音色(周波数特性)が電気回路によって大きく変化します。代表的な要素はボリュームポットとトーンポット、トーンキャパシタです。ポットの抵抗値(一般的にはシングルコイルに250kΩ、ハムバッカーに500kΩがよく使われる)やキャパシタ容量(0.022μF、0.047μFなど)を変えることで、高域の減衰量や全体の明るさが変わります。ボリュームを下げたときに高域が失われる問題を解決する『トレブルブリード』回路(小さなコンデンサと抵抗を用いる)もよく使われます。
アクティブとの比較(利点・欠点)
- 利点(パッシブ):電源不要、シンプルでトーンの変化が自然、ヴィンテージアンプやペダルへの順応性が高い。
- 欠点(パッシブ):ケーブル長やポット等の接続で高域が失われやすく、出力やノイズ対策で限界がある。
- 利点(アクティブ):オンボードプリアンプにより低インピーダンス出力で高域維持、ノイズリダクション、イコライザ等の利便性。
- 欠点(アクティブ):電池が必要、回路が介在するため音色が「均一化」されやすいとの評価を受けることもある。
ピックアップの評価指標と測定
ピックアップの特性評価は、DC抵抗、インダクタンス、コイルのQ値、共振周波数、出力レベル(mV)などを測定して行います。共振周波数が高いと明るくレスポンスの良い印象、低いと温かみやミッド重視の印象になります。設計者はこれらを駆使して特定のサウンドを狙いますが、最終的な音は弦、ブリッジ、ピックアップ位置、アンプやエフェクトとの組み合わせで決まるため、測定値だけで好き嫌いが決まるわけではありません。
実践的な選び方・セッティングのコツ
- 用途に合わせる:クリーンで繊細なジャズやカントリーにはアルニコ系シングル、モダンなロックやメタルならセラミックや高出力ハムバッカーが適する場合が多い。
- ポジションと高さ調整:ネック寄りはロー寄り、ブリッジ寄りはハイ寄りのため、弦ごとのバランスや出力を調整する際は高さを微調整する。
- ポットとキャパシタの組合せ:シングルコイル+250kΩ+0.022μFは定番。ハムバッカー+500kΩ+0.047μFでローを残しつつ効果的に高域をカットできる。
- ケーブルとシールド:長いパッシブ配線は高域の損失を招く。必要に応じてシールドや短いケーブル、バランス回路を検討。
改造・モディファイの代表例
パッシブピックアップは比較的改造がしやすいパーツです。代表的な改造には、コイルの巻き直し(ターン数の変更)、ポールピースの調整、コイル分割(コイルスプリット)や直列/並列の切替配線、トーン回路の変更(キャパシタ交換、トレブルブリード設置)などがあります。巻き直しは音を大きく変える一方で正確な技術と計測が必要です。ワックスポット(ワックス浸透)でマイクロフォニックを抑える作業もよく行われます。
メンテナンスとトラブルシュート
パッシブピックアップの主なトラブルは断線、接触不良、マイクロフォニック(ハウリング)、ノイズ(アース不良、シールド不足)です。熱や衝撃でコイルがダメージを受けることもあります。定期的な配線確認、ジャックやポットのクリーニング、必要に応じた再はんだやワックスポットの再施工が推奨されます。磁石の経年変化は音色に影響しますが、急激に劣化するものではありません。
まとめ:パッシブピックアップの魅力と選び方の心得
パッシブピックアップは電源を必要としないシンプルな構造ながら、磁石・コイル設計・回路の違いによって非常に多様な音色を生み出します。ヴィンテージの暖かさやプレイヤーのダイナミクスを重視するならパッシブは強い選択肢となります。選ぶ際は楽器の種類、演奏ジャンル、使用機材との相性を考え、ポットとキャパシタの調整やピックアップの配置で細かくセッティングしていくことが重要です。試奏と計測の両方を活用して、自分が求める音に最も近いセットアップを見つけてください。
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参考文献
- Seymour Duncan - How Pickups Work
- Fender - What is a Guitar Pickup?
- Gibson - The Story of the PAF
- Sound On Sound - Understanding Guitar Pickups
- ElectroSmash - Guitar Pickups (technical measurements)
- Premier Guitar - Pickup Basics
- Wikipedia - Pickup (music technology)
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