スラップ完全ガイド:歴史・基礎・練習法からサウンドメイクまで徹底解説

スラップとは何か

スラップ(slap)は主にエレクトリックベースで用いられる奏法で、親指で弦を弾きつつ、もう一方の指で弦を弾きはじく(ポップ)ことで、打楽器のようなアタック感と鋭い中高域の音を生む演奏法です。ファンクを代表するサウンドとして知られ、リズムを前面に押し出す演奏が特徴です。同じ「スラップ」という語でも、エレキベースのサム&ポップ奏法と、コントラバス(アップライトベース)の打弦(ロックやロカビリーで用いられる)とは起源と目的が異なります。

歴史と発展

現代の電気ベースにおけるスラップ奏法は、一般的に1960年代後半から1970年代初頭にかけてラリー・グレアム(Larry Graham)が確立したとされています。彼はドラムの役割を補うために親指で弦を叩き、指で弦を弾き上げる技法を編み出し、Sly & the Family Stoneなどでそのサウンドを世に広めました。一方、コントラバスの打弦(スラップベース)は1920~1940年代のジャズ、ロカビリーにまで遡る別系統の技法です。以後、マーカス・ミラー、ラリー・グラハムを起点に、ブーツィー・コリンズ、ルー・ファンク(Flea)、ヴィクター・ウッテン、レズ・クレイプールなど各ジャンルのベーシストが独自の発展を遂げ、テクニックや用いるエフェクトも多様化しました。

基本テクニックの分解

  • サム・スラップ(thumb slap / thump): 親指の関節部分(または側面)を使って弦を下方向に叩き、フレットに当てて明確なアタック音を出します。打点はブリッジ寄りで明るく、ネック寄りで丸い音になります。
  • ポップ(pop / snap): 人差し指または中指の爪側や腹を使い、弦を引っ掛けて弾き上げることで高いピッチの「パチっ」という音を出します。指の角度と引っ掛け方が重要です。
  • ミュート(右手・左手): 余分な倍音や不要なサスティンを抑えるため、右手の手のひらや左手の指で適切にミュートします。ゴーストノート(消音打鍵)もリズム感を作る重要な要素です。
  • ダブルサム/ダブルサムに近い技(double-thumb): 親指の下方向(ダウン)と上方向(アップ)両方で駆動させ、より細かい連打や流れるようなフレーズを可能にする応用技術です。ヴィクター・ウッテンらが発展させました。

リズムと典型パターン

スラップはビートを前に出す役割が強いため、16分音符を基盤にしたファンク的なグルーヴが典型です。代表的なパターンは「サム(1) - ゴースト - サム(&) - ポップ(4の裏)」のようなシンコペーションを多用するもの。シンプルにメトロノームで4分→8分→16分と段階的に刻み、サムとポップの交互配置を体に馴染ませることが基本です。

練習メニュー(ステップバイステップ)

  • ステップ1:サム単発

    メトロノーム60BPMから始め、4分音符で親指のみを下方向にスラップ。音の一貫性(アタックの太さ)と位置(ブリッジ寄りかネック寄りか)を確認します。

  • ステップ2:ポップの導入

    親指と人差し指の交互。1拍目サム、2拍目ポップ、等の交互でリズムを作る。最初はゆっくりから、フォームが崩れない速度まで上げる。

  • ステップ3:ゴーストノートとアクセント

    サムとポップの間に軽いゴーストノートを入れ、グルーヴに幅を持たせる練習。ミュートの強弱をコントロールして「音の深さ」を作る。

  • ステップ4:シンコペーションと16分音符の連結

    基本的なファンクパターン(例:1 e & a の中でサム/ゴースト/サム/ポップを配置)をテンポを上げながら練習。

  • ステップ5:応用(オクターブ・ダブルストップ)

    オクターブでのルートと5度を交互にスラップする、2弦同時のダブルストップなどを練習してアンサンブルでの活かし方を学ぶ。

サウンドメイクと機材の選び方

スラップはアタック成分が重要なので、弦・ピックアップ・プリアンプ・コンプの選択が大きく影響します。

  • 弦:ラウンドワウンドは明るくアタックが際立つ。フレットノイズや高音のギラつきが気になる場合はフラットワウンドやハーフラウンドを検討。
  • 弦高:低すぎるとポッピングで指が引っかかりやすく、高すぎるとサムのアタックが硬くなる。適切なセットアップが重要。
  • ピックアップ/プリアンプ:クリアでハイミッドの抜けが良いものが相性が良い。アクティブPUは出力とコントロールが得やすい。
  • エフェクト:コンプレッサーはダイナミクスを整えライブで安定させるが、かけすぎるとスラップの「パンチ感」が失われる。エンベロープフィルター(オートワウ)やオクターバーをアクセントに使う例も多い。

応用テクニック・表現の広げ方

スラップは単なるリズム奏法に留まらず、ソロやメロディ表現にも使えます。ハーモニクス(人工ハーモニクス)と併用したスラップ、二本指以上でのポップ、タッピングとの組合せ(両手を使った複雑なフレーズ)、スラップをベースにしたスラップソロ等が挙げられます。ヴィクター・ウッテンのようにダブルサムやダブル・スラップを駆使してメロディとベースラインを同時に演奏するアプローチもあります。

よくあるミスと改善法

  • ミス:力任せに叩いてノイズや痛みが出る。→改善:脱力を意識し、親指の関節で弦をはじくイメージに変える。
  • ミス:ポップで指が滑ってまともな音が出ない。→改善:指先の角度、爪の長さ、引っ掛ける位置を調整し、最初はゆっくり確実に。
  • ミス:ゴーストノートが均一にならない。→改善:左手のミュートを意識的に練習し、右手のタッチと連動させる。
  • ミス:アンプで歪みが強くてアタックが埋もれる。→改善:コンプの設定やEQでアタック帯域(2–4kHz付近)を持ち上げる、あるいは歪み量を減らす。

代表的なプレイヤーと学びのポイント

  • ラリー・グレアム(Larry Graham):モダンなスラップの発展における基礎。リズム感とシンプルなグルーヴの重要性を学べます。
  • マーカス・ミラー(Marcus Miller):メロディックなスラップ、スラップと指弾きの融合、スラップによるハーモニクスの活用が特徴。
  • ヴィクター・ウッテン(Victor Wooten):高度な右手テクニック(ダブルサム等)と左手のミュートを連動させた表現力。
  • ブーツィー・コリンズ(Bootsy Collins):ファンクにおけるフレージングとキャラクター作りの手本。

まとめ

スラップは技術的にはシンプルでも、音楽的な文脈に応じた使い分けが求められる奏法です。基礎であるサムとポップ、ミュートの連携をしっかり固め、メトロノームや実際の楽曲でグルーヴを体得することが近道です。機材やセッティングも演奏のしやすさと音色に直結するため、自分の音楽性に合わせたチューニングを行ってください。

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参考文献