ダブレゲエ(Dub Reggae)徹底解説:起源・技法・影響と現代に続く音の遺伝子

ダブレゲエとは何か

ダブレゲエ(Dub reggae、以下ダブ)は、主に1970年代のジャマイカで発展したレゲエの派生形態であり、スタジオを楽器として扱うリミックス文化の一種です。楽曲のボーカルや楽器の一部を意図的に取り除き(=ドロップアウト)、リバーブやディレイ、イコライザー操作、フェイズやフランジャーなどのエフェクトを駆使して新たな音空間を作り出すのが特徴です。低域(ベース)とリズム(ドラム)を強調することで物理的な振動や空間感を前面に押し出すサウンドが、ダブの核となります。

歴史と起源 — スタジオから生まれた実験

ダブの起源は1960年代後半から1970年代初頭のジャマイカにあります。当時のレゲエ/ロックステディのレコーディング文化の中で、シングルのB面やインストゥルメンタル・バージョンが作られ、サウンドシステム(移動式のPAとレコードで対抗するコミュニティ文化)で披露されるうちに、エンジニアやプロデューサーがミキシング・コンソールを使って楽曲を自由に再構築する手法が確立しました。

代表的な先駆者としてはオズボーン・“キング・タビー”・ラッドック(Osbourne Ruddock、通称King Tubby)とリー・“スクラッチ”・ペリー(Lee "Scratch" Perry)が挙げられます。彼らは単なるミックス作業を超えて、フェーダー操作やエフェクトを即興で楽曲の表現手段として用い、リミックスをひとつの芸術形式へと昇華させました。

制作の技法と音響的特徴

  • ドロップアウト:ボーカルやメロディ楽器を意図的に消すことで、ベースとドラムのみの空間を作り、そこにエフェクトを挿入する。
  • リバーブ&ディレイ:スプリングリバーブやテープディレイ、アナログエコー機器を多用して音の残響や反復を生む。
  • イコライジング操作:特定周波数(主に中域)をカットしたり、低域を持ち上げることで空間の立体感と重量感を作る。
  • エフェクトのパフォーマンス化:リバーブ・ディレイのフィードバック量をその場で弄る、あるいはエフェクトのオン/オフをリズミカルに行うことでライブ感を演出する。
  • サウンドコラージュ:フェーズやフランジ、逆回転的効果、ノイズの挿入などで楽曲を実験的に拡張する。

これらの処理は機材の限界や偶然性を活かすことで独特の“揺らぎ”や“空間”を生み、リスナーに物理的な低周波の体験を与えます。

主要なプロデューサー/エンジニアとその貢献

  • King Tubby(オズボーン・ラッドック):ミキシング・エンジニアとしての実験を通じてダブの基礎を築いた人物。フェーダーとエフェクトを使った即興的なミックスが特徴。
  • Lee "Scratch" Perry(リー・ペリー):プロデューサー兼エンジニア。アップセッター(The Upsetters)名義の作品でダブ表現を深化させ、異素材のコラージュ的な手法を持ち込んだ。
  • Augustus Pablo:メロディカや鍵盤による独特のメロディをダブに導入し、空間的で瞑想的な色合いを与えた。
  • Scientist(ホペトン・ブラウン):1970〜80年代に活躍したエンジニアで、SF的なタイトルと合わせた劇的なダブ作品で知られる。
  • Prince Jammy / King Jammy:デジタル機材の導入期にあって、ダブ手法をデジタルに移植していった人物。

サウンドシステム文化との結び付き

ダブはジャマイカのサウンドシステム文化と切っても切れない関係にあります。サウンドシステムの選曲者(セレクター)やDJ(トースター)は、他のサウンドを圧倒するための“オンリー・ワン”のトラック(しばしばダブプレート)を求めました。これが限定盤的なダブの制作を促し、スタジオでの即興的なリミックス技法がサウンドシステム上で“武器”として機能したのです。また、トースティング(MC的な掛け合い)はヒップホップのラップへも影響を与えたことが広く認められています。

ジャンル横断の影響 — 電子音楽と海外の受容

ダブの技法は単にレゲエの派生に留まらず、パンク/ポストパンク(1970〜80年代)の実験や、後のエレクトロニカ、アンビエント、テクノ、さらにはダブステップやドラムンベースといったUKのベース音楽にも直接的な影響を与えました。特に1990年代のダブテクノ(Basic Channelら)や2000年代初頭のダブステップ(South Londonを中心にしたシーン)は、ダブの低域重視・空間操作・反復構造を受け継いでいます。

代表的なアルバム・トラック(聴くべき作品)

  • Lee "Scratch" Perry & The Upsetters — "Blackboard Jungle Dub"(1973): 早期ダブの重要作。
  • King Tubby & Augustus Pablo — "King Tubby Meets the Rockers Uptown"(1976): タビーのダブ技法とアウグストゥスのメロディが融合した名盤。
  • Scientist — "Scientist Rids the World of the Evil Curse of the Vampires"(1981): 叙事的なタイトルと劇的なミックスが特徴。
  • Lee "Scratch" Perry — "Super Ape"(1976): アップセッター・サウンドの代表作で、プロダクションの革新性が際立つ。

これらはダブの多様な顔を知るうえでの入門盤としておすすめです。

制作環境の変化 — アナログからデジタルへ

初期のダブはアナログミキサー、テープエコー、スプリングリバーブといった物理的機材が中心でした。80年代以降、デジタル技術が導入されると、デジタルディレイやサンプラー、DAW(デジタル・オーディオ・ワークステーション)を用いた制作が一般化しました。しかし「エフェクトを演奏する」感覚や空間の作り込みという本質は変わらず、現代ではアナログ機材の質感を模したプラグインが多数存在し、昔ながらの手法をソフトウェアで再現することが可能になっています。

日本におけるダブ/ダブレゲエの受容

日本でも1990年代以降、レゲエ/ダブのシーンはクラブやフェスティバル、独自のサウンドシステム文化とともに成長してきました。Dry & Heavyなど、ジャマイカの影響を強く受けたバンドや、国内のサウンドシステムを持つパーティが存在し、ローカライズされたダブ表現が続いています。加えて、エレクトロニカやテクノの文脈でダブの技法が引用されるケースも多く、ジャンル横断的な制作活動が活発です。

ダブの聴き方と楽しみ方

  • 低域を体感できる良質なスピーカーやサブウーファーで聴くと、ダブのベース表現をより強く体感できます。
  • ミックスの“抜き差し”やエフェクトの変化を聴き分けることで、エンジニアの即興的なプレイを見るような楽しみがあります。
  • 原曲(ボーカルあり)とダブ・バージョンを比較して、どの要素がどのように扱われているかを追うのも面白い聞き方です。

まとめ

ダブは単なるジャンルの名ではなく、スタジオを楽器として捉える制作哲学であり、音楽における空間操作の文化です。キング・タビーやリー・ペリーらの実験は、音楽制作とクラブ文化のあり方に永続的な影響を与え、今日の多くのエレクトロニック・ミュージックやベースミュージックの基礎となっています。歴史的背景と制作技法を理解すると、ダブはより深く、そして身体的に楽しめる音楽ジャンルとして立ち現れます。

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参考文献