供給計画の完全ガイド:需要予測からリスク対策まで(実務で使える手法とKPI)

はじめに:供給計画とは何か

供給計画(Supply Planning)は、製品やサービスを顧客に安定的かつコスト効率よく届けるために、需要と供給のバランスをとる業務プロセスです。原材料の調達、生産スケジュール、在庫管理、配送計画までを包含し、企業の収益性と顧客満足度に直結します。本稿では実務で使える概念、手法、指標、技術、導入上の注意点を詳しく解説します。

供給計画の目的と重要性

目的は大きく分けて次の3点です。

  • 顧客サービスレベルの維持(納期遵守、OTIFなど)
  • 在庫最適化によるコスト削減(保管費、陳腐化リスクの低減)
  • 生産・調達能力の有効活用(キャパシティ最適化、過剰生産の回避)

供給計画が適切でないと、欠品や過剰在庫、緊急調達コスト、顧客不満足による機会損失が生じます。

主要構成要素

  • 需要予測:需要の量と時期を見積もる。統計モデル(時系列分析、ARIMA、指数平滑法)、機械学習、ヒューマン・ジャッジメントを組み合わせる。
  • 在庫政策:安全在庫、発注量(EOQ)、発注点(ROP)を決める。安全在庫は一般に「サービスレベルに対応するz値 × リードタイム中の需要の標準偏差」で算出される。
  • 生産計画:マスタースケジュールと詳細生産スケジューリング(finite loading)を整合させる。負荷平準化やリードタイム短縮が鍵。
  • 調達計画:サプライヤーの納期リードタイム、ロットサイズ、最小発注数を考慮して発注スケジュールを策定する。
  • 配送・物流計画:倉庫配置、ピッキング方式、配送頻度を最適化する。

代表的な手法とツール

  • MRP(Material Requirements Planning):生産BOMと需要予測を基に、部品の発注時期と数量を決める。部品レベルの供給計画に強みがある。
  • DRP(Distribution Requirements Planning):流通ネットワーク全体の在庫分配を計画する。
  • S&OP(Sales & Operations Planning):営業・財務・生産が合意する中長期の計画プロセス。需給バランスの経営判断を支える。
  • APS(Advanced Planning and Scheduling):制約条件を考慮した最適スケジューリングを行うツール。
  • CPFR(Collaborative Planning, Forecasting and Replenishment):サプライチェーンパートナー間での予測と補充の協調。

リスクとその対策

供給計画で直面する主なリスクと対応策:

  • 需要変動(ボラティリティ):複数モデルのブレンディングと定期的なリフォーキャスト、プロモーションの影響をシナリオ分析する。
  • サプライヤーリスク:サプライヤーの多様化、ローカル/代替供給網の確保、長期契約とパフォーマンスモニタリング。
  • リードタイム変動:リードタイム可視化、リードタイム短縮活動(工程改善、事前発注)、安全在庫の見直し。
  • サプライチェーン断絶:BCP(事業継続計画)、緊急対応フロー、代替部材の設計検討。

KPI(主要業績評価指標)

  • OTIF(On Time In Full):納品の完全性と時間遵守を同時に測る指標。
  • フォーキャスト精度(MAPE、MAE)とバイアス:予測の信頼性を評価。
  • 在庫回転率/在庫日数:在庫効率を示す。
  • 欠品率・フィルレート:顧客満足度に直結する指標。
  • キャパシティ稼働率・スループット:生産の稼働効率を見る。

実務でのプロセス設計(ステップ)

  1. 現状分析:需要パターン、在庫構成、リードタイム分布、サプライヤーパフォーマンスを可視化する。
  2. 目的設定:サービスレベル、在庫目標、リードタイム目標を定める。
  3. モデル選定とパラメータ設計:需要予測手法、在庫モデル(定期発注 or 継続レビュー)、安全在庫計算式を選ぶ。
  4. ツール導入:ERP/APS/DDS(DemandSensing)等を連携し、データフローを確立する。
  5. S&OPの運用:定期会議で需給案をレビューし、経営意思決定に反映する。
  6. 継続改善:KPIをモニタリングし、PDCAで計画精度とコストを改善する。

よくある失敗と回避策

  • 単一モデル依存:需要の特性に応じて複数モデルやヒューマン判断を組み合わせる。
  • データ品質の軽視:マスター情報(BOM、リードタイム、ロットサイズ)を整備しないと計画は無意味になる。
  • 短期と中長期の分離不足:日次のオペレーションと月次/四半期の戦略を分けて管理する。
  • 部門間サイロ:S&OPやCPFRで部門横断の合意形成プロセスを作る。

デジタル化と最新トレンド

AI・機械学習による需要予測(ディープラーニング含む)、リアルタイムデータを用いたデマンドセンシング、ブロックチェーンによるトレーサビリティ、クラウドERPの連携が進んでいます。これによりリードタイム短縮や在庫削減、意思決定の迅速化が期待できますが、導入にはデータガバナンスと人材育成が不可欠です。

導入チェックリスト(実務向け)

  • 需要予測のヒストリカルデータが整備されているか
  • BOM、リードタイム、MOQ(最小発注量)が正確か
  • S&OPの定期会議と意思決定者が明確か
  • KPIを定義し可視化するダッシュボードがあるか
  • シナリオ分析とBCPが整備されているか

まとめ:実行可能なアクション

供給計画は単なる数式ではなく、組織横断のプロセスです。まずは現状の可視化、明確なサービスレベル設定、現場と経営をつなぐS&OP体制の構築から着手してください。その上で適切なツールとKPIを導入し、継続的に改善を回すことが成功の鍵です。

参考文献

ASCM: Sales and Operations Planning(S&OP)概要

Wikipedia: Material requirements planning (MRP)

Wikipedia: Economic order quantity (EOQ)

GS1: Collaborative Planning, Forecasting and Replenishment (CPFR)

ASCM: Safety stock(安全在庫)

Wikipedia: Bullwhip effect(鞭のような変動増幅)