拾音配置の理論と実践:音を捉えるための科学とコツ
拾音配置(マイクロフォン・プレースメント)とは
拾音配置は、マイクロフォンをどこに・どのように配置するかを指し、録音やPAにおける音質、ステレオ感、位相関係、音像の位置決めに直接影響します。単純に“近づければ良い”という話ではなく、マイクの指向性、カプセルのタイプ、部屋の音響特性、ソース(楽器や歌)の放射特性や演奏環境によって最適解が変わります。本稿では基礎理論から代表的なステレオ技法、楽器別の代表的配置、位相トラブルの対処法、実践チェックリストまでを深掘りします。
基本原理:指向性、近接効果、距離と位相
マイクの指向性(無指向性/カーディオイド/スーパーカーディオイド/双指向など)はオフ軸音の拾い方を決めます。圧力勾配型(いわゆるプレッシャー・グラディエント)マイクは近接効果(低域の増強)を示しますが、無指向性マイクは原理上近接効果がほとんどありません。近接効果を利用してベースやボーカルの低域を強調する一方で、過度だと“ブーミー”な音になるためハイパスで調整します。
マルチマイク収録では、時間差(到達時間の差)と位相が重要です。基本的なルールとしては、同一音源を複数マイクで拾う場合、位相キャンセルを避けるために距離関係を整える「3:1ルール」(近接マイク間の距離は最も近いマイクとソースの距離の3倍にする)を参照します。ただしこのルールは万能ではなく、実際には耳で確認して調整するのが最良です。
代表的ステレオ技法と長所・短所
- XY(コインシデント): 2つのカーディオイドを90〜135度で交差させる。位相問題が起きにくく、定位が明確。ステレオ幅はやや狭め。
- ORTF(近接非コインシデント): 2つのカーディオイドを約110度、約17cm間隔で配置。自然なステレオ感と良好な左右分離。
- MS(ミッド・サイド): ミッド(単一指向)とサイド(双指向)を組合せ、後処理で左右を作る。ステレオ幅を後から自在に調整可能で、位相管理が容易。
- ブラムライン(Blumlein): 90度で交差した2つの双指向マイク。非常に自然で空間情報に富むが設置がシビア。
- スペースドペア(A-B): 距離を置くことで広いステレオ像を得るが、位相やセンターの薄まりに注意。
楽器別の基本的な拾音配置(実践的ガイド)
以下は出発点としての推奨配置。実際は楽器、アンプ、部屋、サウンドの狙いに応じて微調整が必要です。
- ボーカル: ポップフィルターを使い、マイク中心から約5〜15cm。近接効果を利用する場合はさらに近く。カーディオイドを正面に向けることが基本。多人数コーラスはXYやORTFでステレオ収録。
- アコースティックギター: サウンドホール上では中低域が強くなりがち。12フレット付近とサウンドホールの中間(約20〜30cm)を起点に、1本はフレット寄り(指板12フレット付近)、もう1本はボディ上で低域を補うなどABやXYの組合せが多い。
- エレキギターアンプ: スピーコンの真ん中は明るく尖った音、エッジ寄りはマイルドになる。リボンやダイナミックを近づけて温かみを出す。30cm程度下げると空気感が足される。
- ドラム: キックは外側と内部の併用、スネアはトップとボトム(ボトムは位相反転が必要)で厚みを作る。オーバーヘッドはXY/ORTF/ABでステレオ像を決定。ルームマイクはルームの特性を活かすために距離を取り、プレイの自然な響きを追加する。
- ピアノ: グランドはハンマー上方にステレオペア、フルレンジ収録ならピアノの開口部に複数マイクを配置。アクションの音を狙うか、全体のバランスを狙うかで位置を変える。
- 弦楽器アンサンブル/オーケストラ: 配置はMSやORTF、若しくは複数のステレオペアを用いて全体像と局所のバランスを取る。近接マイクはソロやセクションに限定。
位相・位相反転の検査と解決法
位相問題の典型は薄いドラムサウンドや中央が不明瞭な録音です。チェック方法は個々のマイクをオン/オフして比較、あるいは位相反転スイッチで音が太くなるか薄くなるかを確認します。時間整合(プラグインでサンプル単位の遅延調整)を行えば打ち消しを補正できます。位相の扱いは耳を最終判断器にすることが重要です。
ルームアコースティックとマイク配置の関係
部屋の反射は望ましい場合と望ましくない場合があります。ライブ感や自然な残響を取り込みたい場合はルームマイクを用いて距離を取り、直接音とブレンドします。不要な反射やフラッターエコーがある場合は吸音や拡散を使用して制御します。RT60(残響時間)はジャンルによって最適値が異なり、ポップスやロックでは短め、クラシックやアンサンブルでは長めが好まれる傾向があります。
テクニカルな注意点と機材運用
- マイクとプリアンプのインピーダンス整合、ゲイン設定、PADやハイパスの正しい活用。
- リボンマイクは古典的なパッシブ型だとファントムで損傷する恐れがあるため注意し、現代のアクティブリボンは仕様確認を。
- ケーブルの取り回しでループを作らない、グラウンドループによるノイズ対策。
- マルチマイク環境では必ずステレオでモノチェック(片チャンネルをミュートする)と位相チェックを行う。
実践チェックリスト(収録前)
- 目的を明確にする(直接音重視かルーム感重視か)。
- 主要マイクの指向性とロールオフの確認。
- 初期配置から少しずつ動かしながらA/Bで比較。
- 位相チェック(オン/オフ、反転)と時間整合の準備。
- ヘッドフォンでのモニタリングと、ルームでもスピーカーで最終確認。
まとめ:理論と耳のバランス
拾音配置は物理的・電気的な原理に基づく科学ですが、最終的には耳での判断とクリエイティブな目的に従います。基本ルールを理解しつつ、実際にマイクを動かして聴き比べ、位相や周波数バランスを整えることで、狙ったサウンドを確実に得られます。
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参考文献
- Shure - Microphone polar patterns
- Sound On Sound - Microphone Techniques Guide
- Wikipedia - Mid-side stereo recording
- Wikipedia - Blumlein pair
- Wikipedia - ORTF stereophonic technique


