デジタル24トラックレコーダー完全ガイド:歴史・技術・制作での活用法と選び方
はじめに — デジタル24トラックとは何か
「デジタル24トラックレコーダー」とは、同時に24トラック(チャンネル)のオーディオをデジタルで記録・再生できる機器またはシステムを指します。かつては大型スタジオ向けの磁気テープベース機器が主流でしたが、現在はハードディスク/フラッシュベースのスタンドアロンレコーダーや、複数の入出力を持つオーディオ・インターフェイス+DAW(デジタル・オーディオ・ワークステーション)によって実現されることが一般的です。本稿では歴史的背景、技術的基礎、現場での使い方、運用上の注意点、選び方までを詳しく解説します。
歴史とフォーマットの変遷
マルチトラック録音はアナログ磁気テープ時代から始まり、24トラックのアナログテープは1960〜70年代にプロスタジオで標準となりました。1980年代以降、デジタル化の波が押し寄せ、プロ用のデジタルマルチトラック機(テープベースのDASHなど)や、AlesisのADATのようなテープベース8トラック機を同期させて24トラック相当を作る方式が登場しました。
1990年代後半からはハードディスクレコーディングが普及し、コンピュータに直接多チャネル録音・編集するDAWが主流に。これにより筐体単体で24トラックを持つスタンドアロン機(例:ハードディスクを使った24トラックレコーダー)や、オーディオインターフェイス+DAWで同等以上のトラック数を扱う環境が一般化しました。
24トラックに求められる技術的要素
- サンプリング周波数とビット深度 — 録音の解像度はサンプリング周波数(44.1kHz、48kHz、96kHzなど)とビット深度(16bit、24bitなど)で決まります。プロ用途では24bit/48kHz以上が一般的です。
- クロック(ワードクロック)と同期 — 複数のデジタル機器や複数台のレコーダーを正しく同期させるために、安定したワードクロックが不可欠です。クロック不整合はジッターや位相ずれを引き起こします。
- タイムコード(SMPTE) — マルチトラック編集や映像同期が必要な場合、SMPTEタイムコードによる位置指定・ロケーション管理が重要です。
- I/Oフォーマット — ADAT(光)、AES/EBU、SPDIF、MADI、アナログTRS/XLRなど、入出力規格の互換性を確認することが必要です。
- ストレージとスループット — 24トラックを高サンプルレート/高ビット深度で同時録音するとデータ帯域・容量が大きくなるため、高速なドライブと転送路が求められます。
ワークフロー:録音からミックスまでの実務
24トラックを扱う制作フローは、以下のような段階に分かれます。
- レックチェックとゲイン設定 — 事前に各入力のゲインとヘッドルームを確認し、クリッピングを避けつつノイズを抑えます。24bit録音では適切なレベル管理が重要です。
- シグナルフローの確立 — マイク→プリ→コンプ/EQ→ADC(A/D変換)→トラックという経路を明確にし、インサート/バスの配分を決めます。
- 同期とタイムコード運用 — テイクの位置管理、複数マシンや外部機器との同期にはSMPTEやワードクロックを使用します。
- オーバーダビングとパンチイン — 必要に応じて部分的に録り直すパンチインや、同一トラックへの複数テイク録音(テイクコンピング)を行います。
- 編集とクリーンアップ — クリック除去、ノイズゲート、タイムアライメント(ドラムの位相合わせ等)、リージョンの切り貼りを行います。
- ミックスダウン — 24トラックをステレオ、またはマルチチャンネルにまとめる工程。バス、グループ、リターン、マスターバスでの処理が重要です。
- マスタリング準備 — フェードイン/アウト、ラウドネス調整、必要に応じたフォーマット変換(サンプルレート・ビット深度変換、ディザリング)を行います。
スタンドアロン24トラック機のメリット・デメリット
- メリット
- コンピュータ依存が少なく、安定したスタンドアロン運用ができる
- ライブ収録やリモートレコーディングでの運用が容易
- セットアップがシンプルで、オフライン事故が少ない
- デメリット
- 編集機能やプラグイン処理は限定的で、後処理はDAWに移行する必要が生じる場合がある
- 機能とコストのバランスがコンピュータ+インターフェイスに劣る場合がある
DAW+インターフェイスで24トラックを実現する場合
今日のプロダクションでは、24トラックはDAWとオーディオインターフェイスで簡単に扱えます。ポイントは以下です。
- 同時録音可能な入力数(フロントマイクイン、ADAT拡張、Thunderbolt/USB/PCIeなどの接続方式)を確認する
- レイテンシー管理 — モニタリング遅延が気になる場合は、ハードウェアのダイレクトモニター機能や低レイテンシー設定を使用する
- バックアップ体制 — レコーディング中のドライブ障害に備え、冗長記録や定期的なバックアップを行う
実践的なトラブルと対処法
- クロックの不一致 — 違和感のある位相や音像のずれはワードクロックマスターを一台に定め、他機器はスレーブにすることで解決する。
- ドロップアウトやドライブ遅延 — ドライブの健康状態チェック、ファイルシステムの最適化、専用RAIDやSSDの採用で信頼性を上げる。
- レイテンシーによる演奏支障 — 低レイテンシードライバ(ASIO等)やアナログダイレクトモニタリングを活用する。
選び方のポイント(用途別)
- スタジオ制作中心 — 高品質プリアンプ、豊富な入出力、DAWとの統合性、安定したクロックが重要。
- ライブ収録/ロケーション — ポータビリティ、堅牢性、バッテリー駆動やスタンドアロン録音機能が有利。
- 予算重視のホームスタジオ — オーディオインターフェイス+DAWでの拡張性(ADATなど)を重視するとコストパフォーマンスが良い。
今後の展望
クラウド録音やネットワークオーディオ(Dante、AVBなど)、高解像度オーディオの普及により、物理的な24トラックの概念はより柔軟になっています。スタンドアロン機の需要は特定のワークフローや信頼性を求める現場で残りつつ、多くの制作現場はネットワーク化・ソフトウェア重視へと移行しています。
まとめ
デジタル24トラックレコーダーは、「同時に24チャンネルを確実に録れること」という実務的要件を満たすための技術と運用ノウハウの集合体です。機材選定では入出力、クロック、ストレージ、編集機能、そして使用環境(スタジオ、ライブ、ロケ)を総合的に判断してください。適切な設計と運用により、24トラックは強力な制作基盤となります。
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参考文献
- Multitrack recording — Wikipedia
- Alesis ADAT — Wikipedia
- Digital audio workstation — Wikipedia
- Sample rate — Wikipedia
- Word clock — Wikipedia
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