低遅延イヤホン完全ガイド:音楽制作・プレイに必要な知識と選び方
音楽制作・リスニングにおける「低遅延イヤホン」とは
「低遅延イヤホン」とは、音声信号の再生開始までに発生する時間差(レイテンシ、遅延)が極力小さくなるよう設計・仕様されたイヤホンの総称です。特に音楽制作や歌唱、楽器演奏中のモニタリング、ゲームや動画の音声と映像の同期を重視するリスナーにとって、遅延は致命的になり得ます。本稿では、遅延の発生要因、測定方法、主要コーデック別の特徴、実際の利用シーンごとの最適解、設定と運用のコツ、そして購入時のチェックポイントまで詳しく解説します。
なぜ遅延が発生するのか:音の通り道を理解する
遅延は単一の要素で決まるわけではなく、音声信号が端末からイヤホンまで到達する間の各プロセスで蓄積されます。主な要因は次の通りです。
- ソース側のバッファリングと処理:OSやアプリが一定量のサンプルをバッファしてから送信することで安定再生を狙う。
- エンコード/デコード処理:ワイヤレスでは送信側でエンコード、受信側でデコードが必要。コーデックの処理時間が影響する。
- ワイヤレス伝送のプロトコル遅延:Bluetoothのパケット化、送受信タイミング、再送やジッタバッファが加算される。
- イヤホン内部のデジタル処理:DSP(イコライザやノイズキャンセリング)による内部処理時間。
- 端末の入出力レイテンシ:USB-DAやオーディオインターフェース、ドライバの設定(バッファサイズ)など。
合計でこれらが十数ミリ秒から数百ミリ秒に及ぶことがあり、用途に応じて許容できる範囲が異なります。
体感される遅延の目安
感覚的にどれくらいの遅延だと問題になるかは用途で変わりますが、一般的な目安は次の通りです。
- 0〜10ms:基本的に知覚できない。音楽制作でのモニタリングや高精度なタイミング要求に適合。
- 10〜30ms:ほとんどのリスナーが許容できるが、音声・映像同期や演奏モニタリングではわずかに違和感が出る場合がある。
- 30〜80ms:音の遅れが明瞭になり始め、歌や楽器のモニタリング、リズムの取り方に影響を与えることがある。
- 80ms以上:音ズレが明らか。ゲームや動画視聴でも映像との不一致が目立つ。
演奏者やボーカリストなどリアルタイム性を求める用途では、できるだけ10ms前後を目指すべきです。
主要ワイヤレスコーデックの特徴(概略)
ワイヤレスイヤホンを選ぶ上でコーデックは重要です。ここでは代表的なものの特徴を整理します。数値は理論・公称値やレビュー測定の結果を踏まえた一般的な傾向であり、実測は端末や実装によって変動します。
- SBC:Bluetoothの標準コーデック。互換性は高いが遅延が大きくなりやすい。実測で100〜200ms程度になることが多い。
- AAC:Apple製品での互換性が良好。Android端末では実装差があり、遅延は変動。SBCと同等かやや改善されるケースがあるが、必ずしも低遅延とは限らない。
- aptX / aptX HD:Qualcomm系のコーデック。aptXはSBCより低遅延傾向。aptX Low Latency(aptX LL)は低遅延を意識して設計され、送受信機器双方が対応すれば公称で約40ms程度の低遅延を実現することが多い。
- aptX Adaptive:ビットレートと遅延を動的に調整する。低遅延モードにすると遅延が下がるが、実効値は状況依存。
- LDAC:Sonyが提唱する高音質コーデック。高ビットレートモードでは遅延が大きくなる傾向がある。低遅延志向ではないが、モードによっては改善される。
- LC3(Bluetooth LE Audio):新しいLE Audioで採用されるコーデック。設計目標に低遅延化が含まれており、将来的に低遅延製品が増えることが期待されているが、実際の性能は実装次第。
重要なのは、端末(送信側)とイヤホン(受信側)が同じ低遅延コーデックに対応していなければ意味がない点です。メーカーの公表値も「理想条件下の公称値」であることが多いので注意してください。
測定方法:正確にレイテンシを測るには
遅延を数値で把握するための代表的な測定手法は次の通りです。
- ループバック法(オーディオインターフェースとマイクを使う):DAWからトーンを出力し、イヤホンの出力をマイクやライン入力で取り込み、波形の差から遅延を算出する。
- 光学/機械トリガー法:スピーカーにトリガー音を置き、同時にカメラの映像やLEDで検出して映像と音のズレを比較する方法。
- 専用計測ソフト・アプリ:一部のサイトやアプリではBluetoothイヤホンの往復遅延を測定する機能を提供している。ただし精度は環境に依存する。
実測の際はノイズキャンセリングやイコライザーなどのDSP処理をオフにし、測定条件を統一することが重要です。
制作現場での実用的な運用方針
音楽制作やライブでのモニタリング用途では、ワイヤレスは原則避けるのが鉄則です。可能であれば次の選択肢を優先してください。
- 有線モニタリング:有線接続は最も低レイテンシで安定。オーディオインターフェースの直接出力やインイヤーモニター(IEM)を用いる。
- 直接モニタリング:レイテンシが発生する前にインターフェース内で信号を分岐して返す機能。録音時の遅延感を解消できる。
- 低遅延専用トランスミッタ:ワイヤレスをどうしても使う場合、aptX LL対応のUSBトランスミッタなど送信機を用いることで遅延を最小化できる。
ボーカルや楽器のリアルタイム演奏では、ワイヤレスイヤホンの遅延が演奏に影響するため、直接モニタリングや有線IEMが推奨されます。
一般リスナー/ゲーム用途での実践テクニック
ゲームや動画視聴での映像音声のズレ対策は次のアプローチが有効です。
- 低遅延モードを有効化:ゲーミングイヤホンやヘッドセットに搭載される「低遅延モード」を使う。多くは接続機器側でも対応が必要。
- コーデックの確認:使用中の端末がaptX LLや低遅延モードをサポートするかチェック。
- 有線接続の検討:USB-C→3.5mmアダプタや有線ヘッドホン端子が利用できるなら最も確実。
- 別売りドングルの活用:PCやゲーム機用の低遅延専用トランスミッタを使うと改善することがある。
イヤホンの仕様表でチェックすべきポイント
購入前に確認する項目としては以下を優先してください。
- 対応コーデック(送信機側も含めて):aptX LL、aptX Adaptive、AAC、LDAC、LC3など。
- メーカー公表の遅延値:公称値は参考にするが、独立評価のレビューも確認する。
- 遅延低減モードの有無と設定方法:アプリから切替可能か。
- 同期機能やゲーミングモードの有無:映像との同期を重視する機能。
- ファームウェア更新の有無:メーカーが遅延改善のアップデートを配布する場合がある。
よくある誤解と留意点
- 「高価=低遅延」ではない:価格が高くてもコーデックや実装次第で遅延は解消されない。
- 端末側の対応が不可欠:イヤホンが低遅延対応でも、スマホやPC側が対応していなければ効果は得られない。
- ノイズキャンセリングは遅延を増やすことがある:ANCやマルチマイク処理は追加のDSP処理を必要とし、遅延に影響する。
まとめ:用途別の推奨方針
・音楽制作・録音:有線 + 直接モニタリングがベスト。ワイヤレスは最終チェック用に限定。
・ライブ/ステージ:専用ワイヤレスIEMシステム(プロ用)は低遅延を前提に設計されているため有力。市販のBluetooth製品は注意が必要。
・ゲーム・動画視聴:aptX LL対応機器や低遅延モード、専用ドングルを検討。有線が可能なら優先。
・日常の音楽リスニング:音質重視ならLDACや高ビットレートコーデック、低遅延を重視するならaptX LLやLC3対応製品を検討。
購入時のチェックリスト
- 自分の利用機器が対応するコーデックを確認する。
- メーカー公称値だけでなく第三者のレビューで実測値を確認する。
- ファームウェア更新やサポート体制を確認する。
- 実店舗で試聴できるなら、実際に映像同期や簡単なモニタリングを試す。
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参考文献
- Qualcomm: aptX Low Latency
- Bluetooth SIG: LE Audio and LC3
- Sony: LDAC Technology
- RTINGS: Latency & Audio Delays Explained
- SoundGuys: Audio latency guide
- Sound On Sound: Latency and monitoring in DAWs


