ワウワウ(Wah-Wah)の歴史・仕組み・奏法を徹底解説 — ギター/金管からペダルまでの深掘りコラム
はじめに:ワウワウとは何か
ワウワウ(Wah-Wah)は、音色の中心周波数を人の声の「ワウ」というような揺らぎに似せて変化させるエフェクトや奏法、あるいはその効果を生む機材を指します。もともとは金管楽器のミュート(特にプランジャーやハーモンミュート)による奏法から生まれ、その後エレクトリック楽器向けに電子的に再現されたワウ・ペダル(ワウ・ワウ・ペダル)が1960年代に登場して以降、ロック、ファンク、ジャズ、ソウル、メタルなど幅広いジャンルで活用されてきました。
歴史的背景:金管のミュートからエレクトロニクスへ
「ワウワウ」の語源は実演に由来します。1920年代〜30年代のジャズにおいて、トランペット奏者がプランジャー(バケツ型や皿形のプランジャー)を使ってミュートを動かすことで生まれる、哀愁を帯びた音色変化が“wah”と表現されました。ババ・ライリーやCootie Williams、Bubber Mileyといった奏者たちがプランジャー・ミュートを駆使して表現を拡張しました。
エレクトリック楽器向けに機械的/電子的に同様の変化を再現しようという試みは1960年代に実を結びます。足で操作する踏み板型のワウ・ペダルは、ギターの音色の中心周波数を踏み位置に応じて連続的に変化させ、プランジャー・ミュートの動きを模倣しました。60年代後半には商用製品が登場し、ヴィンテージ機種は今も高い評価を受けています。
主な商用モデルとその影響
ワウの歴史において象徴的なモデルとしては、初期のボックス型やVoxの系譜に連なるモデル、そしてCry Babyのような定番ペダルがあります。これらは演奏者にとって使いやすいフット操作と独特のフィルター・キャラクターを提供し、多くの名演奏で聴かれる音色を生み出しました。ジミ・ヘンドリックスやエリック・クラプトン、ジミー・ペイジ、カーク・ハメットらがワウを積極的に取り入れて、サウンドのイメージを決定づけました。
ワウの原理:回路と音響学の観点から
ワウ・ペダルの核となるのは、可変中心周波数をもつ共鳴型バンドパス(あるいはピークのあるフィルター)です。多くのアナログ・ワウはインダクタ、コンデンサ、抵抗(可変抵抗=ポテンショメータ)を組み合わせた回路で、ポテンショメータの位置(踏み板の角度)によりフィルターの共振周波数を低域から高域へ連続的にスイープします。その結果、特定の周波数帯域の増幅(ピーク)が移動し、人の声のような「ワウ」効果が生じます。
簡単に手順を追うと、ギターの信号は入力バッファやバッファリング回路で適切なインピーダンスに整えられ、フィルター部(インダクタ+コンデンサ+ポット)を通過して出力されます。初期の回路は真空管やトランジスタ、コイル(インダクタ)を用いることが多く、現代の製品ではオペアンプやICを使って小型化・安定化されています。Q(共振の鋭さ)やゲイン、バイパス方式(トゥルーバイパス/バッファードバイパス)といった設計上の違いが音色や使い勝手に大きく影響します。
演奏テクニック:基礎から応用まで
ワウは単に踏むだけのエフェクトではなく、奏者のタッチやリズム感、足の動かし方で多彩な表情を生みます。基本となる動作は、ヒール(かかと)側でローにし、トウ(つま先)側に踏み込むことでハイにスイープする方法です。代表的なテクニックは以下の通りです。
- ヒール→トウのワンストローク:ソロのイントロやフレーズのアクセントに使う。
- クイック・スウィープ(ヒール→トウを短く):ピッキングの瞬間に合わせて掛けると「しゃくる」ような効果に。
- オートワウ風の反復:同じフレーズを踏み位置を往復させながら繰り返し、震えるようなリズムを作る。
- 踏み位置での固定:特定の位置に止めてイコライザ的に音色を固定し、ソロの帯域を強調する。
- ワウ+ペダル・アクション:ワウとボリュームペダルやエクスプレッションを併用し、よりダイナミックな表現を実現。
ジャンル別の使われ方と名演例
ワウはジャンルによって使われ方が大きく異なります。ファンクではリズミカルに刻むためのスウィープが多用され、ギターよりもベースや鍵盤でエンベロープ的に使われることもあります。ロックやサイケデリック・ロックではソロの表情付けやトーンの宇宙的変化に使われ、メタルでは歪みの強いリードトーンをさらにシャープに演出するために重宝されます。ジミ・ヘンドリックスの『Voodoo Child (Slight Return)』のワウや、クラプトンやペイジのワウを活かした名演はその代表例として挙げられます。
機材的な選び方と接続・配置のコツ
ワウ・ペダルを選ぶ際は、以下の点をチェックしてください:
- フィルターのキャラクター(ローミッド寄りかハイ寄りか、Qの強さ)
- トゥルーバイパスかバッファードか(信号の劣化・ノイズ対策)
- 耐久性と踏み心地(踏み板の滑りにくさ、角度範囲)
- 内部回路の設計(オリジナルのインダクタを使ったタイプか、ICベースか)
接続の順番(エフェクトチェイン)については定石はあるものの、サウンドの好みで変わります。一般的にはワウはオーバードライブやファズの前に置くことが多く(ペダル→歪み→アンプ)、これはピッキングの倍音をフィルターで整えてから歪ませることで、より生々しく「しゃくる」印象が得られるためです。一方で、ワウを歪みの後ろに置くと、フィルターが既に歪んだ信号を整形するため、より「歌う」ようなリードトーンになります。どちらが正解というより目的に応じて試してみることが重要です。
派生エフェクトと現代的発展
ワウの概念はそのまま電子的な波形フィルターや自動制御に応用され、オートワウ(エンベロープ・フィルタ)やシンセ系フィルター、デジタル・ワウ(モデリング)へと発展しました。オートワウは入力のアタックに反応してフィルターが動くため、手を使わずにワウ的な効果を得られ、ファンク系のリズム奏法で多用されます。さらに最近はMIDI/エクスプレッションで制御できるモデルや、複数のQや周波数帯域を切り替えられる高機能ペダルも登場しています。
カスタム/改造の楽しみ方
ワウは改造の余地が大きいエフェクトでもあります。内部のインダクタ交換やQコントロールの追加、トゥルーバイパス化、レンジの切り替えスイッチ、スイープ方向の反転スイッチなど、回路やパーツを変えることで音色の幅が格段に広がります。ヴィンテージ機の風合いを再現するために特定のコイルやコンデンサを採用する改造も人気です。
保守・メンテナンスのポイント
機械的に踏むペダルであるため、可動部のグリスアップやポテンショメータのガリ(接触不良)対策は重要です。電池駆動のモデルは電池液漏れに注意し、長期保管時は電池を抜くことをおすすめします。接続端子やスイッチの接触不良は接点復活剤で改善することが多いですが、根本的な不具合は専門店での修理が安心です。
まとめ:ワウワウは表現の拡張装置
ワウワウは単なるエフェクト以上のもので、奏者の感性を足元でダイレクトに表現するツールです。歴史的には金管楽器のミュート奏法にルーツを持ち、電子工学の応用でギターや電気楽器の標準的な表現手段となりました。回路設計、演奏テクニック、機材選び、改造のいずれも深い楽しみがあり、目的やジャンルに応じて多彩な使い方が可能です。初めて使う人は基本的な踏み方とオン/オフの位置を覚えるだけでも表現の幅が広がりますし、上級者はQやスイープの細かな違いで個性を作り込むことができます。
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参考文献
- Wikipedia:ワウ・ペダル(日本語)
- Wikipedia: Wah-wah pedal (English)
- Reverb: The History of the Wah Pedal
- Dunlop (Cry Baby) 製品ページ
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