クローズマイク徹底ガイド:録音とライブで活かす技術・機材・実践テクニック
クローズマイクとは何か — 基本定義と歴史的背景
クローズマイク(クローズ・マイキング、スポットマイキングとも呼ばれる)は、音源に対して近接してマイクを配置して録音や増幅を行う技術を指します。一般的には音源から数センチ〜数十センチ程度の距離でマイクを置き、音の直接成分を強調して室内反射や他の楽器の漏れ(リーケージ)を抑えることを目的とします。録音スタジオだけでなくライブPAでも広く使われ、20世紀半ば以降、放送・録音技術の発展とともに重要性を増してきました。クローズマイクは、音のコントロール性、ゲイン確保、ノイズやフィードバックへの耐性が求められる現場で特に有用です。
利点と欠点 — いつ使うべきか
- 利点
- 音源の分離性が高く、個別トラックの処理(EQ・コンプ・パン)がしやすい。
- 部屋の音や他楽器の漏れを抑えられるため、ミックス上での自由度が増す。
- ライブ時にゲインを稼ぎやすく、フィードバック耐性も向上する。
- ダイナミックレンジの大きな音(ドラム、ギターアンプ等)でも適切なマイクを使えばクリアに拾える。
- 欠点
- 近接による「ドライ」な音になりやすく、部屋の空気感や自然な広がりが失われる。
- 近接効果(プロキシミティー効果)により低域が強調され、過剰になることがある。
- 複数の近接マイクを組み合わせると位相キャンセルや位相干渉が生じやすい。
マイクの種類と特性の選び方
クローズマイクで重要なのはマイクの変換方式と指向性です。
- ダイナミックマイク — 耐入力が高く、ライブやアンプ、ドラムに多用されます。定番はShure SM57やSM58で、耐久性と音の切れ味が特徴。
- コンデンサーマイク(大口径/小口径) — 大口径はボーカル向けに暖かさと存在感を与えやすく、小口径はトランジェント(立ち上がり)や高域の分解能に優れるためアコースティック楽器やスネアのトップに適します。
- リボンマイク — 自然で滑らかな高域特性を持ち、ギターキャビネットやブラスの近接でリッチな中高域を得られます。ただし古典的なリボンはファントム電源に弱いので注意が必要です。
指向性では、カーディオイドやハイパーカーディオイドがクローズマイクの定番です。狭い拾い方ができて他の音の漏れを抑えますが、後方に感度のあるパターン(ハイパーは後方の小さなローブ)を持つことがあるため配置には注意が必要です。一方、真のオムニ(無指向性)マイクは近接効果がほとんどなく自然な低域を失わないため、近接で使う場合は特性を活かしたサウンドが得られます。
プロキシミティー効果(近接効果)の理解と対処
プロキシミティー効果とは、圧力差型(プレッシャーグラディエント)マイクで音源に近づくほど低域(ベース周波数)が増強される現象です。これはカーディオイドやフィギュア8等の指向性マイクで顕著で、オムニには基本的に起こりません。ボーカルで近接効果を利用して太い低域を作ることもあれば、不必要な濁りを避けるために距離を取ったりハイパスフィルター(80–120Hz程度)を使ったりすることもあります。
位相とマイク配置の実践ルール
複数の近接マイクを同時に使う場合、位相干渉による凹みやピークが発生しやすいです。一般的な経験則として「3:1ルール」があり、マイクAと音源距離が1ならマイクBとAの距離は少なくとも3倍にすることで位相干渉を軽減できます。ただしこれは万能ではなく、実際は耳で確認して位相反転や時間調整(ディレイ)で微調整するのが安全です。ドラムではスネア上のトップマイクとボトムマイクで位相が逆になりがちなので、極性反転で確認することが一般的です。
楽器別:クローズマイクの具体的配置とコツ
- ボーカル
- 距離:2–15cmが目安。近いほど低域・存在感が増す。
- ポップノイズ対策:ポップフィルターを用いる。特に口元2–10cmに配置。
- 指向性:カーディオイドが定番。ハイパーカーディオイドはステージノイズを避けたい場合に有効だが、モニターとの関係でフィードバックが出やすい。
- アコースティックギター
- 12フレット付近を12–25cm離して置くとバランスの良いサウンドが得られる。サウンドホール寄りだと低域が増える。
- 小径コンデンサーを近接で使うと弦のアタックが鮮明に録れる。
- エレクトリックギターアンプ
- スピーカーのセンターに近いほど高域成分が強く、エッジに寄せるとまったりした音に。距離は0–10cm。
- SM57系ダイナミックを中心に、リボンやコンデンサを併用して混ぜることで質感を作る。
- スネア/タム
- スネアトップ:2–5cm、角度を付けてスティックの位置を避ける。スネアボトムは位相関係に注意して極性を確認。
- タム:3–10cm上方でヘッド中心よりやや外側を狙う。
- キック(バスドラム)
- 外側と内側で音色が大きく変わる。内側はビート感、外側(ポートの外)は低域の重みを拾う。マイクはヘッドに数cmから数十cm程度。
- ブラス/弦楽器
- ブラスは10–30cm離すことが多く、鋭いアタックを抑えたい場合はややオフアクシスにする。弦楽器は楽器のfホールや肩付近を10–30cmで試す。
録音後の処理:EQ・コンプと位相補正
クローズマイクで拾った素材は処理がしやすい反面、近接効果による低域の過剰や不要なボディ感、あるいはスナッピーな高域が出ることがあります。一般的な処方箋は以下の通りです。
- ハイパスフィルターで不要な低域(床ノイズやマイクハンドリング)を除去(ボーカルなら80–120Hz、楽器に応じて調整)。
- 2–5kHz帯域のブーストでアタックや存在感を出すが、過度なブーストは耳障りになるため注意。
- 必要ならマルチバンドコンプやダ・エッサーを使ってs音や過剰な帯域を抑える。
- 複数のマイクを混ぜる際は、位相アラインメントをチェックし、タイムディレイやサンプル単位でのシフト、極性反転で最適化する。
ライブとスタジオでの運用の違い
ライブではクローズマイクが持つ分離性とゲインの利点が特に重要です。ただしステージモニターとフロントスピーカーからのフィードバック経路を常に意識する必要があります。スタジオでは反対に、クローズマイクで得たドライな音にルームマイクやリバーブを加えて「空間」を作る手法が一般的です。近接で録った素材にリアルなルーム音を重ねることで、コントロールしやすく自然な広がりを実現できます。
実践的なチェックリスト
- マイクの指向性と後方ローブの存在を確認する(ハイパーは後方に感度がある)。
- 近接効果を意図的に使うか、ハイパスで除去するかを決める。
- 複数マイク時は必ず位相をチェック。3:1ルールは出発点に過ぎない。
- ポップノイズ、ラックノイズ、振動対策としてポップフィルターやショックマウントを活用する。
- スピーカーやモニターとの相互作用(フィードバック)を意識してマイクゲインを設定する。
まとめ:クローズマイクを使いこなすための心構え
クローズマイクは音作りにおいて非常に強力な手段です。分離とコントロール性を得られる反面、近接効果や位相問題、ドライな響きという課題もあります。最良の結果を出すには、マイクの特性を理解し、耳で確かめながら微妙な距離や角度を調整し、必要に応じてルームマイクやエフェクトで空間性を補うことが肝要です。テクニックを知るだけでなく、実際に試して経験値を貯めることが最終的な上達の近道です。
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参考文献
- Shure: Microphone Basics
- Sound on Sound: Close-miking techniques for drums, guitar & vocals
- Wikipedia: Microphone technique
- Audio Engineering Society (AES) — 技術資料
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