楽器別マイキング完全ガイド:録音で差が出る実践テクニックと機材選び

楽器別マイキングの概要と基本原則

マイキング(マイクの配置)は録音の音質に直結する工程です。楽器や演奏環境によって理想的な音像は変わるため、波形レベルの調整だけでは解決できない音の性質(定位、ニュアンス、残響感、アタック感など)をマイク選びと配置で作ります。ここではマイクの指向性、周波数特性、距離や角度、位相関係、ゲイン構成といった基礎を押さえつつ、楽器別に実践的な配置例と注意点を深掘りします。

マイクの基本と信号経路の注意点

  • 指向性:カーディオイド、スーパーカーディオイド、オムニ、フィギュアエイトはそれぞれ拾う音像が異なります。部屋鳴りを含めた空気感が欲しいならオムニ、不要な音源を避けたいならカーディオイドやスーパーカーディオイドを選びます。
  • 感度と周波数特性:ダイナミックは高音域が控えめで高音耐入力に強い。コンデンサーは広帯域でニュアンスを拾いやすい。リボンは滑らかな高域と自然な中域が特徴。
  • プレシグナル処理:ハイパス(低域カット)やPAD(-10~-20dB)は現場での使い勝手を大きく左右します。低域の不要なブーミーをハイパスで軽減、強い打撃音にはPADを使うと歪みを防げます。
  • ゲイン構成:マイク→プリアンプ→A/Dの順で最適ゲインを設定。ノイズフロアとヘッドルームのバランスを保つことが重要です。
  • 位相と複数マイクの配置:複数マイクを使う際は位相(フェーズ)に注意。3:1ルール(近接マイク間は距離比を1:3以上に)やタイムアライメント、位相反転チェックを必ず行ってください。

ドラムのマイキング

ドラムはキック、スネア、ハイハット、タム、オーバーヘッド(シンバル)およびルームマイクの組み合わせが基本です。個別マイクの役割を理解するとミックスでの処理がやりやすくなります。

  • キック:専用キックマイク(低域増強型)を使用。ポートがある場合はバスドラム内のヘッド近く(ビータ側から数センチ~数十センチ)に内側マイクを入れるか、ポートから外側に1~5インチ(目安)で置く。アタック重視なら前面よりもビータ位置寄りに、低域重視ならややセンター/後方に。
  • スネア:トップにカーディオイド(ダイナミックやコンデンサー)をライドしてヘッドから2–8cm程度、斜めに向けて。ボトムにもマイクを置き、位相確認して位相が合うように微調整する。スナップ(アタック)を得たい場合はヘッドに近づける。
  • タム:ダイナミックマイクを各タムにヘッドから数センチの斜め配置。複数タムを同時に拾う距離があると位相問題が生じやすいので、3:1ルールを心掛けるか、タイムアライメントで補正。
  • オーバーヘッド/シンバル:ステレオペア(XY、ORTF、スぺースドペア)で設置。XYは位相安定で定位がクリア、ORTFは広がりが良い。配置高さは演奏の音量やルームの響きで調整(30–100cm以上など)。
  • ハイハット:近接の小型コンデンサーやダイナミックを使用し、トップかやや斜めから10–30cmを目安に。漏れを減らすため角度でシンバルの向きを外すとよい。
  • ルームマイク:楽曲の空気感・定位に有効。スネアやオーバーヘッドとブレンドして全体の自然度を調整する。

ベース(エレキ/アコースティック)のマイキング

低域はラウドネスや体感に影響するため、マイキングとDI(ダイレクト)を併用することが多いです。

  • アンプ+マイク:ダイナミックやリボン(Royerなど)は暖かく自然な中域を捉えられる。スピーカーのダストキャップ寄りはアタック、コーンのエッジ寄りは低域と中域のバランスが良い。近接0–5cmや数インチでトーンを決める。
  • DI:クリーンさや低域の安定感のためにDIを同時に録る。マイク信号とDIをフェーダーでブレンドするとヘッドルーム感とアタックの両取りができる。
  • アコースティックベース:楽器のFホール付近や指板側をコンデンサーで拾う。必要に応じてアンビエンスマイクを追加。

エレキギターのマイキング

ギターキャビネットは小さな変化で音色が大きく変わります。マイキング位置でアタック感・中域の存在感・低域の厚みをコントロールします。

  • スピーカー中央(ダストキャップ)寄り:アタックと明瞭度が増す。
  • コーンのエッジ寄り:丸みと太さが出る。
  • 角度と距離:マイクを斜めに傾けると高域の刺激が抑えられる。近接で密な音、距離を取るとキャビネットと部屋の鳴りが加わる。
  • マイク種類:SM57(ダイナミック)は定番。リボンは中域が豊かで硬さを和らげる。コンデンサーで高域のディテールを補う場合もある。

アコースティックギターのマイキング

アコギはボディと弦の複合音源です。音のバランスと弦の明瞭さ、ボディの低域をどう拾うかがポイント。

  • 12フレット付近(約10–30cm、斜め):弦の明瞭さとボディの立ち上がりがバランス良く取れる定番ポジション。
  • サウンドホール付近は低域が強くなるため、直接配置はブーミーになりやすい。もし使うなら少しオフセットする。
  • ステレオ収録:XYやORTF、小口径コンデンサーペアで立体感を出す。

ピアノのマイキング

ピアノは楽曲内で役割が多様なので、目的に応じたマイク手法を選びます。ポップ/ロックでは近接ペア+ルーム、クラシックではステレオメイン(ORTF、A-B、Decca Treeなど)にルームを加えます。

  • ハンマートーンを強調したければ弦の真上、低域を重視するならブリッジ寄りや胴の共鳴を狙う。
  • ステレオペアの高さと距離でステレオ幅とルーム感が決まる。近くに置くと明瞭、離すとまとまりと空間が得られる。

ボーカルのマイキング

ボーカル録音は感情表現の再現が最重要です。歌手の声質と楽曲ジャンルに合わせたマイクと配置が必要です。

  • 大口径コンデンサー(U87、C414等):ナチュラルで豊かな高域とディテール。ポップ/バラード向け。
  • ダイナミック(SM7B、RE20、SM58):高音が穏やかで放送やロックのライブ録音に強い。ポップフィルターとショックマウントでポップノイズを抑える。
  • 距離:5–20cmを基準に歌手のダイナミクスと声量に合わせる。近接効果(低域の増強)を利用する場合は低域処理も考える。
  • ハイパスとコンプレッション:ハイパスで不要低域を除去、適切なコンプはフレーズの安定に役立つが過度な圧縮は自然さを損なう。

管楽器・弦楽器のマイキング

各楽器の音の発生点(ベル、Fホール、ボウイングポイント)を意識して配置します。クラシックや吹奏楽ではアンサンブル全体のバランスが重要です。

  • トランペット/トロンボーン等:ベルの正面から少しオフセットして空気感と金属音のバランスを狙う。指向性の狭いマイクで不要な拡散音を抑える。
  • サックス/クラリネット:ベル付近やキーの近くを小口径コンデンサーで拾う。近接で息遣いが出るためポップ処理に注意。
  • 弦楽器(ヴァイオリン/チェロ):Fホール付近や指板側にコンデンサーを配置。室内楽ではステレオ配置で立体感を出す。

打楽器・パーカッションのマイキング

コンガ、ボンゴ、マリンバ、ティンパニ等は楽器ごとに特性が大きく異なるため、アタック(ヒット音)と胴鳴り(共鳴)を分けて考えるのが基本です。

  • ティンパニ:オムニやカーディオイドのコンデンサーを使用し、ヘッド上方や胴の側面で音程とアタックを調整。
  • コンガ/ボンゴ:ヘッドから数センチ〜数十センチ、角度を付けて配置。スネアのようにボトムとトップを分けることもある。

ステレオ収録テクニック(XY, ORTF, Spaced, Blumlein)

ステレオは定位感と空間再現に直結します。XYは位相安定でモノ互換に強く、ORTFは人間の聴感を模した広がり、スペースドペアは自然なルーム感を得やすい。Blumlein(フィギュアエイトペア)は環境の左右差を繊細に捉えます。録音目的に合わせて選択してください。

位相管理と3:1ルール

複数マイク使用時の位相問題は音像の薄さや低域の消失を招きます。3:1ルールは近接マイク間は一方のマイクと音源の距離の3倍以上離すことで位相被りを減らす経験則です。タイムアライメント(DAW上でのサンプル単位の微調整)やゲート/フィルタリングも有効です。録音中は位相反転スイッチで確認し、聴感でベターな方を選びます。

実践的ワークフローとチェックリスト

  • 1) 目的を明確にする(ソロのディテール重視かバンドの一体感重視か)。
  • 2) マイクの指向性と楽器の特性を照らし合わせて機材を選定。
  • 3) 仮配置→試し録り→モニタリングで位相やバランスを確認。
  • 4) 3:1ルールや距離を調整、必要ならルームマイクを追加。
  • 5) ゲインとPAD/ハイパスを設定し、頭出しとピークをチェック。
  • 6) 複数テイクで最終的なマイクポジションを決定。

よくあるミスとその対処法

  • 位相の無視:複数トラックを重ねた時に音が薄くなる場合、位相反転やタイムアライメントで解消。
  • 過度な近接:低域の過剰(ブーミー)にはハイパスやマイクを少し離す。
  • 部屋の影響を無視:ライブ感が欲しいならルームマイクを、不要なら吸音やバッフルで制御。

まとめ — 音作りは実験と耳が決め手

楽器別マイキングは「理論+実験」が不可欠です。上に挙げた各種配置・マイクの選択・位相対策は出発点に過ぎません。時間が許す限り複数の位置で試し録りを行い、DAWで比較して耳で判断するプロセスが最も確実です。最終的には曲の文脈や制作方針に沿った妥協点を見つけることが良い録音につながります。

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参考文献