トラップメタルとは何か:起源・音楽的特徴・主要アーティストと制作技法を徹底解説
序章:トラップメタルというジャンルの位置づけ
トラップメタル(trap metal)は、ヒップホップのサブジャンルであるトラップと、エクストリームなロック/メタル要素を融合した比較的新しい音楽潮流です。2010年代中盤以降、SoundCloudやYouTubeを中心としたネット発のシーンとして拡大し、強烈なビート感と過激なボーカル表現を特徴に多くの若手アーティストが注目を集めました。本稿では、起源・音楽的特徴・代表的アーティスト・制作手法・文化的背景・批評的視点までを可能な限り正確に整理します。
起源と歴史的背景
トラップメタルは、文字どおり「トラップ」と「メタル(あるいはハードコア)」の交差点で生まれました。トラップ自体は2000年代初頭にアトランタで発展したヒップホップの一形態で、808ベース、ハイハットの高速連打、シンコペーションの効いたリズムが特徴です。一方で、ラップとヘヴィミュージックの融合は以前から存在しており、1990年代後半〜2000年代のラップメタル/ニューメタル(例:Linkin Park、Limp Bizkit)や、メタルコアとラップの交流も先駆的でした。
トラップメタルが独自の潮流として認識され始めたのは2010年代中盤。ネット上でのDIYリリースを通じて、トラップのビート上にデスボイスやシャウト、ディストーションを多用したギター音、インダストリアルなサウンドを組み合わせるスタイルが拡がりました。代表的な初期の担い手としては、Scarlxrd(イギリス)、Ghostemane(アメリカ)、City Morgue(アメリカ)らが挙げられ、彼らの活躍によってジャンル名も一般に浸透していきました。
音楽的特徴(サウンドの要素)
- ビートとリズム:トラップ由来の808キックやサブベース、ハイハットのトリプレット/高速ロール、シンバルやスネアの打ち込みが基盤。これによりヒップホップ的なグルーヴが維持される。
- ギター/メタル的要素:ダウンチューニングされた歪んだギターリフ、パワーコード、メタル由来のブレイクダウンやモダンメタル的なリフ・アプローチが導入されることが多い。曲によってはブラストビートやダブルペダルのドラムパターンをサンプリングやプログラミングで再現する。
- ボーカル表現:ラップ・フローだけでなく、シャウト、デスボイス、グロウル、叫び声、そしてオートチューンを使った歌唱を組み合わせる。感情表現が極端で、怒り・絶望・憎悪といったテーマが掘り下げられる。
- サウンドデザイン:歪み(サチュレーション)、クリッピング、リバーブやディレイの過度な使用、産業的なノイズや環境音のサンプリングなどで暗く荒れた音像を作る傾向がある。
- 楽曲構成:短めで反復の強い構造(2〜4分)が多く、ラウドなサビやブレイクダウンでカタルシスを生む設計。ヒップホップ寄りのビート感とメタル的な緊張の波を交互に置くことが多い。
代表的アーティストとその役割
トラップメタルの拡大に寄与したアーティストには以下のような人物・グループがいます。各者がジャンルの異なる側面を強調し、シーンに多様性をもたらしました。
- Scarlxrd(スカールエックスアールディー):YouTubeやSNSで視覚的インパクトの強いミュージックビデオと共に人気を博したイギリス出身のアーティスト。ラップ出身ながら激しいシャウトと金切り声を多用し、ビートと金属的音響の合成を先導した。
- Ghostemane(ゴーストメイン):フロリダ出身。ブラックメタルやインダストリアル、ヒップホップを横断する作風で知られる。ダークでオカルティックなテーマや、ノイズ的アプローチを取り入れた作品が多い。アルバム『N/O/I/S/E』などで批評的注目を集めた。
- City Morgue(シティ・モーグ):ZillaKamiとSosMulaによるデュオ。ニューヨーク系のストリート感とメタル的な攻撃性を混ぜ合わせ、ハードコアやパンクのテイストも含む過激なサウンドを提示した。
- 周辺の重要人物:$uicideboy$やBones、Pouya、XXXTentacionといったSoundCloud世代のラッパーたちも、暗めの美学やメタリックなサウンドを導入することでトラップメタルの受け皿を広げた。
制作技法(プロダクション)
トラップメタルのプロダクションには、ヒップホップとメタル双方の技術的要素が混在します。以下は典型的な手法です。
- 808とギターの併存:低域を占める808サブベースと、ギターのローエンドがぶつかり合わないようにイコライジングで棲み分けを行う。サブはローを強調し、ギターはミッドレンジに置くのが一般的。
- 歪み処理:ギターのみならずボーカルやビートに過度の歪みやサチュレーションを加え、荒涼とした音像を作る。プラグインでのハードクリッピングやアンプシミュレーターの多用も特徴。
- ダイナミクスとリズム設計:ヒップホップ的にコンプレッションで音量を均一化しつつ、ドラムのスナップ感を強める。トラップのハイハットロールやスキップしたキックの配置がグルーヴを生む。
- サンプリングとノイズメイク:環境音、機械音、ノイズをレイヤーしてインダストリアルな質感を作る。ボーカルにディストーションやリングモジュレーションをかけることも多い。
歌詞・テーマとビジュアル表現
歌詞は従来のストリート志向のトラップとは異なり、抑うつ、自己破壊、内面的混乱、死やオカルト的テーマを扱うことが多い。ビジュアル面では黒を基調としたゴシックやパンク/ハードコア由来のファッション、マスクやフェイスペイント、VHS風の映像演出などが好まれ、インターネット世代のサブカルチャー的表現を強めています。
シーン形成と流通経路
トラップメタルはラジオやレコードショップではなく、SoundCloud、YouTube、Bandcamp、Spotify、SNSといったオンラインプラットフォームを通じて拡散しました。短尺の衝撃的なMVやライブ映像、ミーム化しやすいビジュアルがバイラルに寄与。ローカルなライブシーンも生まれ、メタルやハードコアの会場でヒップホップ由来の観客層が交わるようになっています。
批評と課題点
トラップメタルは革新的だという評価がある一方で、以下のような批判や課題も指摘されています。
- ジャンル混淆の一般化:ラベルとしての「トラップメタル」は便利だが、内部の多様性を見落としやすいという問題。
- メタル文化との摩擦:メタルの既存コミュニティからは、ヒップホップ的手法やネット発の作り方に対する反発や、文化的文脈の違いによる摩擦が生じることがある。
- 過激表現の倫理性:自己破壊的・暴力的テーマの表現は支持を得る一方で、模倣や過度なグラフィック表現への懸念もある。
制作に挑戦するための実践的アドバイス
トラップメタル風のトラックを作る際の基本的な流れとポイントを簡潔に示します。
- ビート作成:トラップの基本である808キック(サブ)を軸に、速いハイハットロールとスネアの強いバックビートを配置する。
- ギターの導入:ダウンチューニングしたギターで重たいリフを作り、アンプシミュレーターやオーバードライブで厚みを足す。EQでギターの低域を調整し、808と干渉しないようにする。
- ボーカル処理:シャウトやスクリームを収録したら、歪みやサチュレーション、コンプレッションで強調。オートチューンやピッチ補正を使ってメロディックな要素を加えることも可能。
- サウンドデザイン:ノイズや環境音、金属音などをレイヤーしてインダストリアルなテクスチャを作る。トランジションに逆再生やグリッチを使うと効果的。
- ミックス:低域の整理(ハイパスやローカット)、ステレオワイドな中高域の処理、マスタリングで音量を競合する他トラックに合わせる。
トラップメタルの今後と影響
トラップメタルはヒップホップとヘヴィミュージックの接続点を再定義し、若い世代の表現欲求に応えています。ジャンルとしての厳密な定義は流動的ですが、クロスオーバーの潮流自体は今後も続くでしょう。メタル、パンク、EDM、インダストリアル、ポップなど他ジャンルとの掛け合わせが進み、多様な形で進化していくと考えられます。
おすすめの聴き方(入門ガイド)
トラップメタルを初めて聴く際は、以下のポイントを押さえると理解が深まります。音響的な衝撃だけでなく、歌詞や映像表現、ライブの空間性にも注目してください。
- ヘッドフォンで低域の圧力感(808)とギターの重さを確認する。
- ボーカルの質感(クリーン/シャウト/グロウル)を比較して、アーティストごとの表現の違いを探る。
- ミュージックビデオやライブ映像を通してビジュアル表現と音楽性の結びつきを観察する。
結び:ジャンルとしての価値と注意点
トラップメタルはジャンル横断的な表現の一例として、現代の音楽シーンに新たな刺激を与えています。一方で、消費の速さや過激表現に伴う倫理的・文化的な問題も内包しており、聴き手や制作者はその文脈を理解した上で関わることが望まれます。音楽としての強度、DIY精神、ネット世代のアプローチを理解すれば、トラップメタルは非常に興味深い研究対象にもなります。
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