メロディックダブステップ完全ガイド:歴史・特徴・制作テクニックと主要アーティスト
はじめに — メロディックダブステップとは何か
メロディックダブステップ(melodic dubstep)は、ダブステップの低域やビート感を保持しつつ、メロディやハーモニー、シネマティックな質感、感情表現を前面に押し出したサブジャンルです。ハードなワブルベースやブロークンリズムに依存する従来のダブステップよりも、歌心あるリードやパッド、ピアノ・ギターなどの有機的な楽器音、そしてポップ/トラップ的な楽曲構成を取り入れることで、広いリスナー層に受け入れられています。
起源と歴史的背景
メロディックダブステップが明確に名付けられたのは2010年代中盤以降ですが、その源流は2000年代後半からのダブステップ/ポストダブステップ、そしてフューチャーベースやトラップの発展にあります。従来のダブステップがクラブ向けの重低音と不規則なリズムを特徴としていたのに対し、プロデューサーたちはより感情的でドラマチックな表現を求め、メロディと構築されたアレンジを導入しました。
主要な特徴
- テンポとリズム:表記上は140 BPM前後が多く、実際のグルーヴはハーフタイム(70 BPM相当)の感覚で表現されることが多いです。これにより重厚さを保ちながらも叙情的な表現が可能になります。
- メロディとハーモニー:強いメロディ主導のリード、感情的なコード進行、しばしばピアノやギター、ストリングス的なサウンドが使用されます。メロディはシンプルでキャッチー、あるいは映像的で徐々にクライマックスに向かう構造が好まれます。
- ベース:低域はダブステップ由来のパワーを保持しますが、メロディックダブステップではサブベースを滑らかに保ち、グリッチや過度なディストーションを抑える傾向があります。
- テクスチャと空間:リバーブやディレイ、パッドによる広がり、オーケストラ的な重ねやブレイクでの静寂と開放感の対比が多用されます。
- ボーカル:ヴォーカルを中心に据えた楽曲が多く、歌詞で感情を伝える曲がヒットしやすいです。ボーカルチョップやピッチ処理も一般的です。
代表的なアーティストとレーベル
ジャンルを象徴する代表的なプロデューサーには、Seven Lions、Illenium、Said The Sky、MitiS、Dabin、Trivecta などが挙げられます。これらのアーティストはエレクトロニックなサウンドデザインとバンド的な歌心を融合させ、フェスやストリーミングで大きな成功をおさめました。Seven Lions の Ophelia Records はメロディック系のリリースを多く抱えるレーベルとして知られています。
楽曲構成とアレンジの傾向
典型的な構成は、イントロ→ビルド→ドロップ(メロディックなドロップ)→ブレイク→クライマックス→アウトロという流れです。ドロップは激しいノイズやブリブリしたベースで押すのではなく、リードメロディと広いパッド、シネマティックなヒット、そしてサブベースで感情の高揚を演出します。ブレイクではボーカルやピアノを前面に出してリスナーの集中を誘導することが多いです。
サウンドデザインと使用音源
主にソフトシンセ(Serum、Xfer Serum、Native Instruments Massive、Sylenth1 など)を用いたリード/パッドの作り込みが行われます。オーケストラ音源(Kontakt ライブラリ等)を重ねることでシネマティックな厚みを加える手法も一般的です。ギターやピアノなど生楽器のサンプリング、ボーカルレコーディングが楽曲に人間味を与えます。
ミックスとマスタリングのポイント
- 低域の管理:サブベースとキックの周波数分離(ハイパス・ローカット、サイドチェイン)を徹底する。
- ダイナミクス:ドロップでのインパクトを保つためにトランジェント処理やマルチバンドコンプレッションを活用する。
- 空間処理:リバーブやディレイで奥行きを作りつつ、主要要素(ボーカル/リード)はリバーブで埋没させない。
- ステレオイメージ:リードやハーモニックなパートはステレオ幅を確保し、低域はモノラル寄りにまとめる。
作曲・制作テクニック(実践的アドバイス)
メロディックダブステップを制作する際の具体的な手順と注意点を挙げます。まず印象的なメロディかコード進行を決め、ピアノやギターで下書きします。次にシンセリードとパッドをレイヤーして音色の相互作用を確認、サブベースを別トラックで作りキックと位相を整えます。ボーカルがある場合はコンピング、タイミング補正、ピッチ処理を行い、感情的なフレーズを活かすためにディテール(ノイズ、ブレス、サチュレーション)を加えます。最終的にミックスで各要素の周波数とダイナミクスを調整し、マスタリングで作品全体の音圧とバランスを整えます。
ライブとパフォーマンス
メロディックダブステップはDJセットだけでなく、ライブ要素を取り入れたパフォーマンス(生ギター、キーボード、歌唱)とも相性が良く、フェスやクラブでのセットにおいて観客との感情的な共鳴を作りやすいジャンルです。プロデューサー自身が鍵盤やギターを弾きながら演奏するケースも増えています。
シーンの現在と今後の展望
ストリーミング時代においてメロディックダブステップはポップやインディーロック的な要素と融合しやすく、コラボレーションも活発です。今後はよりオーガニックな楽器の導入、ハイブリッドなライブ演出、そしてサウンドデザインの細分化によってジャンル境界がさらに曖昧になるでしょう。また、AIや新しいシンセ技術の普及により音作りの可能性は拡大しますが、感情に訴える「メロディ」と「アレンジ」の重要性は変わりません。
初心者向けの壁と学習法
メロディックダブステップ制作で初心者がつまずきやすい点は、低域のコントロールとリズム/メロディの両立です。学習法としては、まず既存曲を耳コピしてアレンジを分解すること、プリセットをベースに音色設計の原理を学ぶこと、そしてミックスの基礎(EQ、コンプレッション、リバーブ)を反復して経験値を積むことが有効です。オンラインのチュートリアルやDAWの公式ドキュメント、プラグインのマニュアルを活用しましょう。
まとめ
メロディックダブステップは、低域のパワーとメロディの感情性を両立させたジャンルであり、プロダクションの細部に気を配ることで高い表現力を獲得できます。歴史的にはダブステップ/フューチャーベースから派生し、現在はフェスやストリーミングで確固たる地位を築いています。制作ではメロディと低域の共存、空間設計、そしてボーカル処理が鍵になります。
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参考文献
- Dubstep — Wikipedia
- Illenium — Wikipedia
- Seven Lions — Wikipedia
- Said the Sky — Wikipedia
- Future bass — Wikipedia
- Ophelia Records — 公式サイト
- Sound On Sound — 音楽制作記事
- MusicRadar — 音楽制作とレビュー
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