キヤノン RF 85mm F1.2 L USM 完全ガイド：描写・ボケ・運用テクニックとDS版との違いまで詳解
エバープレイ編集部はじめに — RF 85mm F1.2 L USM は何をもたらすか
キヤノンのRF 85mm F1.2 L USM（以下 RF 85mm F1.2）は、フルサイズミラーレス時代のポートレート用大口径中望遠レンズとして強烈なインパクトを持つ一本です。F1.2という非常に明るい開放値により得られる浅い被写界深度と、高い描写力、Lシリーズならではの堅牢な作りや防塵防滴性能が魅力です。本コラムでは、光学的特徴、描写傾向、運用上のコツ、ライバルやDS（Defocus Smoothing：ボケ味専用コーティング）版との違いまで、実践的・技術的な視点で深掘りします。
基本仕様と設計思想（要点）
- 焦点距離：85mm（中望遠ポートレートの定番）
- 最大開放絞り：F1.2（浅い被写界深度と高速露出を両立）
- マウント：RF（キヤノンのフルサイズミラーレス用マウント）
- シリーズ：L（プロフェッショナルシリーズ。堅牢性・耐候性を重視）
- AF：リングUSM（高速で静かな駆動。ミラーレス機のボディAFと組合せて高精度）
上記は設計上の要点です。F1.2という明るさを採ることで、被写体の切り離しや低照度撮影において他の標準的なポートレートレンズとは一線を画す表現が可能になります。
光学性能 — 解像力とコントラスト
RF 85mm F1.2は開放から非常に高い解像感を示すことで知られます。中心付近のシャープネスは開放でも優れており、肌の質感や眼周りの細かい描写が得られます。一方で、周辺光量落ち（ヴィネット）は開放時に見られるため、雰囲気作りとして活かすか、絞ることで均一な画面に寄せるかは表現の選択となります。
F値を絞るにつれて回折による解像低下が始まるものの、F2.8〜F5.6あたりでバランスのとれたピークになる場面が多く、実用的なポートレートではF1.2〜F2が多用されます。
ボケ味の特徴と表現
RF 85mm F1.2の最大の魅力は「薄い被写界深度」と「柔らかく滑らかなボケ」です。開放F1.2では被写体の一部（目）にピンを合わせ、鼻や耳、背景が自然に溶けるようにボケていくので、ポートレートで被写体の存在感を際立たせられます。
ただし、絞り羽根の枚数や光学設計の影響で、背景のハイライトが点光源の場合に若干の形状が出ることがあります。これを好むか嫌うかは好みで、滑らかな大きなボケを重視するなら開放〜F1.8あたりでの運用が一般的です。
RF 85mm F1.2L USM DS（Defocus Smoothing）との違い
キヤノンはRF 85mmに「DS」モデル（Defocus Smoothing コーティングを施したモデル）もラインナップしています。DSはボケのハイライトを滑らかにするために前後の光量を調整する特殊コーティングを施しており、結果としてよりクリーミーでなだらかなボケを得られます。
- メリット：ボケの輪郭がよりソフトになり、背景の点光源が主張しにくい。ポートレートで“ふんわり”した印象を追求する際に有利。
- デメリット：コーティングのため若干の光量ロスやコントラスト低下、フレアの傾向が生まれることがある。またDSは万能型ではなく“ボケを重視する用途”に特化した選択肢。
DSとノーマル版は光学設計の基本は共有することが多いですが、仕上がりのトーンや用途感が明確に異なるため、購入前に実写比較を強く推奨します。
AF・操作性・ボディとの組合せ
RFマウントの恩恵により、ボディ側の瞳AFや顔検出AFと強く連動します。動体追従というよりはスナップ〜ポートレートでの確実なピント合わせが得意です。リングUSMによるフォーカスの立ち上がりは速く、静音性も高いためスタジオ撮影や集合撮影でも使いやすいです。
また、RFレンズのカスタマイズ可能なコントロールリングを利用して露出補正や絞り操作を割り当てることができ、操作性が洗練されています。重さや前玉サイズが大きめなので、携行性を重視する場合はボディの重量バランスを考える必要があります（中〜上位機ボディとの組合せが適切）。
実写での運用テクニック
- 被写体との距離：85mmは被写体との適切な距離が取りやすく、自然なパースペクティブを保てます。胸からバストアップのポートレートでは、被写体との距離感とコミュニケーションが重要。
- 開放活用：F1.2開放は目に合わせて鼻や耳を溶かすのに最適。ただしAFの許容範囲が狭いので瞳AFを確実に活用するか、マニュアルで微調整する場面も出ます。
- 背景処理：背景の距離を取ることで、より大きく滑らかなボケが得られます。逆に背景を活かしたい場合は少し絞って周辺情報を残すと良いでしょう。
- 光の扱い：強い逆光や点光源ではハイライトの形状が目立つ場合があるため、DS版が有利なシーンがあります。ただし反射やフレアの扱いに注意。
注意点・短所（購入前に確認したいこと）
- サイズと重量：大きく重めなので長時間の手持ち撮影や旅行には向かないことがある。
- 価格：プロ向けの高級レンズとして高価で、コストパフォーマンスの評価は用途次第。
- 万能ではない：被写界深度の浅さは表現の武器である一方、ピン外しのリスクも高まるため撮影者の技術が問われる。
ライバルとの比較（簡潔に）
EFマウント時代の名レンズ「EF 85mm F1.2L II USM」と比較されることがあります。RF版はミラーレス専用の光学最適化やAF連携の面で有利です。また、より小型で手頃な選択肢としてはF1.4やF2の85mmクラスがありますが、F1.2ならではの表現力は代替が難しい面があります。
どのユーザーに向くか（おすすめの用途）
- ポートレート写真家：被写体を際立たせる表現力が欲しい方に最適。
- スタジオ・婚礼：雰囲気重視の撮影で重宝するが、携行性は考慮する。
- 商品撮影やファッション撮影：背景と被写体を切り離す表現が求められる場面で有効。
まとめ — 購入判断のポイント
RF 85mm F1.2 L USMは「表現のための道具」として強力です。F1.2の浅い被写界深度で作れる画は唯一無二で、ポートレート表現を追求するなら最有力候補になります。DS版はボケの柔らかさをさらに追求したモデルで、背景の雰囲気を最優先するなら検討に値します。反面、重さ・価格・運用の難しさも現実的なコストとして存在するため、用途（商用/作家性/趣味）と撮影スタイルを明確にして選ぶことをおすすめします。
参考文献
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