建築・設備で注目の低GWP冷媒「R1233zd(E)」徹底解説 — 特性・適用・設計上の注意点
はじめに — R1233zd(E)とは何か
R1233zd(E)(商標名:Solstice zdなど)は、近年の冷媒規制の流れを受けて注目されているハイドロフルオロオレフィン(HFO)系の冷媒です。従来のHCFC/HFC冷媒(例:R123、R134aなど)に代わる低GWP(地球温暖化係数)でかつオゾン層破壊係数(ODP)がゼロの代替冷媒として、主に大型冷凍空調機(遠心圧縮機チラー)や発泡剤用途で採用が進んでいます。本コラムでは、建築・土木分野の設備設計・維持管理者向けに、特性、適用分野、設計・安全上の留意点、法規制との関係、導入メリット・デメリットを整理します。
基本特性と環境性能
R1233zd(E)はHFOに分類され、以下の環境性能が特長です。
- 低GWP:メーカー資料や規制文書では「非常に低いGWP(100年時スケールで概ね1程度)」とされ、従来のHFCに比べて極めて小さい地球温暖化影響を持ちます。
- ODP=0:オゾン層破壊物質を含まず、モントリオール議定書の制約対象外です。
- 大気中寿命が短い:HFC類に比べ反応性が高く、大気中滞留が短いためGWPが低く評価されます。
これらの環境特性から、各国のフガス規制・温暖化対策の下で採用が促進されています。
安全性と分類(可燃性・毒性)
R1233zd(E)はASRHAEの安全分類でA2Lに相当する(低毒性・低可燃性、いわゆる「微燃性」)と扱われることが多く、完全に不燃ではありません。ただし一般的なHFOと同様に可燃性は低く、引火性を抑えるための配慮が必要です。
- 毒性:低毒性と評価され、通常の取扱いでは重大な健康リスクは低いとされますが、濃度上昇時の窒息リスク等に注意。
- 可燃性:微燃性(A2L)。密閉空間での大流出や発火源の存在による引火の可能性を考慮し、換気・漏洩検知や電気設備の区分など設計上の対策が必要です。
主な用途(建築・土木分野)
建築分野では次のような用途での採用が進んでいます。
- 大型中央空調(遠心式チラー):R123やR134aを置換する新型チラーに採用。特に低GWPを求められる大規模物件や規制の厳しい地域で導入が増えています。
- 発泡剤(断熱材):ポリウレタン等の発泡剤として、従来のHCFC/ HFC系発泡剤の代替に利用され、断熱性能と環境負荷低減の両立に貢献します。
- その他特定用途:一部の空調・冷凍装置で代替として検討されますが、可燃性分類等の制約から用途は選別されます。
冷凍サイクル上の特性と設計考察
R1233zd(E)を採用する際の機器設計・設備設計上のポイントは次の通りです。
- 熱力学特性:従来のR123に近い動作圧力帯域であるため、大型遠心チラー等では性能・効率の観点で有利に働く設計が可能です。ただし、メーカーは通常R1233zd(E)専用に最適化した機器設計を推奨しており、単純な置換(フルレトロフィット)は推奨されない場合が多いです。
- 潤滑油・材料互換性:HFO系は潤滑油やシール材との相性が機種によって異なります。一般にPOE(ポリエステル)系などの油が用いられることが多いですが、機器メーカーの指示に従い材料選定・改修を行う必要があります。
- 充填量と漏洩対策:A2Lの可燃性分類のため、建築用途では充填量の上限や設置場所の区画、換気要件が規定されることがあります。漏洩検知器や換気系の設計は必須と考えてください。
- 運転温度・圧力:圧縮機の許容温度や冷凍油の劣化、放熱器の設計など運転上の条件は機器毎に検証が必要です。結果的に熱交換器の面積や流量調整が必要になるケースもあります。
設置・施工・メンテナンス上の留意点
- 新規導入かレトロフィットか:既存R123系のチラーをそのままR1233zd(E)に置換するのは安全規格上・性能上ともに問題を生じることが多く、OEMが提供するR1233zd(E)対応モデルを採用するのが現実的です。
- 安全対策:換気、漏洩検知(可燃性検知器や濃度監視)、電気機器の防爆・非発火仕様、緊急遮断系統などを設計段階で組み込みます。特に地下機械室・密閉スペースは設計段階での審査が重要です。
- 保守・点検:可燃性であることを前提に、定期的なリークチェック、潤滑油の状態監視、配管・継手の検査を強化してください。充填・回収時の作業手順はメーカー資料に従い、適切な保護具と換気を行います。
法規制・規格との関係
世界的なフロン規制(Fガス規則やモントリオール議定書関係の動向)により、GWPが低い冷媒の採用が促進されています。また、各国・地域での安全基準(例:ASHRAE 15/34や各国の電気設備規格、建築設備基準)に基づく設計・施工が求められます。機器選定時は、対象地域の規制と機器メーカーの適合性評価を確認してください。
メリットとデメリット(建築・設備視点)
- メリット
- 環境負荷が非常に小さい(低GWP・ODPゼロ)ため、長期的な規制リスクが低い。
- 大型チラー用途でのエネルギー効率は競合冷媒と同等か優れるケースがあり、ライフサイクルでのCO2削減に貢献。
- 発泡剤用途では高性能な断熱材実現が可能。
- デメリット
- 微燃性であるため設計・施工・維持管理に追加コスト(換気・検知器・特殊部材など)が発生する。
- 既存機器の単純置換が難しく、新規機器や改造コストが必要になることがある。
- 市場流通量・作業者の習熟度がHFCに比べやや限定的であるため、保守体制の整備が不可欠。
導入判断のための実務チェックリスト
- 用途適合性:採用予定の用途(チラー、発泡等)での実績とメーカー推奨を確認
- 安全性:設置場所の換気条件、充填量制限、可燃性検知・遮断系の要否を検討
- 材料互換性:潤滑油、シール、配管材料の適合性確認
- 法規制:地域のFガス規制・建築設備基準・消防法などの確認
- ライフサイクル評価:初期コスト、効率、規制リスク、廃棄・回収体制を含めた長期コスト評価
まとめ — 建築現場での実務的な位置づけ
R1233zd(E)は、建築・土木分野の大規模空調設備において、低GWP・ODPゼロという明確な環境上のメリットを提供する冷媒です。一方で微燃性という特性に伴う設計・施工上の配慮や、既存設備の単純置換が難しい点など、導入には慎重な検討が必要です。設備設計者・施設管理者は、機器メーカーの技術資料や国際・国内の規格(ASHRAE、各国の法令)、および信頼できるメーカー(例:製造者のデータシート)を参照のうえ、換気・検知・材料互換性を含む包括的な評価を行ってください。
参考文献
- Honeywell Solstice zd(製品情報)
- EPA — Significant New Alternatives Policy (SNAP) Program
- ASHRAE — Standards and Guidelines(ASHRAE 15/34等の参照)
- UNEP Ozone Secretariat(フロン規制・代替冷媒に関する国際情報)
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