SM490Bとは？特性・用途・溶接・設計上の注意点を建築・土木の現場視点で徹底解説

2025年12月29日 最終更新日時 : 2025年12月29日 エバープレイ編集部

SM490Bの概要 — JISにおける位置づけと役割

SM490B（エスエムよんきゅうまるビー）は、日本の建築・土木分野で広く使われている高張力構造用圧延鋼材の一つです。JIS規格に基づく溶接構造用圧延鋼材群の中で、強度や靭性のバランスを重視して設計された等級として利用され、橋梁、ビルの骨組み、土木構造物の主要部材など、荷重を受ける重要部に採用されます。

本コラムでは、設計者・施工者・調達担当者が現場で直面する実務的な観点（特性、溶接性、企画設計上の注意点、品質管理、供給面の留意点など）を中心に深掘りします。なお、具体的な化学成分や機械的性質の数値はJISおよび供給メーカーの最新データシートを必ず確認してください。

SM490Bの位置づけとサブグレード（A/B/Cなど）の違い

SM系の鋼種には、SM400、SM490、SM570などの等級があり、数値が大きくなるほど高強度となるのが一般論です。サブグレード（A、B、Cなど）は、主に製造法の違いや低温靭性（衝撃試験）の要求条件、厚さ区分などにより細分されます。

  • SM490Bは、同等級の中で靭性（耐衝撃性）と加工・溶接性のバランスをとったグレードとして位置付けられていることが多い。
  • 用途や使用温度域、部材厚さに応じてA/B/Cのどれを指定するかが決まる。例えば、低温下や重要構造部にはより厳しい衝撃試験の条件を満たすサブグレードが要求されることがある。

化学成分・機械的特性（確認ポイント）

JIS規格およびメーカー公表値が最終的な根拠です。ここでは設計・施工で確認すべきポイントを示します。

  • 化学成分：炭素（C）、マンガン（Mn）、リン（P）、硫黄（S）、シリコン（Si）などの含有範囲。特に炭素当量（CE）や溶接時の割れ感受性に影響する元素量は要確認。
  • 機械的性質：降伏強度・引張強度・伸び（塑性）などの公称値。部材設計で許容応力度や塑性設計を行う際に必須。
  • 低温靭性：衝撃試験（シャルピー試験など）の合格条件はサブグレードごとに異なる。寒冷地での使用では必ず確認。

重要：設計・製造の責任をとるため、図面や仕様書にはJIS規格番号（例：JIS G 3106等）とともに、必要ならばメーカーのロット・熱間圧延条件や求められる試験条件を明記してください。

用途と採用事例（建築・土木）

SM490Bが使われる代表的な用途は以下の通りです。

  • 橋梁部材（主桁、斜材、連結部材など）— 高い曲げ・せん断負荷に耐える必要がある場合。
  • 高層・中高層建築の主要柱・梁 — 軽量化と高強度の両立が求められる部位。
  • 土木構造物（擁壁の鋼製部材、基礎構造の一部）— 耐久性と強度が重要な用途。
  • 産業構造物（クレーンレール、支承など）— 動的荷重や繰返し応力に対する耐久性を要求される場面。

溶接性と施工上の注意点

SM490Bは構造用鋼として溶接で接合されることが前提の材料です。ただし高張力鋼に共通する溶接上の留意点があります。

  • 炭素当量（C.E.）：高めだと割れ感受性が上がるため、事前に炭素当量を計算し、必要に応じて低水素電極の使用や予熱を検討する。
  • 予熱と後熱処理：板厚や組合せ構造次第で必要になる。特に厚板や高応力箇所では事前に溶接手順（WPS）で管理する。
  • 溶接法の選定：現場溶接（アーク溶接／被覆アーク、MAG/MIG）や工場溶接（抵抗スポット等）で使用する材料やパラメータを仕様で明確化する。
  • 入熱管理と歪み対策：高張力材は入熱が大きいと機械的特性が局所で劣化する恐れがあるため、入熱と多層溶接の管理が重要。

防錆・表面処理と耐久性確保

鋼材自体は大気中で腐食するため、用途に応じた防錆対策が必須です。設計段階で塗装、亜鉛めっき、鋳継ぎ部の防錆処理などを規定します。

  • 塗装仕様：環境（沿岸、都市、山間等）に応じた塗料系、膜厚、下地処理（サンドブラスト等）を指定。
  • めっき：亜鉛めっきは長期の耐食性向上に有効。溶接後の再処理やめっき厚の管理も考慮。
  • 接合部の処理：溶接継手やボルト接合部は防錆の盲点になりやすい。シール材やガスケット、適切な塗膜の維持が必要。

設計・構造計算上のポイント

SM490Bを採用する際の設計上のチェック項目を挙げます。

  • 許容応力度設計と材料強度の整合：設計で使用する「公称強度」と供給鋼材の「保証強度」を一致させる。
  • 塑性設計（限界耐力設計）を行う場合：降伏後の靭性や延性が重要。延性確保のための断面の選定と継手設計。
  • 疲労設計：橋梁やクレーン等、繰返し荷重を受ける箇所では疲労強度を評価。溶接部の不整形、ストレス集中に配慮。
  • ボルト接合との組合せ：高強度鋼に適したボルト等級や摩擦接合の仕様を明確にする。

試験・品質管理の実務（発注側・受注側での確認事項）

品質を確保するために、発注図書には最低限以下を明記します。

  • 要求規格（JIS番号、サブグレード）、受入検査項目（寸法、曲げ試験、引張試験、衝撃試験など）。
  • 材料証明書（Mill Test Certificate）の提出と内容確認。ロット毎のトレースが可能か。
  • 工場検査・現場検査の頻度と検査方法（非破壊試験、塗膜厚測定等）。
  • 不適合時の対処：補修方法、交換基準、再検査のルール化。

製造・供給面での留意点

現場で予測外のトラブルを防ぐため、納期・供給の面でも配慮が必要です。

  • 板厚や断面寸法の在庫状況：高張力鋼は特定の板厚で在庫が薄い場合がある。図面確定後、早期に在庫確認。
  • 材料ロットのばらつき：同一プロジェクトでもロット差による微妙な性状差が発生し得る。重要部材は同一ロット指定を検討。
  • 加工（切断、曲げ、孔あけ）時の注意：冷間加工の限界やひずみの発生について事前に加工責任者と協議。

実務上のよくあるトラブルと対処例

いくつか代表的なトラブルとその対処法を紹介します。

  • 溶接部での割れ発生：原因調査（炭素当量、入熱、プリヒート不足）を行い、溶接条件の見直し・再溶接手順の確立を行う。
  • 表面の早期腐食：下地処理不足や塗装不良が典型。再塗装やめっき処理の検討、長期維持管理計画の作成を行う。
  • 部材の曲げや歪み：溶接工程での入熱管理不足。締付け順序や歪み矯正手順の明文化が有効。

コストと選定上の判断基準

SM490Bは強度を高めることで断面の軽減が可能になり、部材重量低減によるコスト削減効果が期待できます。一方で、溶接や加工管理、表面処理のコストが増える場合もあるため、総合コスト（材料費＋加工費＋施工費＋維持管理費）で評価することが重要です。

まとめ — 実務者へのチェックリスト

SM490Bを安全かつ効率的に使うための実務チェックリスト（要点）は以下の通りです。

  • 図面・仕様書にJIS規格とサブグレードを明記しているか。
  • メーカーの材質証明・試験成績書を必ず受領・確認しているか。
  • 溶接手順（WPS）、予熱･入熱管理、非破壊試験の要否を事前に決定しているか。
  • 防錆仕様と施工後の維持管理計画を明確にしているか。
  • 供給ロット・在庫・納期を早期に確認し、必要ならば同一ロット指定を行っているか。

最後に、具体的な化学成分、機械的特性、衝撃試験条件などの数値はJIS規格（JIS G 3106等）および各鋼板メーカーの最新データシートが唯一の確実な情報源です。設計や調達、検査に際しては必ずそれらの公的資料を参照してください。

参考文献

以下は規格やメーカー情報、参考資料へのリンクです。詳細な数値・条件は各リンク先（JIS規格、メーカー技術資料）を参照してください。

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