S355JRG2の特徴と建築・土木での活用法：規格・機械的性質・溶接・設計上の注意点

2025年12月29日 最終更新日時 : 2025年12月29日 エバープレイ編集部

S355JRG2とは

S355JRG2は、欧州系の構造用非合金鋼の呼称で、一般にEN 10025（構造用圧延鋼材）系列の等級に対応する鋼材です。"S355" が示すのは公称の最小降伏強さが約355MPaであること、接尾語の"JR"や"J2"等が衝撃試験（Charpy Vノッチ）による保証温度を表すことが多い点が特徴です。古い規格表記に見られる"G2"や"RG2"といった表記は供給条件や厚さクラスを示す場合があり、最新のEN規格では+N（正規化）、+AR（圧延材）、+M（熱間圧延・圧延最終処理）などで表記が整理されています。

主要な機械的性質

  • 降伏強さ（Rp0.2の目安）：約355MPa（種類・厚さにより規定値は異なる）
  • 引張強さ（UTS）の典型範囲：おおむね490〜630MPa程度（製造条件や鋼種により変動）
  • 伸び（A%）：通常20%前後の塑性を有し、成形や溶接に適した靭性を示す

これらの値は供給状態（正規化、圧延、熱間圧延最終処理など）や板厚によって変わるため、設計時にはメーカーのデータシートや供給証明書（MTC: Material Test Certificate）を参照することが重要です。

化学成分と溶接性

S355系鋼の化学成分は非合金炭素鋼の範囲にあり、炭素（C）、マンガン（Mn）、シリコン（Si）、硫黄（S）、リン（P）などが規定されています。代表的な目安としてCは0.20〜0.22%以下、Mnは1.6%前後、Pは0.025〜0.035%以下、Sは0.035%以下、Siは0.55%以下といった範囲が多くのメーカーで見られます（数値は供給仕様により異なる）。

溶接性は比較的良好で、一般的なアーク溶接（MMA、MAG、TIG）や抵抗溶接での加工が可能です。ただし、板厚が厚くなるほど冷却速度が速くなり局所的に硬化・割れが発生しやすくなるため、前熱・後熱処理や適切な溶接ワイヤ選定、熱入力管理が必要です。溶接性評価には炭素当量（CE）を用いることが多く、CEが高い場合は割れ防止対策が求められます。

供給状態（供給条件）の種類と意味

  • +AR（As Rolled／圧延材）: 圧延状態のまま供給される。高厚さでの供給が多く、熱影響での性質を考慮する必要がある。
  • +N（Normalized／正規化処理）: 組織を均一にし機械的性質を安定化。靭性が改善され設計上扱いやすい。
  • +M（Thermo-Mechanical Rolling）: 熱間圧延後の機械的処理により強度と靭性の良好なバランスを確保。

現行のEN 10025-2では、このような供給条件の明示が推奨されるため、発注・検査時には必ず供給状態を明確にすることが必要です。

設計・構造上の留意点

  • 板厚と強度の関係：S355の公称降伏強さは厚さによって適用範囲が変わるため、厚さが増す場合はメーカーの規格表で確認する。
  • 低温脆性：使用環境が低温にさらされる場合は、衝撃試験保証温度（JR/J0/J2など）を満たす等級を選定する。寒冷地での構造や低温作業環境ではJ2等級（低温での靭性保証）を優先する。
  • 接合部の設計：溶接部の熱影響、局部的応力集中を避けるため、適切な継手形状とフィレットサイズ、段差の解消を図る。
  • 耐荷性と疲労設計：橋梁やクレーンなど繰返し荷重を受ける部材では疲労強度の確保が重要。母材だけでなく溶接部やボルト孔周辺も対象にする。

加工性（切断・曲げ・穴あけ）

切断、穴あけ、曲げ加工は一般的に良好に行えます。曲げ加工においては板厚と曲げ半径の関係、加工硬化に伴う割れ発生を事前に確認してください。穴あけや切断時の熱影響は最終的な防食処理や溶接品質に影響するため、切断面の処理（面取り・グラインド）を適正に行うことが望まれます。

耐食性と防食対策

S355は炭素鋼であるため大気中での一般的な腐食（赤錆）は避けられません。屋外露出や沿岸部など腐食が進みやすい環境では、塗装、溶融亜鉛めっき、犠牲防食、または耐候性鋼への変更などの防食対策を検討してください。設計段階で水溜りを作らない、塗膜の密着性を保つためのエッジ処理を行う等のディテール配慮も重要です。

試験・品質管理

製品受入れ時には、化学成分、引張試験、衝撃試験（必要に応じて）、曲げ試験、寸法検査などのMTCに基づく確認が行われます。特に重要な箇所には非破壊検査（超音波探傷試験、磁粉探傷）を行い、内部欠陥や溶接欠陥の確認を行います。

代表的な用途

  • 建築：柱、梁、トラス部材など主要構造材
  • 土木：橋梁、桁、護岸構造、土木機械
  • 産業機械：クレーン、フレーム、荷役機器
  • その他：車両台枠や大型構造物の構造部材

実務上のポイント（チェックリスト）

  • 使用環境の温度に合わせて衝撃試験条件（JR/J0/J2）を選定する。
  • 供給状態（+N/+AR/+M）を発注書に明記する。
  • 溶接前に炭素当量と前熱の必要性を評価しておく。
  • 防食仕様（塗装、めっき等）を設計段階で確定する。
  • MTCや非破壊検査結果を受入れ基準として明確にする。

まとめ

S355JRG2系の鋼材は、強度と加工性・溶接性のバランスが良く、建築・土木分野で広く使われる汎用的な構造用鋼材です。設計や施工では、供給状態、厚さ、使用温度、腐食環境などの条件を踏まえた選定と品質管理が重要です。現行規格表記は変化しているため、旧呼称（S355JRG2など）で入手した情報は最新のEN 10025系の規定やメーカーのデータシートで再確認してください。

参考文献

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