都市の煌めきを聴く:初心者向けシティポップ名盤ガイド5選

はじめに

シティポップは1970年代後半から1980年代にかけて、日本の大都市を背景に生まれた洗練されたポップミュージックの潮流です。当時の最新音響機器やスタジオ技術を最大限に活用し、AOR(アダルト・オリエンテッド・ロック)、ファンク、ソウル、フュージョンといった多彩な要素を取り込んだサウンドが特徴です。近年はYouTubeやストリーミングを通じて国内外で再評価され、レコードやCDがプレミア化するなど大きなムーブメントとなっています。

本コラムでは、シティポップ初心者がまず押さえておきたい5枚のアルバムを、リリース背景から制作ポイント、代表トラックの魅力まで詳しく解説します。各作品の聴きどころを掴んで、ぜひ心躍るシティポップの世界への第一歩を踏み出してみてください。


1. 大滝詠一『A LONG VACATION』(1981年)

背景

大滝詠一は、日本のロックバンド「はっぴいえんど」出身のシンガーソングライター。ソロとしては本作が3枚目のアルバムに当たり、「都会での長い休暇」をテーマにアメリカ西海岸のリラックス感を再現しました。レコーディングは全編アナログ機材で行われ、録音・ミキシングともに緻密を極めたサウンドメイクが特徴です。

音楽的特徴

  • ストリングス&ホーン・アレンジ:国内のスタジオミュージシャンによる豪華なセクションが随所に配置され、楽曲に豊かな奥行きを与えています。
  • 多彩なリズム・パターン:ソフトロックからラテンビートまで幅広く網羅し、全体を通して飽きさせません。
  • 歌詞の情景描写:大滝自身による英語と日本語のミックスヴォーカルが、郷愁と開放感を同時に演出します。

代表トラック解説

  • 「恋するカレン」:軽快なギターリフと裏打ちのパーカッションが印象的な一曲。歌詞には美しい女性への淡い想いが綴られています。
  • 「君は天然色」:シティポップを代表する名曲。シンセサイザーのウォームな音色と爽やかなコーラスが、まるでカラー映画のような画を思わせます。

初心者へのおすすめポイント

本作は「シティポップとは何か」を包括的に体感できる教科書的アルバムです。サウンドの多層構造や歌詞の世界観を噛み締めながら聴くことで、以降の作品選びにも役立つ基礎がしっかり身に付きます。


2. 山下達郎『FOR YOU』(1982年)

背景

山下達郎はスタジオ・ミュージシャンとしてのキャリアを経て、1976年にソロデビュー。本作『FOR YOU』は2枚目のオリジナルアルバムで、達郎自身が作詞・作曲・編曲を手掛けた意欲作です。自宅スタジオ「AIR」でのセルフプロデュースにより、緻密で暖かみのある音像を作り上げています。

音楽的特徴

  • 高度なコーラス・ワーク:層状に重ねられたボーカルハーモニーが、楽曲に豊かな色彩を与えています。
  • シンセサイザーと生楽器の融合:当時最新のシンセ音と生ギター、ホーンセクションをバランスよくミックス。
  • 都会的グルーヴ:軽快でありながらも落ち着きを感じさせるリズム隊が、ゆったりとした都会の夜を演出します。

代表トラック解説

  • 「FOR YOU」:アルバムタイトル曲。前奏のギターアルペジオからサビの開放感まで、叙情性と技巧が絶妙に融合した達郎らしさ全開の一曲です。
  • 「メリー・ゴー・ラウンド」:サークルオブフィフス(五度圏)を巧みに使ったコード進行が特徴的で、何度聴いても新たな発見があります。

初心者へのおすすめポイント

シティポップの“洗練された大人のポップス”を理解するうえで、達郎サウンドは外せません。音作りやアレンジの完成度の高さをじっくり味わいながら、音楽制作の巧妙さにも触れてみてください。


3. 竹内まりや『VARIETY』(1984年)

背景

竹内まりやは山下達郎の盟友として知られ、1978年にデビュー。本作『VARIETY』は4作目のオリジナルアルバムで、夫妻それぞれの作家としての才能が存分に発揮されています。多彩な楽曲群が収録され、アーバンかつキャッチーなポップアルバムとして高い評価を受けました。

音楽的特徴

  • 編曲家集団とのコラボ:坂本龍一の弟子筋をはじめ、当時注目のアレンジャーたちが参加。曲ごとに異なる色合いが楽しめます。
  • ジャジーなコード進行:シンプルながらも大人びた印象を残すコードワークが随所に散りばめられています。
  • ストーリーテリング性:日常の切なさや甘酸っぱい恋心をリアルに描いた歌詞が、多くのリスナーの共感を呼びました。

代表トラック解説

  • 「不思議なピーチパイ」:軽快なシンセとコーラスワークが弾ける一曲。ポップでありながら大人の遊び心が詰まっています。
  • 「PLASTIC LOVE」:近年ストリーミングで再燃した名バラード。ミディアムテンポのグルーヴと切ないコーラスが胸に刺さります。

初心者へのおすすめポイント

楽曲のジャンル幅が広く、ひとつのアルバムでシティポップの多様性を楽しめます。特に「PLASTIC LOVE」は海外のリスナーにも刺さる普遍性を持つので、最初の一歩としてもぴったりです。


4. 杏里『Timely!!』(1983年)

背景

杏里は1978年デビュー後、ソウル/AOR要素を取り入れたサウンドで人気を博しました。1983年発表の『Timely!!』はファーストからの集大成的な作品で、アニメ主題歌「CAT’S EYE」をはじめ、ポップスと都会派サウンドが見事に融合しています。

音楽的特徴

  • クリスタルボイス:杏里の透明感ある歌声が、メロディの一音一音に寄り添います。
  • 洗練されたリズムセクション:タイトでまとまりのあるベース&ドラムが、全体をグルーヴ感で牽引。
  • ユーロビート風アレンジ:当時の最新打ち込み技術を取り入れつつ、人力演奏の温かみも失わないバランス感覚が光ります。

代表トラック解説

  • 「CAT’S EYE」:シャープなギターリフとシンセの掛け合いがクールなナンバー。ドライブや作業用BGMとしても最適です。
  • 「オリビアを聴きながら」:しっとりとしたメロウなバラード。情景が目に浮かぶような情感豊かなアレンジが魅力です。

初心者へのおすすめポイント

曲によって表情がくっきり異なるため、シティポップの幅を感じ取りやすい一枚です。軽快なナンバーからバラードまで、聴き比べる楽しみがあります。


5. 角松敏生『SEA IS A LADY』(1985年)

背景

角松敏生は1982年デビューのシンガーソングライター/プロデューサー。『SEA IS A LADY』は3枚目のアルバムで、自ら編曲と演奏の大半を手掛けることで知られます。デジタルシンセサイザー導入期ならではのエレクトロニックな風合いと、バンドサウンドの融合が高く評価されました。

音楽的特徴

  • デジタル×アナログの共存:DX7やFairlightなどのデジタル鍵盤に、生ギターやホーンをミックスした斬新なサウンド。
  • ファンクネスあふれるリズム:強烈なスラップベースと複雑なシンセフレーズが、都会の夜景を思わせるグルーヴを生み出します。
  • 緻密なサウンド・デザイン:音色の選定からエフェクト処理まで自ら手掛け、アルバム全体に統一感を与えています。

代表トラック解説

  • 「SEA IS A LADY」:タイトル曲。イントロのシンセベースから一気に世界観に引き込まれる、ネオシティポップを先取りした名作です。
  • 「You’re My Only Shinin’ Star」:切ないメロディとコード進行が印象深いバラード。サビのコード転調でドラマティックに盛り上がります。

初心者へのおすすめポイント

シティポップの中でも“最先端テクノロジー×人力演奏”の組み合わせを楽しみたい方におすすめです。音作りの妙とメロディセンスを同時に味わえます。


まとめ:シティポップ入門の次の一歩

本稿でご紹介した5枚は、いずれもシティポップの魅力を余すことなく詰め込んだ傑作ばかりです。まずはこの中から1枚選び、アレンジやサウンドの細部に耳を澄ませながらじっくり聴いてみてください。次第にお気に入りのアーティストや、より深いレア盤への興味も広がっていくことでしょう。都会の煌めきを音に乗せたシティポップの世界を、どうぞ存分にお楽しみください。

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