タンゴ・ヌエボを切り拓くアストル・ピアソラの代表作5選—制作背景と聴きどころを詳解
本コラムでは、タンゴにジャズやクラシックの要素を融合させた「タンゴ・ヌエボ」を確立したアストル・ピアソラの代表的な5曲――「リベルタンゴ」「アディオス・ノニーノ」「オブリビオン」「ミロンガ・デル・アンヘル」「夏(Verano Porteño)」――について、制作背景や音楽的特徴、聴きどころを詳しく紹介します。
アストル・ピアソラとタンゴ・ヌエボの誕生
1921年にアルゼンチンで生まれたピアソラは、1954年パリでナディア・ブーランジェに師事し、そこで学んだ近代和声や対位法、ジャズ的な即興性を伝統的タンゴに取り入れることで、従来の舞踊音楽としてのタンゴを芸術音楽へと昇華させました。こうして生まれた「タンゴ・ヌエボ」は、複雑なアレンジと情熱的な表現が融合した新しいタンゴのスタイルとして世界中に衝撃を与えました。
1. リベルタンゴ(Libertango)
1974年にイタリア・ミラノで録音・発表された「リベルタンゴ」は、「自由(Libertad)」と「タンゴ(Tango)」を組み合わせた造語が示す通り、ピアソラ自身が古典的タンゴの枠を破り“自由”へと飛躍した象徴的な一曲です。バンドネオンとピアノを軸に、オルガンやドラム、ギターなど多彩な楽器編成がリズムセクションを支え、鋭いメロディが躍動します。世界中で数多くのアレンジやカバーが生まれ、その革新性とキャッチーさで多くのリスナーを魅了し続けています。
2. アディオス・ノニーノ(Adiós Nonino)
1959年10月、父ヴィセンテ(愛称ノニーノ)の急逝を受け、ピアソラがツアー先でわずか30分ほどで作曲した追悼曲です。もともと1954年にパリで父に捧げて作曲した「ノニーノ」のリズムを土台とし、そこに深い悲しみをたたえた旋律と劇的な導入部を加えた構造が特徴。哀愁を帯びたそのメロディは、遠く離れた地で父を偲ぶピアソラの切ない心情を雄弁に物語り、国境を越えて多くの人々の胸を打ちます。
3. オブリビオン(Oblivion)
1982年に作曲され、1984年のイタリア映画『エンリコIV』のサウンドトラックとして採用された「オブリビオン」は、“忘却”をテーマにした静謐で叙情的な作品です。初期の編成ではバンドネオン、ピアノ、ベースの三重奏で演奏され、その後管弦楽やクラリネットなど様々なアレンジでも演奏されました。幽玄な雰囲気が作品のタイトルと見事に調和し、映画のみならずリサイタルでも定番の一曲となっています。
4. ミロンガ・デル・アンヘル(Milonga del Ángel)
1965年に発表された“エンジェル・シリーズ”5曲の第2作目である「ミロンガ・デル・アンヘル」は、アルゼンチンの伝統的リズムであるミロンガの形式を踏まえつつ、室内楽的な対位法を巧みに取り入れた意欲作です。1986年のアルバム『Tango: Zero Hour』でも再録されたこの曲は、緊張感と安らぎが同居する独特のムードを備え、ピアソラの創作の幅広さを象徴しています。
5. 夏(Verano Porteño)
1970年の組曲『Estaciones Porteñas(ブエノスアイレスの四季)』の最終楽章として書かれた「夏(Verano Porteño)」は、猛暑に包まれたブエノスアイレスを情熱的かつ叙情的に描写しています。ヴィヴァルディの『四季』へのオマージュともいえる構成ながら、演奏順序や編成を独自に変え、躍動感あふれるリズムと官能的なメロディで夏の熱気を表現。タンゴ・ヌエボの枠を超えた新たな情景描写が光ります。
ピアソラの代表作5曲は、それぞれが個別の物語や情景を鮮やかに描き出し、タンゴという枠を超えた芸術作品として世界中で愛され続けています。これらの楽曲を通じて、アストル・ピアソラが切り拓いた革新性と深い情感をぜひ体験してほしいです。
参考文献
https://en.wikipedia.org/wiki/Libertango
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