My Bloody Valentineのレコード完全ガイド — Lovelessからシングルまで|オリジナル盤・再発・聴き比べとコレクターのコツ
はじめに — My Bloody Valentine とレコードという文脈
My Bloody Valentine(以下 MBV)は、シューゲイザー/オルタナティヴ・ロックの代名詞的存在として、1980年代後半から1990年代初頭にかけて突出した作品群を残しました。代表作「Isn’t Anything」(1991)、「Loveless」(1991)を筆頭に、アーティスト自身が追求した音響実験は、レコードという物理メディアと相性がよく、オリジナル・プレスのヴィニール盤には独特の魅力と価値が宿ります。本コラムでは、MBVの代表曲を中心に音楽的特徴とレコード(アナログ盤)にまつわる情報を優先して解説します。
代表曲の選び方と今回取り上げる曲
ここでの「代表曲」は、バンドの音楽性を象徴し、かつアナログ盤で聴く際に特徴が際立つトラックを基準に選びました。主に取り上げるのは以下の曲です。
- You Made Me Realise
- Only Shallow
- Soon
- To Here Knows When
- When You Sleep / Sometimes(シングルやアルバムでの聴取差も含めて)
You Made Me Realise — ライブ表現とノイズの余韻(シングル/EPのヴァイナル)
「You Made Me Realise」は1988年にシングル/EPとして公開され、MBVがライブで見せる爆音とサイレンスのコントラストを象徴する楽曲です。特にこの曲は、ライブでの“ノイズ・セクション”が伝説化しており、それがパッケージされた7インチや12インチ盤には当時の熱気がそのまま封じられているように感じられます。
レコードに関するポイントは次の通りです。オリジナル・プレスの7インチはジャケット/インナーの仕様やラベル面の刷りで個体差があり、コレクターズ・アイテムとして流通しています。音質的には、限られた尺のシングル盤は高音域の切れやエッジ感が前に出やすく、ライブノイズの“空気感”がより生々しく伝わります。一方、再発盤やコンピレーション収録ではマスタリングの違いでノイズの質感が変わることがあるため、オリジナル・ヴァイナルを探す価値があります。
Only Shallow — “Loveless”の扉とアナログの表現力(アルバムLP)
「Only Shallow」は『Loveless』の冒頭を飾る曲で、Kevin Shieldsの“グライド・ギター”(tremoloやビブラートを多用して音を揺らす奏法)と厚い層状のギター・アレンジが特徴です。アルバムとしての『Loveless』は1991年にダブルLPでリリースされ、アナログ盤はその音像の広がりと密度を最も自然に再現するメディアとされてきました。
重要なのは、オリジナルのダブルLPは曲順とサイド割り、カッティング時のEQ処理などがとても繊細に扱われている点です。『Loveless』は楽曲ごとの音像が密であるため、1枚のLPに過度に詰め込むよりもダブルLPでの再生が空間表現や低域の安定性に貢献します。初期プレスはマスター音源に近いと評価されることが多く、流通量が少ないため中古市場で高値になることもあります。
Soon — ダンス感覚とアナログのビート再現(シングル/12インチ)
「Soon」は『Loveless』の中でも特にビート感を意識したトラックで、ループ的なリズムとシンセ的な質感が混ざり合っています。12インチシングルとしてのリリース(またはプロモ盤)では、曲の低域やキックの圧力を重視したカッティングが施されることが多く、クラブ再生やダンス向けの音圧を楽しめる点が魅力です。
ヴィニールで聴く場合、回転数やトーンアームの調整で低域の輪郭が変わりやすい曲です。12インチのメリットを活かしてダイナミックに再生すると、デジタルでは感じにくい“振動の質”が伝わってきます。オリジナル12インチのマスタリングやプレス品質(溝の深さ、スタンパーの状態)によっては、広がりや定位が異なるため、コレクションの際は盤のコンディションを重視してください。
To Here Knows When — 実験的な音響とアナログならではの空間
「To Here Knows When」はレイヤー化されたテクスチャーと非線形的な展開が印象的な曲です。MBVの音は多層のギターサウンドやリヴァーブ、テープの揺らぎを駆使して「空間」を作り出しますが、これはアナログ再生でこそ本領を発揮します。
アナログ盤では、テープ由来のウォームさやハーモニクスの自然な伸びがそのまま伝わるため、曲の奥行き感や残響の立ち方がより有機的に感じられます。また、盤が厚手でスムースなプレスほど低域の制御がよく、ノイズフロア(溝の背景ノイズ)が低い盤はMBVの微細な音像をより鮮明に描きます。
When You Sleep / Sometimes — ポップ性とアナログでの表情
「When You Sleep」や「Sometimes」はメロディやポップな側面が際立つ楽曲で、MBVの持つ“美しさ”が表に出た曲です。シングル盤やアルバム盤を比べると、シングルのカッティングはボーカルの存在感を強める傾向があり、アナログで聴くと声の質感やリバーブの余韻がより生々しく響きます。
こうした曲では、盤の状態(スクラッチやチリ)による高域の劣化が耳につきやすいため、綺麗なオリジナル・プレスや良好な再発プレスを選ぶことが重要です。また、45回転プレスのように回転数が高い盤は高解像度で再生できるため、メロディの細部を楽しみたい場合は注目に値します(ただし回転数の違いは個別リリース依存です)。
レコードで聴く際の実践的アドバイス(MBVを最大限に楽しむために)
- オリジナル・プレスと再発の違いを把握する:オリジナル盤はマスターやカッティングが異なる場合がある。音質だけでなくジャケットやインサート、ステッカーなどの付属品も価値を左右する。
- 盤質のチェック:MBVのような音の密度が高い作品は、スクラッチやチリが音像を崩しやすい。中古購入時は盤の光沢や表面傷、反りを確認する。
- プレーヤーのセッティング:トーンアームの針圧、カートリッジ、ターンテーブルの振動対策を整えることでMBV特有のテクスチャーが鮮明になる。
- 回転数とカッティングの関係:シングル(12インチ/45回転)とLP(33 1/3回転)では表現力が変わる。可能ならば複数フォーマットを聴き比べると新しい発見がある。
- 保存とメンテナンス:アナログ盤は直射日光や高温多湿を避け、適切なクリーニング(レコードブラシやレコードクリーナー)を行うと長く良好な音が楽しめる。
コレクター向けの注目ポイントと購入時のコツ
MBVのレコードは年代、プレス工場、ラベル違い、マトリクス刻印(ランアウト溝)などで識別され、コレクター間で価値が変動します。購入時の基本的な注意点は以下の通りです。
- ジャケットやインサートの有無と状態(破れ、色褪せなど)を確認する。
- マトリクス刻印の画像がある場合は、同じ版(スタンパー)の個体と比較する。音質の違いを左右することがある。
- 信頼できる出品者やショップ(ヴィニール専門店、老舗の中古店、信頼できるオンライン・マーケットプレイス)を利用する。
- 試聴が可能であれば必ず行う。音質は写真だけではわからない。
まとめ — 楽曲とレコードの相互作用
My Bloody Valentineの代表曲は、音の密度、残響、ノイズを音楽的価値に変換する点でユニークです。アナログ盤はその質感を最も自然に伝えるフォーマットの一つであり、オリジナル・プレスには歴史的価値と独特の音が宿っています。シングル盤の切れ味、12インチの低域の押し出し、ダブルLPの空間表現──それぞれのフォーマットでMBVは異なる表情を見せるため、レコードで聴く体験は単なる再生を超えた発見をもたらします。
参考文献
- My Bloody Valentine - Wikipedia(日本語)
- Loveless (album) - Wikipedia(英語)
- Pitchfork: Review of Loveless
- The Guardian: Kevin Shields インタビュー(2013)
- Discogs: Loveless(各種プレス情報)
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