揮発性メモリとは?SRAM・DRAMの仕組み・特徴・セキュリティ対策を徹底解説
揮発性メモリとは
揮発性メモリ(きはつせいメモリ、volatile memory)とは、電源供給が停止されると保持しているデータが失われる性質を持つ半導体記憶装置の総称です。コンピュータやスマートフォン、組み込み機器などで一時的にデータを保持・処理するために広く用いられ、速度やアクセス性で補助記憶(HDD/SSD)と区別されます。揮発性メモリは主に「高速性」「低レイテンシ」「書き換えの容易さ」が要求される場面で採用されます。
代表的な種類と原理
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SRAM(Static RAM)
SRAMはフリップフロップ(一般的には6トランジスタ回路)を用いてビットを保持する記憶方式で、電源供給中はデータを保持し続けます。リフレッシュが不要でアクセス速度が非常に速く、CPUキャッシュ(L1/L2/L3)やレジスタ、一部の高性能組み込み用途に使われます。欠点はセルあたりの占有面積が大きく、容量あたりのコストや消費電力(静的消費)が高い点です。
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DRAM(Dynamic RAM)
DRAMは1つのトランジスタと1つのキャパシタ(1T1C)で1ビットを表す構成が一般的で、キャパシタに電荷を蓄えることでデータを保持します。キャパシタは時間とともに電荷が漏れるため、数十ミリ秒〜数百ミリ秒毎に「リフレッシュ」操作を行って電荷を補充する必要があります。DRAMはSRAMに比べてセルが小さく高密度・低コストであり、主記憶(メインメモリ、RAM)として広く使われています。DRAMの性能は帯域幅(バス幅、クロック)とレイテンシ(CASレイテンシなど)で語られ、DDR(Double Data Rate)規格シリーズ(DDR3/DDR4/DDR5)やモバイル向けLPDDRなどのバリエーションがあります。
揮発性メモリの特性とトレードオフ
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速度と密度のトレードオフ:SRAMは高速だが密度が低く高価、DRAMは密度が高くコスト効率が良いがリフレッシュなどでオーバーヘッドがある。
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消費電力:SRAMは保持中にも静的電流(リーク)による消費がある一方、DRAMはリフレッシュや行選択/列アクセス時に動的な電力を消費する。モバイル向けには低電圧動作やスリープ状態を活用するLPDDRなどがある。
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信頼性とエラー処理:DRAMは微小な電荷変動や放射線でビット反転が起こるため、サーバ用途ではECC(エラー訂正コード)付きメモリが一般的です。また「Row Hammer」のように特定の行を高頻度でアクセスすると別行にビット反転が生じる脆弱性も存在します。
メモリ階層と揮発性メモリの役割
コンピュータのメモリ階層では、レジスタ→キャッシュ(SRAM)→メインメモリ(DRAM)→二次記憶(SSD/HDD)という順に速度が下がり、容量は増えます。揮発性メモリはこの階層の上位(高速側)を担い、CPUが実行時に必要なデータや命令を迅速に供給する役割を果たします。高帯域・低レイテンシを実現するため、メモリコントローラやチャネル数、バースト転送などと密接に設計されています。
セキュリティとデータ残留の問題
揮発性メモリは電源断でデータを失うのが原則ですが、実際には完全に即時消失するわけではありません。特にDRAMでは「データ残留(data remanence)」が存在し、低温環境では電荷の漏れが遅くなり数十秒〜数分程度データが復元可能な場合があります。これを悪用した「コールドブート攻撃」は、物理的アクセスがある場合に暗号鍵などの機密情報を抽出する手段として知られています。
対策としては、メモリ暗号化(AMDのSME/SEV、IntelのMemory Encryption等)、起動時のセキュアワイプ、物理的アクセスの防止、電源断時の即時メモリ消去(メモリ消去コマンドやソフトウェア)などが用いられます。
運用上の注意点(サーバ・組み込み・モバイル)
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サーバ:大容量化に伴いECCメモリやリフレッシュスケジューリング、メモリのミラーリングなど信頼性対策が必須です。またDRAMのリフレッシュは性能に影響するため、タイミング制御やRefresh Rateの最適化が重要です。
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組み込み機器:省電力と起動時間が鍵。RAM上のデータが失われるため、重要な設定は不揮発性メモリ(フラッシュなど)へ保存する設計が必要です。
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モバイル:LPDDR系の低電力版が使われ、スリープ/復帰の迅速化やバッテリー消費最小化が設計上の焦点になります。
将来動向と代替技術
近年、揮発性メモリに代わるあるいは補完する技術として、STT-MRAM(磁気トンネル接合を使う不揮発メモリ)、PCRAM(相変化メモリ)、ReRAM(抵抗変化メモリ)などが研究・製品化段階にあります。これらは不揮発性であるため電源断時のデータ保持が可能で、いずれはブート時間の削減やメモリ階層の再設計に繋がる可能性があります。
一方で、DRAM/ SRAMの性能・コストバランスは依然強力であり、当面は両者が用途に応じて共存する見通しです。また、3D積層(HBM:High Bandwidth Memory)やチップレット設計、メモリ暗号化技術の普及がメモリ設計に影響を与えています。
まとめ — 設計者・利用者が押さえるべきポイント
- 揮発性メモリは電源断でデータが失われるが、高速性とランダムアクセス性で不可欠な役割を担う。
- 用途に応じてSRAM(高速、低密度)とDRAM(高密度、リフレッシュ必要)を使い分ける。
- セキュリティ(データ残留、Row Hammer、コールドブート)や信頼性(ECC、リフレッシュ管理)への対策が必須。
- 新しい不揮発性メモリ技術の登場により、将来的にはメモリ階層の見直しが進む可能性がある。
参考文献
- Volatile memory — Wikipedia
- Dynamic random-access memory (DRAM) — Wikipedia
- Static random-access memory (SRAM) — Wikipedia
- JEDEC Solid State Technology Association(メモリ規格情報)
- Cold Boot Attacks on Encryption Keys —論文(概要)
- Understanding DDR Memory Interfaces — Intel(技術解説)
- Rowhammer Resource — rowhammer.org


