LANカード(NIC)とは|仕組み・性能・選び方と設定・トラブル対策を徹底解説
LANカードとは — 概要と定義
LANカード(ネットワークインターフェースカード、NIC: Network Interface Card)は、コンピュータやサーバーをローカルエリアネットワーク(LAN)に接続するためのハードウェアです。物理的な通信媒体(有線のツイストペアケーブルや光ファイバー、無線)とコンピュータ内部のバス(PCIeなど)を仲介し、フレームの送受信、MACアドレスの管理、リンクのネゴシエーションなどを行います。現代では多くのマザーボードにオンボードで実装されていますが、用途や性能に応じて外付けの拡張カードやUSBアダプタが使われます。
歴史と主な規格
LANの代表的な物理層/データリンク層の規格はEthernet(IEEE 802.3)で、これに準拠する形でLANカードは進化してきました。速度面では、10BASE-T(10Mbps)、100BASE-TX(100Mbps、Fast Ethernet)、1000BASE-T(1Gbps、Gigabit Ethernet)、さらに10G/25G/40G/100Gなどの高速規格が普及しています。無線LANに対応するものはIEEE 802.11(Wi‑Fi)系の規格をサポートします。
物理形状・接続インターフェース
- PCI / PCIe カード — デスクトップやサーバーで最も一般的。PCI Express(PCIe x1/x4/x8/x16)によって帯域が決まります。
- オンボードLAN — マザーボードに統合されたNIC。コストと省スペースの利点がある反面、交換性は低い。
- USBアダプタ — ノートPCや小型機器で利用。手軽に有線/無線接続を追加可能だが、USBバスの帯域がボトルネックとなる場合がある。
- スロット型(M.2、PCIeモジュール) — 小型フォームファクタでノートや組み込み機器向け。
- 光学モジュール(SFP/SFP+ 等) — 光ファイバーや高性能インフラ向け。変換モジュールで銅線(RJ‑45)と差し替え可能な場合もある。
コネクタと伝送媒体
- RJ‑45 — 10/100/1000/10GBASE‑Tなどのツイストペア銅線で用いる標準的なコネクタ。
- 光ファイバー(LC、SC等) — 長距離や高帯域向け。SFP/SFP+/QSFPといったモジュールで差し替え可能。
- 無線(アンテナ端子など) — Wi‑Fiカードは外付けアンテナや基板上アンテナを備える。
主要な機能と高度な技術
LANカードは単にビットを送るだけでなく、多くの高度な機能を備えます。
- MACアドレス管理 — 各NICに割り当てられる物理アドレス(MAC)はレイヤ2での識別に用いられます。
- リンクネゴシエーション / Auto‑MDIX — 速度やデュプレックス(全二重/半二重)の自動設定、ツイストペアのクロス/ストレート自動識別。
- オフロード機能 — チェックサム計算のオフロード、TCP/IPオフロード(TOE)、大規模送信の分割(LSO/GSO)などCPU負荷を下げる機能。
- RSS(Receive Side Scaling)/RPS — 受信処理を複数CPUコアに分散して性能向上。
- Jumbo frames — MTUを標準の1500バイトより大きく(例:9000バイト)して効率化。
- VLANタグ付け(802.1Q) — 仮想LANの識別と分離。
- Wake‑on‑LAN(WoL) — リモートからの起動(マジックパケット)対応。
- PXE / Netboot — ネットワーク経由でのOS起動に対応するブートROM機能。
- SR‑IOV(Single Root I/O Virtualization) — 仮想化環境でNICを複数の仮想ファンクションに分割して割当て、I/O仮想化の性能を高める技術。
性能の限界とボトルネック
LANカードの性能はカード自体のPHY/チップだけでなく、次の要素に依存します。
- ホスト側のバス帯域(PCIe世代とレーン数)。
- CPU性能と割り込み処理(割り込みレートが高いとCPU負荷が増す)。
- ドライバとOSのネットワークスタック実装(オフロード機能やRSSの対応可否)。
- ケーブルやスイッチの能力(例えば、古いCat5ケーブルでは1Gbpsを安定して出せないことがある)。
実運用でラインレートを出すためには、NIC、ケーブル、スイッチ、サーバーのアーキテクチャ(特にPCIe帯域とCPUコア数)のバランスが重要です。
設定・導入・トラブルシューティングのポイント
- ドライバの確認 — OSに合わせた最新ドライバを適用。特にLinuxではethtoolで機能設定、ifconfig/ipで状態確認。
- リンク状態の確認 — ケーブル抜け、速度ネゴシエーション失敗、フル/ハーフのミスマッチをチェック。
- ケーブル品質と規格 — Cat5e以上を使用し、長距離や高速度ではCat6/6A/7や光ファイバーを選択。
- スイッチ側設定 — VLANやポートセキュリティ、スピード固定設定がNICと矛盾していないか確認。
- パフォーマンステスト — iperf/iperf3、netperfなどで実効スループットを測定。
- ログと統計 — エラーやドロップ、CRCエラーなどを確認し物理層の問題か上位層の問題かを切り分け。
セキュリティと管理面の留意点
LANカードは直接ネットワークに接するため、セキュリティ上の考慮が重要です。MACアドレスの偽装(スプーフィング)、ブロードキャスト/マルチキャストの乱用、物理的アクセスによるデバイス交換などがリスクです。スイッチのポートセキュリティ、IEEE 802.1Xによる認証、ファームウェアの更新と信頼できるドライバの利用が推奨されます。
用途別の選び方(家庭〜企業〜データセンター)
- 家庭・個人利用 — 内蔵オンボードまたはUSB 1GbEアダプタで十分。高速化したい場合は2.5GbE対応アダプタへ。
- SOHO / 中小企業 — 1‑10GbEスイッチとNICの組合せ。VLANやQoSのサポートを確認。
- データセンター / サーバー — 10/25/40/100GbEやSR‑IOV対応、複数ポートで冗長化。オフロード機能や高性能ドライバのサポートが重要。
実例:よく使われる用語の簡単な説明
- Full Duplex / Half Duplex — 全二重は同時送受信が可能、半二重は同時送受信が不可(現代はほぼ全二重が標準)。
- Auto‑negotiation — NICとスイッチ間で最適速度とデュプレックスを自動設定する機能。
- MTU — 最大転送単位。大きなMTUはオーバーヘッドを減らすが、対応機器が必要。
まとめ
LANカードは、ネットワーク接続の最前線で重要な役割を担うデバイスです。単なる「差込口」以上に、オフロード、仮想化対応、リンク管理、セキュリティ機能など多くの機能を持ち、用途によって最適な選択が変わります。家庭用からデータセンター向けまで、性能要求に応じて物理インターフェース(RJ‑45/光)、PCIe帯域、ドライバ・ファームウェアのサポート、管理機能を確認して選ぶことが重要です。
参考文献
- Network interface controller — Wikipedia
- Ethernet — Wikipedia
- Intel Ethernet Products
- Linux kernel networking documentation
- RFC 894 — A Standard for the Transmission of IP Datagrams over Ethernet Networks
- IEEE 802.3 Ethernet Standard (概要ページ)


