DDR3メモリとは?仕組み・規格・速度・互換性・脆弱性(Rowhammer)をわかりやすく解説
DDR3 とは — 概要
DDR3(Double Data Rate Type 3 SDRAM)は、コンピュータの主記憶(メインメモリ)として広く使われたDRAM規格の一つです。DDR(DDR1)→DDR2に続く第三世代のDDRメモリで、主に2007年前後からデスクトップ、ノートパソコン、サーバー、組込み機器まで幅広く採用されました。従来世代に比べて転送レートの向上、低電圧化、信号品質改善などが図られており、今日でも多くの既存システムで見られる規格です。
歴史と規格化
DDR3はJEDEC(Joint Electron Device Engineering Council)によって標準化され、最初の規格版は2007年に公表されました(以後の修正版で細かい仕様が追加)。その後、メーカーのオーバークロック向け拡張や低電圧版(DDR3L)などの派生も普及しました。DDR3は次世代のDDR4へと置き換わっていきましたが、移行期間(2010年代前半〜中盤)には多くの製品で採用され続けました。
基本的な仕組みと特徴
- ダブルデータレート転送:クロックの立ち上がりと立ち下がりの両エッジでデータを転送することで、同じ基準クロック周波数において2倍のデータレート(MT/s)を実現します。
- 8n プリフェッチ/バースト長 8:内部的に8ビット幅分(8n)のプリフェッチを行い、バースト長は8ワード(通常は連続8転送)です。これにより一回のアクセスでまとまったデータ転送が効率よく行えます。
- 低電圧化:標準電圧は 1.5V。さらに低電圧タイプとしてDDR3L(1.35V)やさらに低いDDR3U(1.25V)などがあります。低電圧化により消費電力と発熱が抑えられます。
- 改善された信号制御:オンダイ終端(ODT)、フライバイト(fly-by)アドレス配線、ライトレベリング(write leveling)など、信号品質とタイミング調整のための機能が導入され、高速動作での安定性が向上しています。
速度(データレート)と帯域幅の表記
DDR3のデータレートはMT/s(mega transfers per second)で表され、代表的な表記と帯域幅は次の通りです。
- DDR3-800(PC3-6400):800 MT/s → 6,400 MB/s(64ビット幅での理論値)
- DDR3-1066(PC3-8500):1,066 MT/s → 約8,528 MB/s
- DDR3-1333(PC3-10600):1,333 MT/s → 約10,664 MB/s
- DDR3-1600(PC3-12800):1,600 MT/s → 12,800 MB/s
- さらにオーバークロックやメーカー規格としてDDR3-1866、DDR3-2133なども流通しました(JEDEC 標準外・拡張設定を含む)。
帯域幅(MB/s)は、データレート × 8(バス幅64ビット=8バイト)で簡単に求められます。
物理形状と互換性
- DIMM(デスクトップ):DDR3のフルサイズDIMMは240ピンです(DDR2と同じピン数ですが、キー位置が異なり互換性はありません)。
- SODIMM(ノートPC):DDR3用SODIMMは204ピンです(DDR2 SODIMMは200ピン)。
- 登録/バッファ:サーバ向けにRDIMM(Registered DIMM)、LRDIMM(Load-Reduced DIMM)、およびECC対応のバリエーションが存在します。これらは主に大容量メモリ構成や信頼性向上向けです。
- 互換性:物理的・電気的にDDR2/DDR4とは互換性がなく、ソケットや電圧の違い、タイミング差のため差し替えはできません。
信号・タイミング(遅延)について
DRAMの性能は単純な帯域幅だけでなく、タイミング(レイテンシ)でも評価されます。代表的なタイミングパラメータは次の通りです。
- tCL(CAS Latency):コマンド発行からデータが出てくるまでの遅延(クロック数)。
- tRCD(RAS to CAS Delay):行選択後に列アクセスが可能になるまでの遅延。
- tRP(Row Precharge):行を閉じて次の行を開けるまでの時間。
例えば「DDR3-1600 CL9」の場合、内部クロックは800MHz(1600MT/sはデータ線での転送数。ベースクロックは半分)なので、tCL(ns)= 9 / 800MHz = 11.25ns となります。高クロック化によりクロック数上はCLが大きくなる傾向がありますが、実際のns単位の遅延は必ずしも悪化しません。したがって周波数とCLの両方を考慮する必要があります。
電源・消費電力と低電圧化(DDR3L等)
DDR3の標準電圧は1.5Vですが、低電圧版としてDDR3L(1.35V)がJEDECで規定され、多くのノートPCや省電力サーバーで採用されました。低電圧化は静的消費電力や発熱を減らす効果があり、バッテリ駆動時間や冷却要件に寄与します。高性能モジュールではオーバークロック用に1.65Vなどの動作電圧を用いる製品もありますが、これは規格外の設定であり互換性や寿命に注意が必要です。
設計改善点と新機能
- オンダイ終端(ODT):外部終端抵抗を最小化し、信号反射を抑えるためにメモリチップ内部に終端回路を配備。
- フライバイトアドレス/コマンドトポロジー:バスの配線方式を改善しクロストークや遅延を分散。終端での終結(termination)により信号品質が向上。
- ライトレベリング:ホストとメモリ間でDQS(データストローブ)とCK(クロック)の位相を自動調整する機能。高周波動作時に必須となるキャリブレーション手法です。
- データバス反転(DBI):1が多いデータパターンに対しビット反転を行うことで消費電力やEMIを抑える機能(規格で定義されたオプション)。
運用面(ECC, Registered, XMP, OC)
- ECC(Error-Correcting Code):サーバ用途ではECC対応DDR3(1ビットのエラー訂正等)が信頼性向上のために重要です。クライアント用は多くが非ECC。
- RDIMM / LRDIMM:大容量構成での信号負荷軽減や安定化のため、レジスタやロードリデュース回路を備えたモジュールが用いられます(サーバ向け)。
- XMP(eXtreme Memory Profile):Intelが定めたSPD拡張で、簡単にメーカーの公称オーバークロック設定をBIOSで適用できます。XMP設定は規格外動作を含むため、対応マザーボードと電圧管理が必要です。
セキュリティと脆弱性(Rowhammerなど)
近年注目された問題の一つに「Rowhammer」があります。Rowhammerは特定の行を短時間に繰り返しアクセス(リフレッシュを抑える)することで、隣接行のビット反転を引き起こす現象で、主にDRAMの微細化に伴う副作用として観測されました。DDR3世代でも多くの実験で脆弱性が示されており、システムレベルでの緩和策(ECCの採用、リフレッシュポリシーの変更、メモリコントローラ側の対策)や、後続規格でのハードウェア対策(TRRなど)が検討されています。したがってセキュリティや仮想化環境、マルチテナント環境では注意が必要です。
実世界の利用状況と後継
DDR3はコスト対性能比が良く、長年にわたり広範な採用実績があります。デスクトップ/ノートPC、サーバー、組込み分野まで幅広く使われ、特に2010年代前半までは主流でした。その後、より高帯域・低レイテンシ・低電力を目指したDDR4へ移行しましたが、既存機器の保守・コスト面からDDR3が長く残存している分野も多く見られます。
まとめ(要点)
- DDR3は2000年代後半に登場した第三世代DDR SDRAMで、帯域幅向上・低電力化・信号品質向上が特徴。
- 標準電圧は1.5V、代表的なデータレートはDDR3-800〜DDR3-1600(さらに高周波は拡張で流通)。
- 物理的には240ピンDIMM(デスクトップ)・204ピンSODIMM(ノート)で、DDR2/DDR4とは互換性なし。
- ODT、write leveling、fly-byなどの技術で高速化に対応。Rowhammerのような脆弱性も報告され、対策が重要。
- 現在はDDR4/DDR5への移行が進むが、既存システムやコスト重視の領域では依然として使用されている。
参考文献
- JEDEC - DDR3 関連ドキュメント(規格と公表資料)
- Wikipedia 日本語:DDR3-SDRAM
- Micron:DDR3 SDRAM 製品情報(技術概要)
- Samsung Semiconductor:DDR3 DRAM 製品ページ
- Yoongu Kim et al., "Flipping Bits in Memory Without Accessing Them: An Experimental Study of DRAM Disturbance Errors"(Rowhammer 論文)
- Intel:メモリ技術に関するホワイトペーパー・サポート記事(XMPやタイミングの説明)


