EDO RAMとは?仕組みとFPM/SDRAMとの違い、性能・歴史をわかりやすく解説
EDO RAM とは — 概要
EDO RAM(Extended Data Out RAM、拡張データ出力DRAM)は、1990年代中盤に主流だったDRAMの一種で、従来の「FPM(Fast Page Mode)DRAM」に対してアクセス効率を改善した技術です。EDOはメモリの内部制御と出力タイミングを調整することで、データの出力期間を延長し、次のアクセスサイクルを重ねて開始できるようにした点が特徴です。これにより、同じクロック環境下でもメモリサイクル時間を短縮し、実効的なメモリ性能を向上させることが可能になりました。
EDO の技術的なポイント(動作原理)
EDO のキモは「データ出力の延長(Extended Data Out)」にあります。具体的には、DRAMが読み出しを行った際の出力(データバス上の値)を、これまでよりも長く保持するように内部回路を制御します。こうすることで、データが有効である期間に次のアクセスのアドレスセットや制御信号の準備を開始でき、メモリのサイクルタイム(次の完全な読み書きが可能になるまでの時間)を短縮できます。
- 従来(FPM):CAS(Column Address Strobe)でデータを出力 → 出力解除 → プリチャージ/次サイクル。出力解除のタイミングがボトルネックになり得た。
- EDO:データ出力を延長しつつ、次のアクセスのための信号を早めに扱えるため、出力保持と次サイクル準備を重ねて行える。
重要な点は、EDOが「DRAMセルの構造自体を根本的に変えた」のではなく、主に内部タイミング(出力バッファや制御ロジック)を見直すことで性能向上を実現していることです。したがって製造プロセスやチップ密度の面で劇的な変化を伴わずに、比較的ローコストで効果を得られました。
歴史的背景と普及時期
EDOは1990年代前半〜中盤にかけて登場し、486や初期のPentium世代のパソコンで広く採用されました。当時のパソコン用メモリはSIMM(30ピン、後に72ピン)モジュールが主流で、EDOモジュールは「EDO RAM」として販売され、FPMモジュールに対する性能向上版としてアピールされました。
ただし、EDOはあくまで「進化系の過渡期技術」であり、のちに登場したSDRAM(Synchronous DRAM)やその後のDDR系列に置き換えられていきます。SDRAMはクロック同期・パイプライン化によってさらに効率的なデータ転送を実現したため、1997年頃から急速に主流を奪われました。
FPM DRAM と EDO の比較
- 基本動作:どちらも非同期DRAM(メモリコントローラからのタイミング信号で動作)だが、EDOは出力タイミングの最適化で実効性能を高める。
- サイクルタイムの改善:FPMでは一般的に 70ns 前後のサイクルが多かったのに対し、EDOは 60ns、50ns、さらに 40ns 台の仕様が登場して、理論上のサイクル短縮が可能になった。
- 実効効果:アクセスパターンやシステムのメモリアクセス分散に依存するが、ベンチマークや体感では 10〜30% 程度の性能向上が得られることが多かった。
EDO と SDRAM(およびその後の技術)との違い
EDOは非同期DRAMの改良版であるのに対し、SDRAMはメモリ動作をシステムクロックに同期させ、コマンドのパイプライン処理を可能にした点で根本的に異なります。SDRAMでは同時に複数の命令段階(読み出し準備、データ転送、プリチャージなど)をパイプライン化できるため、高クロックで動作するモダンCPUのメモリ要求に馴染みやすく、帯域と遅延の両面で大幅な改善が可能です。
- 同期 vs 非同期:SDRAMは同期式。EDOは非同期。
- パイプライン化:SDRAMは多段パイプラインで高スループットを実現。
- 遅延と帯域:SDRAMはより高クロックでの運用が可能で、結果的にEDOより高帯域・低レイテンシを達成。
実装形態と互換性
EDOは主に30ピン/72ピンSIMMの形で市場に出回っていました。物理的・電気的仕様がFPMと似ている部分もあるため、一部のマザーボードではFPMとEDOの両方をサポートすることがありましたが、確実にEDOの利点を活かすにはメモリコントローラ(マザーボード側)のEDOサポートが必要です。古いコントローラではEDOモードを正しく扱えない場合があり、その場合はEDOでもFPM相当の動作しかできないことがあります。
また、EDOモジュールは現代のDIMM(SDRAM/DDR系)とは物理ピン数や電気特性が異なるため、互換性は全くありません。現代PCでEDOを用いることは実質不可能です(対応するマザーボード自体が稀少)。
性能面の実務的影響 — 数値的な目安
EDOの性能効果は環境やワークロードによりますが、一般的な目安は以下の通りです。
- サイクルタイム短縮:FPM 70ns → EDO 60〜50ns(さらに 40ns 台の製品もあり)。
- ベンチマーク上の向上率:10〜30% 程度(CPUの世代やメモリ依存度が高い処理では差が大きくなる)。
- 実効スループット:データ転送の待ち時間が減るため、ランダムアクセスや多頻度の小さな読み書きに対する改善が顕著。
ただし、シーケンシャルな大容量転送ではDRAMチップ自体のバス幅やバースト方式に依存するため、EDOの利点が限定的な場合もあります。
利点と限界(なぜ長続きしなかったのか)
利点:
- 既存のDRAM設計を大きく変えずに性能向上が可能(コスト効率が良い)。
- 当時のパソコンで体感できる性能改善を実現できた。
限界:
- 非同期設計の限界であり、ピーク帯域やスケーラビリティに限界があった。
- SDRAMの登場により、高クロック・パイプライン処理で一気に差をつけられた。
- 互換性やマザーボードの対応状況によっては、EDOの恩恵が受けられない場合がある。
実務上の導入例と用途
EDOは主にパーソナルコンピュータ(デスクトップ、ノート)で採用されました。486や初期Pentium世代のシステムアップグレード時に、FPMからEDOに切り替えることで比較的容易に性能向上を図るケースが多く見られました。また、一部のワークステーションや組み込み機器でもコスト対効果の観点から採用されています。
保存・転用・エミュレーションの観点
現在ではEDOモジュールや対応マザーボードは骨董的存在になっており、レトロPCの復元・保守や研究目的で扱われることが主です。エミュレータや仮想化環境でEDO固有の挙動を再現する必要はあまりありませんが、実機レベルでの検証を行う場面では実物が必要になります。
まとめ(要点)
EDO RAMは、1990年代にFPM DRAMを性能面で強化するための過渡的なDRAM技術です。内部の出力タイミングを延長し、次のアクセスの準備とデータ出力の期間を重ねることでサイクルタイムを短縮し、実効性能を向上させました。しかし、根本的なアーキテクチャ(非同期DRAM)に由来する限界があり、より先進的な同期式SDRAMに置き換えられていきました。歴史的には重要な進化段階であり、レトロPCの理解には欠かせない技術です。
参考文献
- EDO DRAM — Wikipedia (英語)
- Fast Page Mode DRAM — Wikipedia (英語)
- SDRAM — Wikipedia (英語)
- PC Magazine Encyclopedia: EDO RAM
- AnandTech — 記事(メモリ技術史の解説を含む一般記事)


