Fastify入門:高速・スキーマ駆動のNode.jsフレームワークを選ぶ理由と実践導入ガイド
Fastify とは──概要と位置付け
Fastify は、Node.js 上で動作する高性能な、拡張性の高い Web フレームワークです。軽量かつ低オーバーヘッドを目標に設計されており、JSON スキーマに基づくバリデーションや高速なシリアライザ、プラグイン駆動のアーキテクチャを特徴とします。高速なログライブラリ(Pino)を標準で採用し、開発者体験と運用面の両方を重視した設計になっています。
なぜ Fastify を選ぶか
- 高性能:ルーティングやシリアライズ処理を最適化し、同条件下で高いスループットが出ることが多い。
- 拡張性:プラグインシステムとカプセル化(encapsulation)により、大規模アプリケーションでも責務分離が容易。
- スキーマ中心:JSON Schema を用いたリクエスト/レスポンスのバリデーション・シリアライズが組み込まれているため、安全で効率的。
- TypeScript 対応:公式の型定義が提供され、型安全な開発が可能。
主要な特徴と仕組み
以下は Fastify の主要な技術的特徴です。
- プラグインベースのアーキテクチャ:fastify.register() によるプラグイン登録で機能を追加します。プラグインはカプセル化され、スコープ内でのデコレータやフックが外側へ影響を与えないため、モジュール性が高い。
- スキーマ駆動のバリデーション&シリアライゼーション:AJV(デフォルトの JSON Schema バリデータ)を使った入力検証と、fast-json-stringify による効率的なレスポンスシリアライズを組み合わせ、無駄な処理やメモリ割り当てを減らす。
- 高速ログ(Pino)搭載:デフォルトで Pino を利用し、低オーバーヘッドで構造化ログを出力できる。
- フックとライフサイクル:onRequest、preValidation、preHandler、preSerialization、onSend、onResponse、onError など、リクエスト処理の各段階でフックを定義できる。
- デコレータ:fastify.decorate() によってインスタンス、リクエスト、レスポンスにメソッドやプロパティを拡張可能。
- HTTP/2 と TLS 対応:Node.js の http2 モジュールを利用した HTTP/2 サーバーや TLS(HTTPS)構成に対応。
- TypeScript サポート:型定義を標準で提供し、リクエストやレスポンスの型安全な扱いがしやすい。
基本的な使い方(コード例)
以下は Fastify の簡単なサーバ例です。JSON Schema を利用して、リクエストパラメータの検証とレスポンスのシリアライズを行っています。
<!-- HTML 内で表示する場合は pre/code タグを利用 -->
<?php ?>
<!-- 実際の JS コード例 -->
const fastify = require('fastify')({ logger: true })
// スキーマ定義
const schema = {
params: {
type: 'object',
properties: {
id: { type: 'string' }
},
required: ['id']
},
response: {
200: {
type: 'object',
properties: {
id: { type: 'string' },
message: { type: 'string' }
}
}
}
}
fastify.get('/item/:id', { schema }, async (request, reply) => {
const { id } = request.params
return { id, message: 'hello' } // schema に基づきシリアライズされる
})
fastify.listen({ port: 3000 }, (err, address) => {
if (err) {
fastify.log.error(err)
process.exit(1)
}
fastify.log.info(`server listening on ${address}`)
})
プラグインとエコシステム
Fastify には公式・コミュニティによる多くのプラグインがあります。代表例:
- fastify-cors:CORS 設定
- fastify-compress:レスポンス圧縮
- fastify-static:静的ファイル配信
- fastify-jwt:JWT ベースの認証
- fastify-multipart:ファイルアップロード
- fastify-swagger:API ドキュメント生成
- fastify-autoload:ディレクトリ単位での自動プラグイン読み込み
これらは必要な機能をプラグインとして簡単に追加でき、プロジェクトごとに柔軟に構成できます。
パフォーマンスに関する注意点
Fastify は設計上高速ですが、実運用で常に最速を保証するわけではありません。ベンチマークは環境やワークロードに依存します。以下は性能を最大限引き出す際のポイントです。
- JSON Schema を適切に定義して、fast-json-stringify の恩恵を受ける。
- ボトルネックとなる同期処理や重い計算は避け、外部処理は非同期化する。
- 大量接続時は Node.js のクラスターやプロセスマネージャ(PM2 など)でスケールアウトする。
- Express 互換のミドルウェアを利用するとオーバーヘッドが増えることがある(必要な場合は fastify-express などを検討)。
- ログ出力量が多すぎると I/O がボトルネックになるため、Pino の出力設定を見直す。
Express など他フレームワークとの違い
Express と比べると設計思想が異なります。主な差分:
- スキーマ駆動:Fastify はスキーマを中心に最適化されているのに対し、Express はミドルウェア中心。
- プラグインのカプセル化:Fastify は名前空間的なカプセル化を提供し、モジュールの独立性を保ちやすい。
- デフォルトのロギング:Fastify は Pino を採用しており、高速な構造化ログが標準。
- 互換性:Express のミドルウェアをそのまま使うとオーバーヘッドが増える場合がある(互換プラグインあり)。
TypeScript と開発体験
Fastify は TypeScript の型定義を公式に提供しており、request/response の型注釈を行うことで、コンパイル時に多くのバグを防げます。プラグインの型拡張(decorate で追加したプロパティの型反映)も行いやすく、IDE の補完が効く開発体験が得られます。
運用上の注意点
- バージョン互換性:メジャーバージョン間で破壊的変更が入ることがあるため、アップグレード前にリリースノートを確認する。
- メモリとリーク監視:長時間稼働するサービスではメモリリークに注意し、プロファイルや監視を導入する。
- セキュリティ:入力バリデーション、CORS、ヘッダ保護(helmet 相当)、レートリミット等を適切に設定する。
- ログ設計:Pino のログレベルや JSON 出力先を設計し、ログ量が過大にならないようにする。
導入のステップ(実務的アドバイス)
- PoC でスキーマベースの開発フローを試し、リクエスト/レスポンスのスキーマを早期に設計する。
- プラグインで機能を分割し、各プラグインを小さい単位でテストする。
- TypeScript を導入する場合は型定義やプラグインの型拡張を整備する。
- ロードテストで実際のトラフィックパターンを模し、ボトルネックを検証する。
まとめ
Fastify は「速度」と「拡張性」を両立させた Node.js フレームワークで、API サービスやマイクロサービス、JSON ベースの通信が中心のアプリケーションに向いています。JSON Schema に基づく明確な契約、プラグインによる責務分離、Pino による効率的なログ出力といった点で、運用・保守の面でも利点があります。一方で、どのフレームワークにも言えることですが、実際の性能や適合性はユースケース次第なので、導入前に PoC と負荷試験を行うことを推奨します。
参考文献
- Fastify 公式ドキュメント
- Fastify GitHub リポジトリ
- fast-json-stringify(シリアライザ)
- AJV(JSON Schema バリデータ)
- Pino(ログライブラリ)
- TechEmpower ベンチマーク(比較検討の参考)


