NanoPi徹底ガイド:モデル別の選び方・用途・ソフトウェアサポートとRaspberry Pi比較
NanoPiとは
NanoPi(ナノパイ)は、中国のメーカーFriendlyELEC(旧FriendlyARM)が展開するシングルボードコンピュータ(SBC)のシリーズ名称です。Raspberry Piと同様にワンボードでCPU、メモリ、GPIOなどを搭載し、組み込み機器、IoT、プロトタイピング、メディア再生、ルーター用途など幅広い用途を想定して設計されています。モデルごとにサイズ、搭載SoC、入出力インターフェース、消費電力が大きく異なるため、用途に応じて最適なモデルを選べるのが特徴です。
メーカーと沿革(簡潔に)
NanoPiを製造するFriendlyELECは、組み込み向けのARMボードを長く手がけている企業で、教育向け、産業向け、ホビー向けの各種ボードをリリースしてきました。公式サイトと技術Wiki、フォーラム、GitHubでボード向けのイメージやドライバ、チュートリアルを公開しており、独自のイメージ(Ubuntu/Debian系のミニマムイメージやAndroidイメージ)やボード固有のドキュメントを提供しています。なお、各ボードのソフトウェアやカーネルのmainline対応状況はSoCによって異なります。
ラインナップの特徴(カテゴリ別)
NanoPiシリーズは多岐に渡るモデルがあり、大まかに以下のようなカテゴリに分けられます。モデル名や世代が多いため、購入や開発前に公式ドキュメントで該当モデルの仕様を必ず確認してください。
- 超小型/ヘッドレス系(例:NEO系、Duo系)
小型・低消費電力でGPIOのみを重視したモデルやWi‑Fi/BLEを内蔵したヘッドレス用途向け。ケース内やIoTセンサーノード、軽いネットワーク機能を持たせる用途に向きます。HDMI等の映像出力を持たないモデルもあります。 - 高性能マルチメディア系(例:Mシリーズなど)
CPU/GPU性能が高く、HDMI出力、USB3.0、eMMC、場合によってはPCIe/USB 3.1を備えるモデルもあるため、メディアセンター、エッジコンピューティング、軽量なAI推論にも適します。 - ルーター/ネットワーク系(Rシリーズ)
複数の有線LANポートや高性能なネットワークプロセッサ、低消費電力でのパケット処理に適したSoCを採用したモデルがあり、OpenWrt/FriendlyWrtなどでルーターやファイアウォール、VPNゲートウェイに使われます。 - 産業・拡張向け
産業用途での長期供給、組み込みI/O(RS232/RS485、MIPIカメラ、タッチパネル対応)を重視した拡張基板やキャリアボードが用意されていることがあり、製品に組み込む際の選択肢が豊富です。
ソフトウェアとサポート状況
FriendlyELECは公式に各種LinuxディストリビューションやAndroidのイメージを提供しています(例:FriendlyCore、Ubuntu/Debianベースのイメージ、Androidイメージ)。また、ルーター向けにはOpenWrt系のイメージを用意しているモデルもあります。ただし、ソフトウェアの成熟度やメンテナンス状況はモデルごとに差があります。
メインラインLinuxカーネル(kernel.orgのupstreamカーネル)への対応状況はSoCベンダーやコミュニティの関与度に左右され、オフィシャルイメージでは独自パッチ込みのカーネルを用いている場合があります。より長期的・安定的なサポートや最新カーネル対応を重視する場合は、Armbianなどのコミュニティビルドが対応しているかを確認すると良いでしょう。Armbianは多くのARMベースボードのmainline寄せの取り組みや独自ビルドを提供しています。
開発時には以下のような公式/コミュニティ資源が有用です:公式Wiki、フォーラム、GitHub上のイメージやドライバ、Armbianのプラットフォームページ。公式ドキュメントにはピン配列、電源要件、ブート方法(microSDやeMMC、USBブート)などが掲載されています。
用途例(実際の活用シナリオ)
- IoTゲートウェイ/センサーノード:小型で低消費電力のNEO系を使い、MQTTやHTTPでデータを集約する。
- ルーター/ネットワークアプライアンス:複数ギガビットLANポートを備えたRシリーズをOpenWrtで動かし、VPNやファイアウォール、帯域制御を実装。
- メディアサーバ/プレーヤー:高性能SoC搭載モデルで4K再生やハードウェアデコードを利用したプレーヤーを構築。
- エッジAI/コンピュータービジョン:NPUやGPU搭載モデル、あるいはUSBアクセラレータと組み合わせて推論を行う。
- プロトタイプや組み込み製品:eMMC搭載や産業向け拡張を用いて製品化を目指す。
Raspberry Piなど他ボードとの比較
NanoPiシリーズはモデルバリエーションが豊富で、用途に応じて非常に細かく選べる点が強みです。一方で、Raspberry Piは巨大なコミュニティ、豊富な教材とエコシステム(HAT互換性、公式OSイメージ、サポートされるライブラリ類)を持ち、ホビーや教育用途では依然として優位です。
比較のポイント:
- ハードウェアの多様性:NanoPiは用途に応じた細かな機能差のモデルが多い。
- ソフトウェアサポート:Raspberry Piの方が公式・サードパーティ含めてソフトウェア互換性が高く、初心者向け。NanoPiはモデルによってドライバやmainline対応がまちまち。
- 価格/性能比:モデル次第でNanoPiはコストパフォーマンスが良い選択肢になることがある。
- ドキュメントの充実度:Raspberry Piに比べると一部のNanoPiモデルでは情報が不足しがちなので、公式Wikiやフォーラムを事前確認することが重要。
開発・運用時の実務的な注意点
- 仕様確認を徹底する — 型番(世代)によってピン配列や電源入力、対応OSが変わります。公式の仕様表とWikiのドキュメントで確認してください。
- 電源供給 — 高性能SoC搭載モデルは安定した電源が必要です。電圧降下や過負荷による挙動に注意し、公式推奨の電源や電流容量を確保してください。
- 熱対策 — RK3399など高性能SoCは負荷時に発熱します。ヒートシンクやファンによる冷却を検討してください。
- ブート/ストレージ — microSDブート、eMMC、USBブートなどモデルごとにサポート状況が異なります。eMMCの書き換えやバックアップ方法も事前に理解しておくと安全です。
- シリアルコンソール — トラブルシュート時にはTTLシリアル(USBシリアルアダプタ)でコンソールに接続できると便利です。ピン電圧(3.3V等)を確認してください。
- ソフトウェア選定 — 安定性や長期運用を重視するなら、mainlineカーネルに近いArmbianやコミュニティでメンテされているイメージを検討すると良い場合があります。公式イメージはボード固有の機能や最適化が含まれていることが多いです。
購入とサプライチェーン
NanoPiはFriendlyELECの公式ストアや各種通販(Amazon、AliExpressなど)、国内の電子部品/開発ボード販売店で入手できます。産業用途での大量購入や長期供給が必要な場合は、公式に問い合わせて在庫・供給体制を確認することをおすすめします。また、並行輸入品や互換ボードに関しては保証やサポートの違いに注意してください。
まとめ
NanoPiは多様な用途に応えられるシングルボードコンピュータ群で、機能的に最適化された多数のモデルが魅力です。プロトタイピングからエッジコンピューティング、ネットワーク機器、メディア再生まで幅広く使えますが、ソフトウェアサポートやドキュメントの充実度はモデルにより差があるため、導入前に公式ドキュメントやコミュニティ情報をよく確認することが重要です。用途や必要なインターフェース、電力・熱設計を整理したうえで適切なモデルを選べば、費用対効果の高い開発/運用環境を構築できます。
参考文献
- FriendlyELEC(FriendlyARM)公式サイト
- FriendlyELEC Wiki(ボード別ドキュメント)
- Armbian(コミュニティによるARMボード向けディストリビューションとプラットフォーム情報)
- FriendlyARM / FriendlyELEC - GitHub(公式リポジトリ)


