Rock Piシリーズ徹底解説:Rock Pi 4を軸にしたラインアップ・比較・用途別活用と導入ガイド
はじめに — Rock Piとは何か
Rock Pi(ロックパイ)は、中国のメーカーRadxa(ラドクサ)が開発・販売するシングルボードコンピュータ(SBC)シリーズの総称です。Raspberry Piのような教育/ホビイスト向けボードと同じカテゴリに属しますが、性能や拡張性、インターフェースの点で独自の特徴を持ち、組み込み用途やホームサーバ、メディアプレーヤー、エッジコンピューティングなど幅広い用途で利用されています。
歴史とラインアップの概略
RadxaはRock Piシリーズを通じて複数のモデルを展開しており、代表的なものにRock Pi 4(RK3399搭載)、小型のRock Pi S、IntelベースのRock Pi X、近年の高性能モデルであるRock 5(RK3588系を搭載するモデル)などがあります。各モデルはターゲット用途やサイズ、インターフェースが異なり、「低消費電力のIoT端末」から「NVMe対応の高速ストレージを持つ小型サーバ」まで、多様なニーズに応えられる設計になっています。
代表モデル:Rock Pi 4 の特徴(技術的要点)
- SoC:Rock Pi 4の代表的な構成ではRockchip RK3399を採用。RK3399は高性能なデュアルコア Cortex-A72と低消費電力なクアッドコア Cortex-A53を組み合わせたヘテロジニアスなヘキサコア構成で、CPU性能と電力効率のバランスに優れます。
- メモリ:LPDDR4メモリを搭載(モデルにより1GB/2GB/4GBなどのバリエーションが存在します)。
- ストレージ:microSDカードスロットのほか、eMMCモジュール用ソケットやM.2(NVMe)スロットを備えるモデルがあり、高速ストレージを直接接続して小型NASやデータ集約型アプリケーションを構築できます。
- インターフェース:ギガビットイーサネット、USB 3.0ポート、HDMI出力、40ピンGPIOヘッダなどを搭載。GPIOはRaspberry Piの40ピン配列と互換性の高いレイアウトを採用していますが、電気的仕様やピン機能は機種やファームウェアにより差があるため接続前にピンアウトを確認する必要があります。
- 拡張性:M.2スロット(NVMe)やUSB 3.0により高速I/Oを実現できるため、ストレージ集約用途や外部デバイスを多用するプロジェクトに向きます。
ソフトウェアサポートとコミュニティ
Rock Piシリーズは公式のLinux(Debian / Ubuntuベース)やAndroidイメージが提供されており、さらにArmbianなどのコミュニティ配布とも連携しています。RadxaのWikiやフォーラム、GitHubリポジトリにはボード固有のドライバやブート手順、カーネルパッチ、ファームウェアが公開されており、使い始めの情報源として充実しています。
ただし、Raspberry Piに比べるとユーザベースやサードパーティのエコシステムは小さく、特に初心者向けのチュートリアルや完成されたHAT(拡張モジュール)類の入手性は限られます。高度な機能(NVMeやPCIe接続、GPU機能など)を活かすにはLinuxカーネルの設定やドライバ周りの知識が若干必要になることがあります。
他ボード(特にRaspberry Pi)との比較
- 性能面:Rock Piの上位モデル(例:RK3399搭載機)は、シングルスレッドとマルチスレッドともに十分な性能を持ち、特定ワークロードではRaspberry Piと比べて優位になる場合があります。一方でRaspberry Pi 4のBCM2711(クアッドA72)も汎用的に高性能であり、用途やソフトウェア依存性によって評価は変わります。
- 拡張性:Rock PiはNVMeやPCIe系の拡張性を持つモデルが多く、高速ストレージやPCIeデバイスを直接接続できる点が強みです。Raspberry Piは基本的にUSB経由やPCIe接続が容易ではないため、ストレージ性能で差が出ます。
- エコシステムとサポート:Raspberry Piは教育用途から産業用途まで広範なエコシステムと大規模コミュニティが存在するため、ソフトウェアや周辺機器の入手性で優位です。Rock Piは性能や拡張性で勝負する一方、情報の量では劣ります。
代表的な用途(ユースケース)
- ホームサーバ/NAS:NVMeやeMMCを活かして小型のファイルサーバやバックアップサーバを構築できます。USB 3.0とギガビットイーサネットの組み合わせで十分なスループットを得られます。
- メディアプレーヤー/ストリーミング:ハードウェアデコーダ(RK3399搭載機など)を使った4K動画再生やメディアサーバとしての運用が可能です。
- エッジコンピューティング/AI推論:CPU性能とPCIe/NVMeなど高速I/Oを活かしてデータ収集や軽量な推論(外部アクセラレータと組み合わせ)を行うエッジデバイスとして利用できます。
- 教育・開発ボード:GPIOやカメラ・ディスプレイインターフェースを用いて組み込み機器のプロトタイプやロボット制御に利用できます(ただしハード/ソフトの互換性確認は重要)。
注意点と運用上のポイント
- 発熱:高性能SoCは負荷時に発熱しやすく、安定稼働のためにヒートシンクやファンなどの冷却対策が推奨されます。
- 電源:高速ストレージやUSB機器を複数接続する場合は、十分な電流を供給できる電源(推奨の定格)を使うこと。USB-C給電や外部5V/3A級の電源が必要になるケースがあります。
- ソフトウェア互換性:一部ソフトウェアやドライバは汎用ARM環境で動作するものの、ハードウェア固有のドライバやビデオデコーダーの動作には公式/コミュニティのサポート状況を確認してください。
- ピンアウトと電圧:GPIOを扱う際はピン構成や電圧レベル(3.3Vなど)を確認し、直接接続による破損を避けてください。Raspberry Pi互換の配列でも機能差異があるため注意が必要です。
導入時の選び方(チェックリスト)
- 用途に対する性能要件(CPU・GPU・メモリ)を明確にする。
- ストレージの種類(microSD、eMMC、NVMe)や要求されるI/Oスループットを確認する。
- 周辺機器(カメラ、ディスプレイ、センサ類)の互換性とGPIO/インターフェースを調べる。
- 公式イメージやArmbianなどコミュニティイメージのサポート状況を確認する。
- 冷却と電源要件を満たすケースやアダプタを用意する。
導入後の運用とトラブルシューティングのヒント
初期セットアップでは公式WikiやRadxaフォーラム、Armbianのドキュメントを参照してOSイメージの書き込み、ブート設定、ファームウェア更新を行うのが安全です。NVMeブートやeMMCブートを利用する場合はブートローダ(U-Boot)やパーティション構成に関する手順を正確に踏む必要があります。また、起動後にネットワークが不安定な場合はイーサネットケーブルやスイッチ、電源の安定性をまず確認してください。
まとめ — Rock Piはどんな選択肢か
Rock Piシリーズは「高い拡張性」と「高性能なSoCを手頃な価格で提供する」ことを特徴としたSBCです。特にNVMeストレージやPCIeを活かした小型サーバやメディア用途、エッジコンピューティングで魅力を発揮します。一方でRaspberry Piほどの巨大なソフトウェアエコシステムはなく、ハードウェア固有の設定やドライバ調整が必要になることがあります。用途に応じてメリットとデメリットを比較し、公式ドキュメントやコミュニティ情報を参照しながら検討するのが良いでしょう。
参考文献
- Radxa Wiki — Rock Pi 4
- Radxa Wiki — Rock Pi S
- Radxa Wiki — Rock Pi X
- Radxa Wiki — Rock 5 Model B
- Radxa 公式サイト
- Armbian — Rock Pi 4 サポートページ


