シュトックハウゼン入門から深掘りまで:レコードで聴く完全ガイドと版・録音の選び方

Karlheinz Stockhausen — レコードで聴くべき入門と深掘りガイド

20世紀音楽史を語るとき、Karlheinz Stockhausen(カールハインツ・シュトックハウゼン)は避けて通れない存在です。電子音楽、空間配置、身体的/儀式的要素を含む作品群は、クラシック/前衛/実験音楽の境界を押し広げました。本コラムでは「レコード(音源)としてぜひ所有したい/聴いてほしい」作品を厳選して紹介し、それぞれの聴きどころ、版や録音に関する実務的な選び方、入門から深追いまでの順序を示します。なお、レコードそのもの(再生・保管など)の解説は含めません。

聴き始めのおすすめ(入門編)

  • Stimmung(1968)

    6人の男性声による倍音歌唱(過倍音の強調や微分音を含む)を用いた長大な声の組曲。礼拝的で反復的な構造があり、初めてStockhausenを聴く人にも入って行きやすい作品です。声だけでここまで豊かな抽象的時間感とハーモニーが実現されることに驚くはず。複数の録音がありますが、作曲者が監修したものや公式Complete Edition収録のものが音質・解釈ともに信頼できます。

  • Kontakte(1958–60)

    電子音と打楽器・ピアノを統合した重要作。電子音響の空間操作(スピーカーを使った移動感)とアコースティック楽器の存在が緊張感を生みます。エレクトロアコースティックな表情を理解するには最適で、複数の版(電子のみの版、電子+楽器の版)が存在するため聞き比べも面白いです。

必聴の名盤(代表作の深掘り)

  • Gesang der Jünglinge(1955–56)

    少年合唱(ボーイ・ソプラノ)の声を電子音処理と結び付けた、電子音楽史上のマスターピース。人間声と合成音の「溶け合い」を追求した点で画期的です。歴史的な初期録音は時代を感じさせる部分もありますが、リマスターやComplete Editionの音源で聴くと、立体的な音像が現代の再生環境でも楽しめます。

  • Gruppen(1955–57)

    3つのオーケストラを使い、時間と空間を精密に操作する大型作品。指揮者とオーケストラ配置の違いが演奏ごとの印象を大きく変えます。レコードで聴く際は録音時の配置やホールの響きを記した解説をチェックすると、一層理解が深まります。オーケストラ音楽の前衛的到達点として必聴です。

  • Hymnen(1966–67/1970)

    世界の国歌音素材を電子的に扱い、政治的・文化的な引用と音響変容を通じて新たな意味を作る実験的大作。断片のコラージュと壮大な音の空間化が特徴で、聴くほどに各国の「音像」とStockhausenの編集技術が対話するのが面白い作品です。

  • Mantra(1970)

    2台のピアノを電気的に処理(リングモジュレーター等)して、反復的な「マントラ」技術を拡張した室内楽。ピアノの物理的な音と電子処理が絡み合う様子は、作曲家の「公式(フォーミュラ)」手法を理解するうえで重要です。録音の違い(演奏者・機材)で音像が大きく変わるので、好みのエディションを探す楽しみがあります。

  • Moment(Momente)(1962–69)

    声やソロ楽器、コーラスを含む断片的な「モーメント」で構成される作品。逐次的な時間を逸脱する作りで、テクスト(言葉の使い方)や局面の切り替えが魅力です。現代音楽のドラマトゥルギー(構成術)を学ぶ教材としても有益。

大型サイクルと近作(深掘り向け)

  • Licht(1977–2003)

    7日間をテーマにしたオペラ群(全7部)。物語性、演出、音響実験が混在する超大作で、レコード(およびCD/デジタル)での全曲聴取は非常に重厚です。部分的に抜粋された名演盤から入り、気に入った登場人物やエピソードを追っていくのが現実的なアプローチ。ヘリコプタ弦楽四重奏など象徴的な場面を含むため、楽曲単体で話題になることも多いです。

  • Aus den sieben Tagen(1968)

    「直観音楽(Intuitive Music)」の集成。楽譜ではなく、指示文や行為を通じて演奏が生成されるタイプの作品群です。録音は演奏家ごとに現れ方が異なり、解釈の幅の大きさを味わえます。スコアに頼らない音楽表現を知るうえで重要。

録音・版の選び方(何を基準に探すか)

  • 作曲者監修/公式Complete Editionを優先する
    Stockhausenは自作の録音制作に非常に関与したため、作曲者監修盤やStockhausen Complete Edition(公式全集)に収められたリマスター音源は解釈・音質ともに信頼できます。まずはここから聴くのが安全です。

  • 歴史的初演録音と再録音を聴き比べる
    初期録音(1960s〜70sのDGなどのLP原盤)は当時の演奏慣習や機材感が色濃く残り別の魅力を持ちます。一方、近年のリマスターや再録音は音の分離や空間表現が改善されていることが多い。作品によって「古い方が良い」と感じる場合もあるので、可能なら両方を聴き比べてください。

  • 版の違いに注意
    Kontakteの「電子のみ」版と「電子+楽器」版、あるいは各作品の改訂版など、版が異なると作品の印象が変わります。レーベルや解説に「version」「revision」「(electronic version)」などの注記がないか確認を。

  • 解説書き(ブックレット)を読む
    Stockhausenの作品は構造やパラメータが複雑なので、録音に付属する解説(原文・翻訳)は理解を助けます。特にLichtやHymnenのような大作は必読です。

購入・聴取のおすすめ順(初心者→中級→上級)

  • Step 1(入門): Stimmung → Kontakte(電子+楽器版)
  • Step 2(拡張): Gesang der Jünglinge → Mantra → Aus den sieben Tagen(抜粋)
  • Step 3(深堀): Gruppen → Hymnen → Momente
  • Step 4(全集級): Licht(興味あるエピソード単位で) → Stockhausen Complete Edition(全集を通して作曲史的文脈を学ぶ)

聴き方のコツ(作品ごとのポイント)

  • 電子音楽作品
    スピーカーの配置やヘッドフォンでの定位感を丁寧に確認。Gesang der JünglingeやKontakteでは音が左右や前後に動くことが重要な要素です。

  • 声の作品(Stimmungなど)
    倍音や声の共鳴に注目。短時間で劇的な変化が少ないため、聴くときは音色の微細な変化を追いかけると新発見があります。

  • 大編成(Gruppen等)
    楽曲のマクロ構造(時間軸での対比、空間の使用)を意識して聴くと各瞬間の意味が見えてきます。解説(タイムラインや楽章構成)を併読するのが有効です。

コレクター向けの注目ポイント

  • オリジナルLP(Deutsche Grammophon、Philips等)は歴史的価値が高く、アートワークや当時の解説書も魅力。
  • 音質・解釈を重視するなら作曲者監修のリマスター(Complete EditionやWERGO等の再発)を優先。
  • ライブ録音は即興的・演奏者依存性が強いので、作品の別相を楽しみたい場合に探すと良い。

まとめ:どれから買うべきか

まずはStimmungかKontakte(電子+楽器)を聴いてStockhausenの音世界に入るのがおすすめ。その後、Gesang der Jünglingeで電子音と声の融合を体感し、MantraやAus den sieben Tagenで作曲技法や演奏形態の幅を確認。最終的にGruppenやLichtのような大作に向かうと、作曲家の全体像が見えてきます。投資するなら公式Complete Editionや作曲者監修盤を優先的に揃えると安心です。

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参考文献