5BNCコネクタ完全ガイド:RGBHVとSDIを支える高品質映像伝送とインピーダンス設計
はじめに:5BNCコネクタとは何か
「5BNCコネクタ」とは、一般に「5本のBNCコネクタを使った端子構成」を指す用語で、特にプロ向けの映像機器やディスプレイ入力で見られることが多いものです。BNC(Bayonet Neill–Concelman)コネクタ自体は同軸ケーブル接続用のロック式コネクタで、映像やRF信号で広く使われています。5BNCは主にアナログRGB(RGBHV)や一部のコンポーネント系の分離信号伝送に使われ、各色・同期信号を独立した同軸ケーブルで伝達するため、ノイズ耐性と画質の安定性が高いのが特徴です。
BNCコネクタの基礎(歴史・構造・インピーダンス)
BNCは「Bayonet(バヨネット方式)」と、開発者のNeillとConcelmanの名前に由来します。主に同軸ケーブルの接続用で、片手で着脱できる「バヨネットロック機構」を備えます。BNCには主に50Ωと75Ωのインピーダンス仕様があり、用途によって使い分けられます。
- 50Ωタイプ:無線(RF)や一部測定機器で多用。耐高周波性に優れる。
- 75Ωタイプ:ビデオ信号(コンポジット、SDI、コンポーネント等)や放送用途で主流。映像用ケーブル(RG59, RG6等)と組み合わせる。
外観は似ていても内部寸法が異なり、厳密には互換性はあるもののインピーダンスを合わせないと反射や波形劣化の原因になります。放送やプロAVでは75Ω精密BNCコネクタを使うことが標準です。
なぜ「5本」なのか — 5BNCが使われる代表的な信号
5BNCの典型的な用途は「RGBHV(R,G,B,Hsync,Vsync)」で、PCのVGA相当のアナログRGB信号をプロ機器間で高品質にやり取りするときに使われます。各信号を独立した同軸で伝送することにより、クロストーク(信号間干渉)を抑え、長距離伝送でも同期が安定します。
- R(Red) — 赤成分(アナログ電圧)
- G(Green) — 緑成分(アナログ電圧、場合によってはComposite Syncを重畳)
- B(Blue) — 青成分(アナログ電圧)
- H(Horizontal Sync) — 水平同期信号(TTLレベルや同期パルス)
- V(Vertical Sync) — 垂直同期信号
Gに同期信号が重畳される「sync on green(SoG)」という方式が使われる場合もありますが、プロ用では分離(separate)されていることが多く、5本すべてを使うことで最大の互換性を確保できます。
主な利用シーンと機器
- プロフェッショナルのビデオモニター、放送用機器
- プロジェクターや大型ディスプレイの高品位アナログ入力
- 映像編集・スイッチャー・ビデオ分配装置(スプリッタ)
- かつてのPCグラフィックカードのアナログ出力(HD15 ↔ 5BNCブレイクアウトケーブル)
家庭用AV機器ではRCAやHDMIが主流になりましたが、放送・プロAV分野では今も5BNCや単独のBNC(SDI)接続が根強く使われています。
ケーブル・コネクタの選択(RG59, RG6, 50Ω/75Ωなど)
5BNC構成で用いるケーブルは、映像信号伝送では一般に75Ωの同軸ケーブル(RG59, RG6など)が推奨されます。ケーブルやコネクタの品質により、伝送帯域・損失・反射係数が変わるため、用途に応じて選択します。
- 短距離・低コスト:RG59(柔らかく取り回しがよい。数十メートル程度まで)
- 長距離や屋外敷設:RG6(内部導体とシールドが太く減衰が少ない)
- 高周波・高帯域:高級なビデオ用同軸(低損失・高シールド効果)と75Ω精密BNC
コネクタの種類と取り付け方法
BNCコネクタには主に「ツイストオン」「クリンプ(crimp)」「コンプレッション(圧着)」のタイプがあります。プロ用途ではシールドやインピーダンスの安定性、耐久性を確保できるクリンプまたはコンプレッションが好まれます。
- ツイストオン:工具不要で簡単だが、長期的・高周波では脆弱
- クリンプ:専用工具が必要だが、安定した接続が得られる
- コンプレッション:最も堅牢で屋外配線や長期使用に向く
取り付け時は中心導体とシールドの接続、絶縁体のクリアランス、そして圧着や圧縮が正しく行われているかを確認することが重要です。
終端(ターミネーション)とインピーダンス整合
同軸伝送ではインピーダンス整合が極めて重要です。75Ωケーブル+75Ω機器の系では、受信側や信号源に75Ωで終端(ターミネータ)を入れる必要があります。適切に終端されていないと反射が発生し、画面のゴーストやジッタ、同期不良を生じます。
- ビデオ信号(アナログコンポジット/SDI等)では基本的に75Ωで終端
- RF用途や一部測定用途では50Ωが使われるため混在に注意
SDIとBNC — デジタル映像との関係
SMPTEのSDI(Serial Digital Interface)規格(SD-SDI, HD-SDI, 3G/6G/12G-SDIなど)は75ΩのBNCコネクタを用いるのが標準です。SDIは同軸1本で高ビットレートのデジタル映像を伝送するため、BNC+75Ωケーブルの品質が信号品質に直結します。
近年は12G-SDIのような高帯域伝送も登場していますが、高速伝送ではケーブル長やコネクタの特性、スプライスやアダプタの数により信号品質が悪化するため、放送設備では高規格なケーブルと精密BNCを採用します。
故障の原因とトラブルシューティング
5BNC関連のトラブルで多いものと、その対処法を挙げます。
- 接触不良:コネクタの緩み、中心導体の接触不良。→ コネクタを再締め、必要なら交換。
- インピーダンス不整合:間違ったコネクタ(50Ω vs 75Ω)や不適切な終端。→ 正しいインピーダンスのケーブル/コネクタを使い、終端を確認。
- 劣化したケーブル:折れ・断線・水分侵入。→ ケーブル交換、屋外は防水処理。
- クロストーク・ノイズ:ケーブルの取り回しが近接。→ 信号線を分離、シールドの良いケーブル採用。
- 遅延・位相ズレ:長距離では時間差が出る。→ 同期対策やディストリビューションアンプの利用。
実務的な接続例:VGA(HD15)⇔5BNC
よく見られるのはパソコン側のVGA信号(アナログRGBHV)をプロ用モニタに入れるための「HD15(VGA)→5BNC」ブレイクアウトケーブルです。ピン割り当ては概ね以下の通り(機器により差があるため必ずマニュアルを確認してください)。
- VGAピン1 → R(BNC)
- VGAピン2 → G(BNC)
- VGAピン3 → B(BNC)
- VGAピン13 → Hsync(BNC)
- VGAピン14 → Vsync(BNC)
この接続により、RGB信号と同期信号を分離して伝送でき、長距離や高品質表示が可能になります。
5BNCを選ぶ際のチェックポイント(購入ガイド)
- インピーダンス:用途に合わせて75Ω(映像)か50Ω(RF)かを確認
- コネクタ仕様:クリンプ/コンプレッション等、取り付け方法と工具の有無
- ケーブル長と損失:伝送距離に適したケーブル(RG59/RG6等)を選定
- シールド:二重・三重シールドの高シールドケーブルは外来ノイズに強い
- 色分け:現場作業の誤接続防止のためRGBと同期を視認できる色分け
5BNCの代替と将来動向
民生分野での映像はHDMI、DisplayPortなどのデジタルインターフェイスに移行しています。一方で放送・プロAV分野ではSDI(BNC)や5BNCのようなプロ仕様の物理層が信頼性や機器互換性の理由で残っています。将来的にはネットワーク(IPベース)の映像伝送(ST 2110等)への移行も進行していますが、現場では依然としてBNCベースの配線資産が多数存在します。
まとめ:5BNCは「信頼性の高いプロ用映像接続」
5BNCは単に「5本のBNCコネクタが並ぶ接続形態」ですが、その背景には信号分離による高画質化、同軸ケーブルのシールド性、放送機器との互換性といったメリットがあります。設計・配線・終端の基本を押さえることで、長距離でも安定した映像伝送が可能になります。プロジェクトで5BNCを扱う際は、インピーダンス管理と適切なコネクタ/ケーブル選定を最優先に検討してください。
参考文献
- BNC connector — Wikipedia
- RGB component video — RGBHV — Wikipedia
- Serial Digital Interface (SDI) — Wikipedia
- Neutrik — BNC 75 Ω product information
- Tektronix — BNC Connector Basics (技術資料ページ)


