ロスコー・ミッチェルを聴く—AACMとアート・エンサンブル・オブ・シカゴを軸にした必聴盤ガイド

はじめに — ロスコー・ミッチェルとは何者か

ロスコー・ミッチェル(Roscoe Mitchell)は、アメリカ現代ジャズ/即興音楽の最重要人物の一人です。シカゴを拠点にした「AACM(Association for the Advancement of Creative Musicians)」の創立メンバーであり、アート・アンサンブル・オブ・シカゴなどの活動を通じて、サックス/フルート類を中心に音色の拡張、作曲と即興の境界を押し広げてきました。本コラムでは、「レコード(盤)」として手に入れて聴くべき推薦盤をピックアップし、それぞれの聴きどころ、存在意義、購買/リスニングの観点から深掘りします。

推薦盤ピックアップ(概観)

  • Sound(初期の実験精神を知るための必聴)
  • Nonaah(ミッチェルの代表作の一つ、断片と反復の美学)
  • Nine to Get Ready(ECM期:構成美と録音美が光る)
  • Bells for the South Side(晩年の大作・多様な編成を楽しめる二枚組)
  • Art Ensemble関連作(ミッチェルが集団の中で果たした役割を知るために)

1. Sound — AACM初期の衝動をそのまま記録した1枚

なぜ推すか:この作品はミッチェルの初期ソロ/小編成での実験性をよく伝えます。トーンの多様性、楽器の“使い方”に対する解釈、そして即興における構造的思考が立ち現れる重要作品です。アヴァンギャルドのルーツを知りたいリスナーにとっての基礎体験となります。

聴きどころ:音色の輪郭が次々と変化する部分、ソロの「音の間(ま)」の取り方、静と動の対比。特定のメロディーに依存しない「音の連なり」としての展開を味わってください。

2. Nonaah — 代表曲“ Nonaah ”を軸にした複数の版を提示する実験

なぜ推すか:「Nonaah」はミッチェルの最も有名なモチーフの一つで、同一テーマの反復・変奏を通じて表現の幅を探る試みが示されています。ソロ、デュオ、アンサンブルなど異なる編成で同一あるいは近似の素材を扱うことで、作曲と即興の交差点を明確に感じられます。

聴きどころ:同一テーマの“版”ごとの違いに注意してください。短い動機の反復が生む緊張、フレーズの分解と再構築、そして聴き手の集中を要求する音楽的“問いかけ”。

3. Nine to Get Ready — 構成と響きを重視した“聴きやすさ”と深さの両立

なぜ推すか:ECMからの録音で、空間の捉え方やアンサンブルの配置、作曲的な整合性が特徴です。ミッチェルの「書かれた部分」と「即興部分」のバランスが洗練されており、初めて聴く人にも入りやすい一方で、細部にはアヴァンの技巧が隠されています。

聴きどころ:編成の響き(特に木管群や低域の扱い)、緻密なアンサンブルのユニゾン/ハーモニー、そして録音空間が楽曲に与える影響。静謐なパッセージと突然のアグレッシブな瞬間の対比も注目点です。

4. Bells for the South Side — 晩年の大作、複数の編成と長大曲

なぜ推すか:近年の代表作として評価の高い二枚組。さまざまな編成(ソロ、室内アンサンブル、大編成)を横断し、ミッチェルが長年温めてきたテーマや人物へのオマージュを音で編み上げています。創造のスケールと歴史意識が同居する壮大な試みです。

聴きどころ:楽曲間のアイディアの再登場、短い断片が場面を変えて繰り返される手法、各編成の色彩感。作品全体を通して「聞き手としての記憶」が試されます。長尺曲は集中して聴くことで発見が増えます。

5. Art Ensemble of Chicago 関連作 — 集団の中の多声的役割を知る

なぜ推すか:ミッチェルを理解する上でArt Ensembleでの活動は無視できません。集団即興、演劇性、民族音楽的要素の導入など、彼が関わった時代の最前線がここにあります。ミッチェル個人作とは違う「集団における役割」の見え方が面白い。

聴きどころ:個々のソロが集団のテクスチャにどう組み込まれるか、各メンバーの楽器運用(特に非西洋的パーカッションや道具類)の使われ方、演出的展開。

レコード(盤)としての聴き方・選び方(メンテナンス以外)

  • 版(プレス)を確認する:オリジナルの時代感/ノイズ感を楽しみたいか、音質重視なら信頼できる再発(ラップトップリマスタや高品質の再プレス)を選ぶとよい。
  • リイシューとオリジナルの差を見る:アヴァンギャルド作品はリイシューで未発表トラックが付くこともある。解説書き(ライナーノーツ)も価値が高い。
  • 盤の収集価値:初期AACM関連のオリジナル盤はコレクターズアイテムになっている場合がある。ディスクにこだわるなら出自(レーベル、プレス国)を調べると発見がある。
  • 盤で聴く意味:ミッチェルの音像は空間性・残響・アンビエンスを含むため、LPの物理的な再生感(解像度や中低域の豊かさ)が音楽表現に寄与する場面が多い。

聴きどころの具体的なガイド(何を“聴く”か)

  • 音色の“拡張”を聴く:単にメロディではなく、息遣い、キークリック、キー周辺のノイズ、倍音などの質感に耳を向ける。
  • 即興と作曲の境界:繰り返し出現するモチーフが“作曲的構造”を示すか、それとも即興中の偶然の産物かを考えながら聴く。
  • アンサンブルの空間関係:誰がどの層を担っているか、音の“配置”を想像する。録音の左右/奥行きも重要な情報。
  • 反復の力学:短いフレーズを繰り返すことで生じる緊張と解放を追いかける。

入門〜深堀りの推奨順

  • まずは聴きやすさと作品の完成度から:Nine to Get Ready
  • 初期の衝動を理解:Sound
  • 個性と挑発性を体感:Nonaah
  • 体系的に深堀り:Bells for the South Side
  • ミッチェルを文脈で知る:Art Ensembleの重要作群

最後に — レコードという媒体で聴く意味

ロスコー・ミッチェルの音楽は“空間”と“質感”を強く含むため、物理的な盤での再生はしばしば音楽のニュアンスを豊かに伝えます。ジャケットやライナーノーツも含めて作品として楽しむことで、録音当時の思考や場の空気がより立ち上がります。コレクションの仕方は人それぞれですが、まずは今回挙げた数枚を深く聴き込むことをおすすめします。

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参考文献