WebMとは何か?コンテナとコーデック、ブラウザ対応から実務活用までの徹底解説

Google WebM とは — 概要

WebM(ウェブエム)は、Google が中心となって開発・普及が進められている、主にウェブ向けのオープンでロイヤリティフリーを目指したメディアコンテナおよび関連技術の総称です。拡張子は .webm(動画+音声)や .weba(音声のみ)などが使われ、MIME タイプは通常 video/webmaudio/webm です。WebM はファイルフォーマット(コンテナ)として Matroska(EBML ベース)のサブセットを採用しており、ビデオ・オーディオのコーデックと組み合わせて使います。

簡単な歴史

  • 2010年:Google が On2 Technologies を買収し、VP8(動画コーデック)や Vorbis(音声)をベースに WebM プロジェクトを発表。目的はウェブ上での高品質な動画配信をオープンかつ低コストで実現することでした。
  • 以降:VP8 に続き、VP9(次世代コーデック)や Opus(高品質音声コーデック)が WebM コンテナの主要な組み合わせとして採用され、さらに近年は AV1(AOMedia Video 1)も業界標準として登場し、WebM コンテナでのサポートも進んでいます。
  • 現在:YouTube や Chrome をはじめとする多くのサービス・ブラウザで WebM(特に VP9 / AV1 + Opus)の利用が進んでいます。

技術仕様(コンテナとコーデック)

WebM は「コンテナフォーマット」です。コンテナは映像ストリーム、音声ストリーム、字幕やメタデータを一つのファイルにまとめる役割を果たします。WebM の技術的特徴を整理すると次の通りです。

  • コンテナ:Matroska をベースにしたサブセット(EBML ベース)。軽量でストリーム送出やシーク用のメタデータを含められる。
  • 動画コーデック:初期は VP8、以降 VP9、最近では AV1 の利用も増加(各コーデックはビット効率・計算負荷が異なる)。
  • 音声コーデック:Vorbis(初期)や Opus(可変レート・低遅延・高効率)。音声のみなら .weba を使う慣例。
  • MIME タイプ:video/webm, audio/webm(配信・HTTP サーバ設定で必須)。

主要コーデックの違い(簡単に)

  • VP8:WebM 初期に標準化されたコーデック。H.264 と同世代の設計で、エンコード・デコードの実装が広く存在。
  • VP9:VP8 の後継でビットレートあたりの画質が向上。YouTube で広く採用され、4K 配信などでよく使われる。
  • AV1:Alliance for Open Media(AOM)による次世代オープンコーデック。さらに高い圧縮効率を特徴とするが、エンコードは重く、デコードもハードウェア支援が普及しているかが鍵。
  • Vorbis / Opus:Vorbis は成熟したオープン音声コーデック、Opus は低遅延・高音質でストリーミングや音声通話に強み。

ブラウザやプラットフォームでのサポート状況

WebM は特にウェブ向けに作られたフォーマットのため、ブラウザでのサポートが重要です。主要な点は以下の通りです。

  • 主要ブラウザ(Chrome、Firefox、Edge(Chromium ベース)、Opera)は WebM を幅広くサポートしています。
  • Safari(Apple)は長らく WebM のサポートが限定的でしたが、近年になってサポートが追加されつつあります。モバイルブラウザや組み込み環境では実装状況が異なるため配信前に互換性確認が必要です。
  • HTML5 の <video> 要素と組み合わせて使うことで、ネイティブに再生・一時停止・シークなどが可能です。MIME タイプの設定(video/webm)を忘れないようにしてください。

利点と注意点

利点

  • オープンでロイヤリティフリーを目指したエコシステム(特に導入コストの観点で有利)。
  • 高い圧縮効率(特に VP9 / AV1)により同じ画質で帯域を削減できる。
  • HTML5 と親和性が高く、ウェブ配信やストリーミングに適している。

注意点

  • 特定の市場や古いブラウザでは互換性の問題が残るため、フォールバック(H.264/mp4 など)を用意する必要がある。
  • 「ロイヤリティフリー」として設計されているものの、コーデック周辺に関する特許リスクや地域による法的解釈はゼロではありません。企業利用では法務確認が推奨されます。
  • AV1 など新コーデックはエンコードの計算負荷が高く、エンコード時間やサーバーリソース、ハードウェア・デコーダの普及状況を考慮する必要があります。

実務での採用ケースと配信技術

WebM は以下のような場面でよく採用されます。

  • ウェブサイトでの動画配信(特に帯域を抑えたい場合やオープンフォーマットを重視する場合)。
  • YouTube 等の大規模動画プラットフォームでは、VP9 や AV1(高効率コーデック)を WebM コンテナで配信するケースが増えています。
  • DASH(MPEG-DASH)などの適応ストリーミングで WebM セグメント(fMP4 の代替として)を使うことが可能。ただし、HLS や CDN の対応状況に依存する部分があるため事前検証が必要です。
  • ローカル録画や WebRTC と録画ファイルの保存で、WebM 形式が扱われることがある(WebRTC 自体は RTP ベースだが、保存時に WebM としてまとめる例など)。

エンコード例(現場でよく使われるツール)

ffmpeg を使えば簡単に WebM を生成できます。代表例を示します(環境に libvpx, libvpx-vp9, libopus 等が必要)。

  • VP8 + Vorbis(互換性重視、軽めの例)

    ffmpeg -i input.mp4 -c:v libvpx -b:v 1M -c:a libvorbis output.webm

  • VP9 + Opus(高効率・高画質)

    ffmpeg -i input.mp4 -c:v libvpx-vp9 -b:v 0 -crf 30 -c:a libopus output.webm

  • AV1 + Opus(最高圧縮効率が狙えるがエンコード重い)

    ffmpeg -i input.mp4 -c:v libaom-av1 -crf 30 -b:v 0 -c:a libopus output.webm

(上記はあくまで例です。パラメータは画質・速度のトレードオフに応じて調整してください。)

ライセンスと特許リスクについての留意点

WebM 自体はオープンな仕様を掲げていますが、動画技術は特許の問題と切り離せません。Google や関係団体は VP8/VP9 等のロイヤリティフリー利用をサポートするとしていますが、第三者の特許主張が発生する可能性はゼロではありません。特に商用サービスや広域配信を行う場合は、法務部門や専門家と特許リスクを評価した上での採用判断が重要です。

今後の展望

AV1 をはじめとする新しいオープンコーデックの普及が進めば、WebM を含むオープンなメディアエコシステムの採用はさらに拡大すると考えられます。また、ハードウェアデコードの普及状況(スマホ・セットトップボックス・ブラウザ内のハードウェアアクセラレーション)が普及の鍵となります。企業側はエンコードコスト、配信コスト、再生互換性のバランスを見極めながら、段階的に移行するシナリオが現実的です。

まとめ

WebM は「ウェブで使いやすいこと」を目的に設計された、オープンで汎用性の高いメディアコンテナ/フォーマットの選択肢です。VP8 → VP9 → AV1 といったコーデック進化により、同じ帯域でより高品質な配信が可能になりつつあります。一方で互換性や特許問題、エンコード負荷といった現実的な課題もあるため、導入時には用途・ターゲット環境を踏まえた設計・検証が必要です。

参考文献