ITネットワークのトポロジーとは?データセンター設計と冗長性を解説

トポロジーとは何か — IT/ネットワークにおける意味

トポロジー(topology)という言葉は数学の位相幾何学に由来しますが、ITやネットワークの文脈では「ノード(機器)とリンク(接続)」の配置・接続関係を指します。物理的な配置(ケーブルの敷設やスイッチ配置)と論理的な接続(経路選択やブリッジ、仮想ネットワーク上の見え方)は必ずしも一致しません。ネットワーク設計では、トポロジーの選択が性能(遅延、スループット)、可用性、拡張性、運用の複雑さ、安全性に直結します。

代表的なネットワークトポロジーと特徴

以下はよく使われる基本形とその長所・短所です。

  • バス型(Bus): 単一の伝送路に複数ノードを接続する古典的方式。実装コストは低いが、単一故障点が致命的でスケーラビリティと衝突問題がある。イーサネット初期(10BASE2等)で用いられたが、現在はほぼ廃れた。
  • スター型(Star): すべての端末が中央のハブ/スイッチに接続される。故障の影響は中央機器に依存するが、各リンクは独立しているためトラブル切り分けが容易。企業LANで一般的。
  • リング型(Ring): ノードが輪状に接続される。トークンリングやFDDI、光ネットワーク(SONET/SDH)の冗長リングが例。単一経路のため設計が簡単だが、断線対策(双方向リングや自動保護スイッチング)が必要。
  • メッシュ型(Mesh): 複数ノードが多対多で接続される。完全メッシュは全ノード間にリンクがあるため冗長性・経路多様性が高いが、リンク数はO(n^2)でコストが急増する。部分メッシュが実用的。
  • ツリー(階層)型(Tree): スターを階層化した形式で、大規模ネットワークの設計に向く。コア/ディストリビューション/アクセスという階層モデルは運用・スケーリングしやすいが、上位層がボトルネックになりうる。
  • ハイブリッド型: 上記を組み合わせた現代的なデータセンターや企業ネットワークに多い。例:複数のスターをメッシュで接続するなど。

論理トポロジーと物理トポロジーの違い

物理トポロジーはケーブルやラックの実際の接続を指し、論理トポロジーはパケットが流れる経路やプロトコルで見える構造を指します。例えば、VLANやVXLAN、VPNは物理配線を変えずに論理トポロジーを再構成します。また、スイッチ環境でループがあると論理的に複雑になるため、STP(スパニングツリープロトコル)がトポロジーを制御してループを除去します(その結果、一部の物理リンクが一時的に無効になる)。

大規模ネットワークとデータセンターのトポロジー

近年のデータセンターでは「リーフ・スパイン(leaf-spine)」などのClosアーキテクチャが主流です。これは2層または多層のクロスバー的接続で、各リーフスイッチが全スパインに接続されることで、どのサーバ間でも短い経路(通常2跳)で到達でき、イースト・ウェスト(サーバ間)トラフィックに強い特徴があります。等コスト多経路(ECMP)やLACP、トンネリング(VXLAN等)と組み合わせて高スループットと冗長性を実現します。

インターネットとWANのトポロジー

インターネットはAS(自律システム)レベルで見たときに階層的であり、バックボーンISPや地域ISP、エッジ事業者が相互接続します。ルーティングにはBGP(パスベクター)を利用し、これがインターネットの論理トポロジーを形成します。WANではMPLSやVPNを用いて企業拠点間に論理的なトポロジーを構築し、トラフィックエンジニアリングで経路を最適化します。

トポロジー設計で注目すべき指標・概念

  • 冗長性: 単一障害点(SPOF)を避けるための冗長リンクや装置。
  • 経路長(ホップ数)・遅延: パフォーマンスに直結する重要指標。
  • ノード次数(degree)・直径(diameter): グラフ理論的な尺度で、拡張性や最悪時の到達性を評価する。
  • 拡張性(スケーラビリティ): ノード増加に対するリンク数や制御プレーンの負荷。
  • 運用性: 障害検知、アップグレード、設定変更のしやすさ(自動化や可観測性)。
  • セグメンテーションとセキュリティ: VLAN、ファイアウォール、マイクロセグメンテーションでトポロジー内の攻撃範囲を局所化する。

プロトコルとトポロジー管理

リンク状態プロトコル(例:OSPF、IS-IS)はネットワーク全体のトポロジーを把握して最短経路を計算します。一方、距離ベクトルやパスベクタ(BGP)は異なる設計思想でスケーラビリティを確保します。スイッチング環境ではSTP(IEEE 802.1D)/RSTP(802.1w)/MSTPがループを防ぎますが、STPは冗長リンクを無効にするため利用率が下がる欠点があるため、モダン環境ではECMPやSDNでループを制御しつつ冗長性を活かす実装が増えています。

ソフトウェア的トポロジー:SDNと仮想化

SDN(Software-Defined Networking)は制御プレーンを集中化して論理的なトポロジーを柔軟に再構成できます。ネットワーク仮想化(VLAN、VXLAN、NVGRE等)は物理トポロジーを変えずに論理分離やマルチテナンシーを実現します。これにより、アプリケーション要件に合わせたトポロジー設計が容易になりますが、制御プレーンの一極集中は新たな設計上・運用上の注意点(コントローラ冗長化、遅延)を招きます。

無線・IoTにおけるトポロジー

無線ネットワークは物理・論理の両面でトポロジー特性が変わります。インフラストラクチャ型(アクセスポイント中心)とアドホック/メッシュ型(ノードが中継して経路を形成)があります。センサーネットワークやIoTでは省電力や接続不安定性があるため、メッシュによる自己修復性や動的ルーティング(例えばRPLなど)が採用されます。

運用上のベストプラクティス

  • 設計段階で期待されるトラフィックパターン(北南と東西)を把握し、適切なトポロジー(階層型、リーフ・スパイン等)を選ぶ。
  • 冗長性は単に多重化するだけでなく、障害ドメイン(電源、ラック、スイッチ)を分離して設計する。
  • リンク集約(LACP)やECMPで帯域と冗長性を効率化する。
  • ネットワーク監視(SNMP、sFlow、NetFlow、Telemetry)でトポロジーの健全性を可視化する。
  • STPやルーティングプロトコルの挙動を理解し、意図しない経路遮断やループを回避する。

まとめ

トポロジーは単なる「線と点の配置」以上に、ネットワークの性能、可用性、拡張性、運用性、セキュリティに直接影響します。物理的な配線設計と論理的なプロトコル設計を分離して考え、現代の要件(大容量の東西トラフィック、仮想化、多様なアプリケーション)に合わせたトポロジー選択が重要です。新技術(SDN、VXLAN、Clos系ファブリック)を理解して、適切な冗長化・セグメンテーション・可観測性を備えた設計を目指しましょう。

参考文献