Aníbal Troilo(アニバル・トロイーロ)— タンゴの伝説とバンドネオンの詩情、名曲と編曲の入門ガイド

Aníbal Troilo(アニバル・トロイーロ)――プロフィールと人物像

Aníbal Troilo(1914年7月11日 - 1975年5月18日)は、アルゼンチンの伝説的なバンドネオン奏者、作曲家、編曲家、そしてオルケスタ・ティピカ(伝統的なタンゴ楽団)のリーダーです。愛称は「Pichuco(ピチュコ)」。ブエノスアイレスのタンゴ黄金時代を代表する存在であり、その叙情的で深い音色はタンゴにおける「哀愁」と「都会的な詩情」を体現しています。

経歴の概略

  • ブエノスアイレスの下町で育ち、幼少期からバンドネオンに親しむ。
  • 1930年代から演奏活動を本格化。自身のオーケストラを率い、多くの録音とダンスホール、ラジオ出演を通じて人気を獲得。
  • 若手との共演や指導を通じ、後年のタンゴ革新派(例:アストル・ピアソラ)とも交わりを持つ。
  • 1975年に逝去するまで、演奏・作曲・編曲と多岐にわたりタンゴ文化に貢献した。

音楽的な魅力・特徴

Troilo の音楽の魅力は一言では言い表せませんが、以下の点に集約できます。

  • バンドネオンの歌うようなフレージング:彼のバンドネオンは単なる伴奏楽器ではなく“歌う”役割を担い、情感豊かな旋律でリスナーの胸を打ちます。微妙なルバートや音色の変化を駆使して、歌詞の無い「語り」を行います。
  • オーケストレーションと編曲の妙:伝統的なオルケスタ・ティピカのフォーマットを大切にしつつ、管弦楽的な重層感や対位法的なテクスチャを導入。ダンス音楽としてのグルーヴ感と、演奏会的な聴きどころを両立させました。
  • 叙情性と都市の哀愁:ブエノスアイレスの街並みや人々の物語を感じさせる“都会的な悲愁”が核になっています。歌詞ものでも器楽でも、その世界観は一貫して深く、抒情的です。
  • 演奏表現の豊かさ:ダイナミクスの対比、アクセントの置き方、余韻の作り方など、細部にわたる表現力が他のバンドネオン奏者と一線を画します。

重要な協働者と人脈

  • 若き日のアストル・ピアソラ(バンドネオン奏者・編曲者)と共演したことで知られ、ピアソラの初期修行の場となった。
  • 歌手ではフランシスコ・フィオレンティーノ(Francisco Fiorentino)、フロレアル・ルイス(Floreal Ruiz)、エドムンド・リベロ(Edmundo Rivero)、ロベルト・ゴジェンチェ(Roberto Goyeneche)ら名歌手と組み、数多くの名唱を残した。
  • 詩人・作詞家との連携も多く、タンゴの“詞”と“音”を結ぶ仕事で高く評価された。

代表曲・名盤(入門ガイド)

Troilo の録音は膨大ですが、入門者におすすめの曲やアルバムを挙げます。各曲では、彼のバンドネオンの歌心・編曲の美しさ・歌手との相互作用を堪能できます。

  • 「La última curda」 — Troilo の代表的な曲の一つ。深い酒の哀感を歌うような旋律が印象的。
  • 「Sur」 — ブエノスアイレスの郊外・南側をテーマにした歌情豊かなナンバー(Troilo の解釈で特に有名)。
  • 「Che Bandoneón」 — バンドネオンそのものを歌うような、象徴的な一曲。
  • 「Responso」などのインスト曲 — Troilo の編曲と楽団運用を純粋に味わえる器楽曲群。
  • コンピレーション/名盤:「Aníbal Troilo: The Golden Age of Tango」的なベスト盤や、彼のオーケストラによる1940〜50年代の録音を集めたものは入門に最適。

なぜ多くの人を惹きつけるのか——深掘り

Troilo の魅力はテクニックだけでなく「語る力」にあります。タンゴはダンス音楽として出発しましたが、Troilo はその舞踏感を保ちつつ、聴く者の内面を揺さぶる演奏を行いました。

  • 人間の声に近い表現:バンドネオンを“声”のように扱い、短いフレーズにも劇的な起伏と意味を与えるので、インスト曲でも物語性が感じられます。
  • 編曲による情景描写:弦、管、ピアノ、ベースとバンドネオンが様々な役割を取り交ぜることで、街角・別れ・黄昏などの情景を音で描き出します。
  • 世代を超えた影響力:後進の演奏家や作曲家に多大な影響を与え、タンゴの表現可能性を広げました。伝統を重んじながらも音楽的に深みを増す姿勢が、多くの演奏家に学ばれています。

聴き方のガイド:Troilo を味わうためのポイント

  • まずは代表的な歌手との録音(例:ゴジェンチェ/リベロなど)を一通り聴き、歌と楽団の呼吸を感じる。
  • 次にインスト曲でバンドネオンのソロや編曲の細部に注目。小さな休符や音色の変化が感情を作る。
  • 同じ曲の異なる時期の録音を比較すると、解釈の変化やアンサンブルの成熟がわかりやすい。
  • 歌詞の内容(翻訳)を確認すると、音の表現が何を語ろうとしているのかがより鮮明に見えてくる。

文化的・歴史的意義

Troilo はタンゴの“保存者”であると同時に“深化者”でもありました。彼の音楽はブエノスアイレスの社会的記憶や都市の哀歓を音楽化し、20世紀半ばのアルゼンチン文化を象徴するものとなりました。後のタンゴ革新や世界的な人気の基礎を作った人物の一人です。

まとめ

Aníbal Troilo は、バンドネオンという楽器だけでなくタンゴそのものの語り口を築いた存在です。歌手と楽団、楽器の対話を通じて生まれる深い情感、編曲の洗練、そしてブエノスアイレスの風景を思わせる叙情性――これらが彼の音楽を時代を超えて愛される理由です。タンゴ初心者から愛好家まで、彼の音楽は何度でも新しい発見を与えてくれます。

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参考文献