Jerry Wexlerが築いたAtlantic Recordsの黄金期—R&Bとソウルを変えたA&Rとプロデュースの極意
Jerry Wexler — 音楽業界の舵を取ったプロデューサー/A&R
Jerry Wexler(ジェリー・ウェクスラー、1917–2008)は、レコード産業におけるA&R/プロデューサーとして20世紀中盤のアメリカン・ソウル/R&Bの様相を決定づけた人物です。ジャーナリスト出身でありながら、アーティストの才能を見抜き、スタジオ現場での判断力とディレクションによって多くの名盤を世に送り出しました。アハメット・エルガートンと並んでAtlantic Recordsの黄金期を支え、ゴスペル的な感情表現をポップ/R&B構成に落とし込む手腕で知られます。
Wexlerのプロダクションの特徴(聴きどころ)
ボーカルの感情を最優先にしたアレンジ:ヴォーカリストの"声"を際立たせるために、楽器のアレンジや録音現場の空気感を巧みにコントロールします。
「南部のセッション・ミュージシャン」の起用:FAME(Muscle Shoals)やStax、Memphisのミュージシャンを積極的に利用し、土臭さと洗練のバランスを生み出しました。
ジャンルの垣根を越える選曲:R&B、ゴスペル、カントリー、ポップを融合させる「ジャンル横断的」なプロデュースを好み、アーティストの新境地を開くことが多かった点が特徴です。
共同プロデューサーとの強い協働:Tom Dowd、Arif Mardin、Steve Cropperなどエンジニア/ミュージシャンとの連携で、サウンドを完成させました。
おすすめレコード(深堀解説)
Aretha Franklin — I Never Loved a Man the Way I Love You(1967)
なぜ聴くべきか:ジェリー・ウェクスラーがArethaをMuscle Shoalsに送り出し、彼女の表現の幅を一気に開かせた歴史的アルバム。タイトル曲や「Respect」など、Arethaの“女王”としての地位を決定づけた楽曲が並びます。Wexlerの選曲眼と、Muscle Shoalsのリズムが合わさったことで、力強いグルーヴと感情表現が生まれました。Aretha Franklin — Lady Soul(1968)
なぜ聴くべきか:「I Never Loved…」の成功後に出た代表作で、より洗練されたアレンジと力強いボーカルが対照的に聴けます。Wexlerの縦横に渡るプロデュース力が表れており、アルバム全体の一貫性とヒット曲群のバランスが見事です。Ray Charles — Modern Sounds in Country and Western Music(1962)
なぜ聴くべきか:ジャンルを横断する大胆な企画で、R&B/ゴスペル的な解釈でカントリー/ポップ曲を再構築しました。Wexlerはこのプロジェクトの推進役の一人で、編曲とオーケストレーションの取り入れ方が非常に示唆的です。様式を越えて「表現」を優先する姿勢がよくわかります。Wilson Pickett — 代表シングル集(「In the Midnight Hour」「Mustang Sally」「Land of 1000 Dances」等)
なぜ聴くべきか:WexlerはPickettの録音現場にも深く関わり、StaxやMuscle Shoalsでのセッションを通じて、荒々しいR&Bのエネルギーを最大化しました。短いシングル単位の楽曲でのドラマ作りを学べる好例です。Percy Sledge — When a Man Loves a Woman(シングル/アルバム、1966)
なぜ聴くべきか:WexlerがFAMEでのセッションを重視し、Percy Sledgeの深い感情表現をシンプルに引き出した象徴的な一曲。プロデュースによって「個の歌」が国民的なヒットに育った良いケーススタディです。Dusty Springfield — Dusty in Memphis(1969)
なぜ聴くべきか:Wexler、Tom Dowd、Arif Mardinの共同プロデュースで生まれた名盤。英国ポップ出身のDustyがメンフィス・ソウルの文脈で歌うことで、異文化混淆の成果が生まれています。アレンジメントとボーカルの相互作用、サウンド・プロダクションの妙を学べます。その他注目作(コンパクトな推薦)
- Solomon BurkeやBen E. KingのAtlantic期の録音 — WexlerのA&R時代の功績が反映されています。
- Various Artists:Atlanticの60s R&Bコンピレーション — Wexlerの手がけた時代の“雰囲気”を俯瞰できます。
各作品を聴くときの具体的なポイント
ボーカルのマイク位置感やダイナミクス:Wexlerは歌の"間"や息づかいを大切にしました。特にArethaやPercy Sledgeの息遣いやシャウトの直前に注目して聴いてみてください。
サウンドの「場所性」:Muscle ShoalsやStaxのセッションは録音が持つ空気感(スタジオの音色)を色濃く残します。楽器の鳴り方、リバーブやパンの使い方を比較してください。
アレンジの変遷:同一アーティストでもWexler在任期中でアレンジ傾向が変わっています。初期の土臭さと後期の洗練(弦楽隊やコーラスの導入)の違いを追うと、Wexlerのプロデューサーとしての成長が見えます。
Wexlerが残した影響と今日の聴き方
Wexlerは「プロデューサーは単に音をまとめる人ではなく、アーティストの声をどう社会に届けるかを設計する人」という役割意識を強く体現しました。今日これらのレコードを聴く際には、個々の曲が当時どのような文化的文脈で提示されたのか、またスタジオ現場での決断が楽曲の印象にどのように寄与しているかを意識すると、新たな発見があります。
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参考文献
- Britannica — Jerry Wexler
- AllMusic — Jerry Wexler(バイオグラフィー)
- Rolling Stone — Jerry Wexler obituary / overview
- Wikipedia — Jerry Wexler(参考用)


