Herschel Evans: テキサス・テナーの巨匠とカウント・ベイシー楽団のスウィングを牽引したソロ
プロフィール
Herschel Evans(ハーシェル・エヴァンス)は、20世紀前半のアメリカを代表するテナー・サクソフォーン奏者の一人で、主にスウィング期のカウント・ベイシー楽団(Count Basie Orchestra)でのソロで知られます。1909年生まれ、1939年に急逝したため短い活動期間でしたが、その力強くブルージーな音色と表現力は当時から高く評価され、以後の“Texas tenor”(テキサス・テナー)系の演奏スタイルに強い影響を与えました。
キャリアの概観
- 初期はテキサス周辺のバンドやツアーで経験を積み、ベニー・モーテン(Bennie Moten)楽団などを経て、1930年代中盤にカウント・ベイシー楽団へ参加。
- ベイシー楽団ではホーン・セクションの主要なソロイストとして活躍し、録音やライブで印象的なソロを残した。
- 1939年に若くして亡くなったため長期的な発展は見られませんが、その短い活動期で明確な個性を確立した。
演奏スタイルと魅力(深掘り)
エヴァンスの魅力は一言で言えば「力感と表現力」に尽きます。以下、具体的なポイントで掘り下げます。
- 音色の重心と力強さ:
エヴァンスのテナーは低域に重心のある太い音色で、艶やかながらも硬質なアタックを持っています。スウィング期のホーン・サウンドの中で“切れる”声部を担い、バンドのリズムを牽引するような存在感がありました。
- ブルーズ感と語り口:
フレージングにおいてブルーズ・スケールやベンド、グロウル(声帯的効果に近い表現)を自然に用い、歌うような語り口で聴き手に直接語りかけます。これにより、1フレーズごとが短い物語のように聞こえます。
- リズム感と間の使い方:
力強いビートに対して単に音を乗せるのではなく、間(スペース)を巧みに使うことでフレーズの起伏を作り、リズム・セクションとの対話を生み出します。この点はバンド内でのソロが際立つ要因の一つです。
- 対比効果(レスター・ヤングとの共演):
同時代のテナー奏者レスター・ヤング(Lester Young)は軽やかでシルキーな音色が特徴でした。エヴァンスはその対極にある重心の低い“肉声的”サウンドで、両者の共演(いわゆる“テナー・バトル”)は当時の聴衆に強い印象を与え、スウィング時代の表現の幅を示しました。
- モチーフの発展とソロ構築:
エヴァンスはワンフレーズ内で小さな動機(モチーフ)を提示し、それを少しずつ変形して展開するアプローチをとることが多く、即興でも論理的なまとまりを持ったソロを作ります。これが“歌としてのソロ”を生む要因です。
代表曲・名盤(聴きどころ)
短期間の活動ながら、多くの録音で印象的なソロを残しています。以下は入門や研究に適した代表的な録音やコンピレーションです。
- カウント・ベイシー楽団での録音(1937–1939)
One O'Clock Jump、Blue and Sentimental など、ベイシーのスウィング期代表曲の録音群にエヴァンスのソロが聴けます。特にDeccaなどの当時の録音を集めたコンピレーション盤はまとまって聴くのに便利です。
- ベイシーの“テンポ・ナンバー”やブルースでのソロ
エヴァンスの真価はブルース色の強いテンポで発揮されることが多く、バンドとの相互作用がはっきり聴き取れます。スタジオ録音だけでなく、ライブ録音(当時のラジオ録音や後年収集されたテープ)も貴重です。
- おすすめコンピレーション:
- “The Complete Decca Recordings” 等、ベイシーの30年代後半録音を網羅したセット(エヴァンスのソロが多数収録)
影響と評価
エヴァンスはその短いキャリアにもかかわらず、後のテナー奏者、とくに“テキサス・テナー”と呼ばれる流派(太くブルージーな音色、ストレートでエモーショナルなフレーズ)に影響を与えました。イリノイ・ジャケット(Illinois Jacquet)やアーネット・コブ(Arnett Cobb)ら、強靭なテナー・プレイヤーに影響を残したと評価されています。
評価面では、当時の評論家や同僚ミュージシャンから「力強い表現力」「バンドを締める存在」として高く評価され、短命ゆえに“もっと聴きたかった”という惜別の念を抱かせる存在でもあります。
演奏を聴く際のポイント(楽しみ方)
- 音色の重心に注目:低域での安定感とアタックの鋭さを意識的に聴くと、エヴァンスの個性が明確に分かります。
- フレーズごとの“語り”を追う:短いモチーフがどう変化していくかを追うと即興の構造が分かります。
- レスター・ヤングなど軽量派との比較:同時代の他のテナー奏者と聴き比べると対比で特徴が際立ちます。
- バンドとの相互作用:リズム・セクションや他のホーンとの掛け合い(コール&レスポンス)にも耳を傾けると、ベイシー楽団内での役割が見えてきます。
まとめ
Herschel Evansは短い活動期間ながら、強靭な音色とブルージーな表現力でスウィング期のテナー像を豊かにした奏者です。カウント・ベイシー楽団での録音群は、スウィングの楽しさとテナー・サックスの表現の幅を体感する上で欠かせない資料です。エヴァンスのソロを通して、当時のバンド文化、即興の構築法、テナー・サウンドの系譜をたどることができます。
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参考文献
- Herschel Evans — Wikipedia (英語)
- Herschel Evans | Biography — AllMusic
- Count Basie Discography — JazzDisco.org(ベイシーの1930s録音一覧)
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