Herschel Evans—Count Basie時代のテナーサックスを聴く: 太い音色とブルースに根ざした即興の名演と代表盤ガイド
はじめに — Herschel Evansとは
Herschel Evans(ハーシェル・エヴァンス、1909–1939)は、カウント・ベイシー楽団で活躍したテナー・サクソフォン奏者として知られるジャズ・ミュージシャンです。短い生涯ながら濃密なソロや力強いトーンで存在感を残し、ライトで流麗なレスター・ヤング(Lester Young)と対照をなす“もう一つのテナー像”として、当時のビッグバンド・サウンドに大きな彩りを与えました。
彼の音楽的特徴 — 何を聴き取るべきか
- 太く豊かなトーン:エヴァンスの一番の特徴は、低域から中高域にかけて安定した太く輪郭のはっきりした音色です。力強さと暖かさが同居します。
- ブルースに根ざした語り口:モチーフの多くにブルース・フレーズやブルーノートの処理が見られ、感情表現を重視したフレージングが印象的です。
- リズムとアタック:アタックの明瞭さ、リズム・ポケットにグリップするようなビート感で、リフ主体のベイシー・サウンドと相性が良い。
- 対比効果の名手:レスター・ヤングの軽やかさや流線型のラインと並ぶと、バンド内での音色・表現のコントラストが非常に効果的になり、編成全体のダイナミクスを作ります。
おすすめレコード(作品紹介と聴きどころ)
エヴァンスはソロ名義での録音よりも、カウント・ベイシー楽団などのセッションで名を残した人物です。以下は「彼のプレイが際立つ」代表的な録音と、各トラックで注目すべきポイントです。
- Count Basie — The Original Decca Recordings(Decca時代のコンピレーション)
解説:1937〜1939年にかけてのDeccaセッションを集めた盤。エヴァンス在籍期の重要な演奏がまとまっています。
聴きどころ:「One O'Clock Jump」などのリフ物でのソロ、バラード系の「Blue and Sentimental」など、力強く情感豊かなソロが楽しめます。ライブ感のある構築と即興の迫力を聴き比べてください。
- Count Basie — Jumpin' at the Woodside / Jive at Five(各種ベイシーの代表録)
解説:これらの代表曲を集めたコンピやアルバムの中には、エヴァンスのソロが入っているテイクが多く残されています。
聴きどころ:アップテンポでのアタック、リズムへの食い込み方、リフとの掛け合いを聴いて、彼の“ソリストとしての存在感”を感じ取ってください。
- Count Basie — Blue and Sentimental(スタンダードなバラード演奏)
解説:バラードでの歌うようなフレージングがよくわかる演奏。エヴァンスの暖かな面が前面に出ます。
聴きどころ:ビブラートの使い方、ロングトーンのコントロール、音の余韻を活かした表現に注目。
- コンピレーション:The Complete Decca Recordings / The Decca & Vocalion Sessions(各レーベルの完全/主要集)
解説:コレクション盤として入手しやすく、エヴァンス参加セッションを網羅的に聴けることが多い。研究・比較聴取に向いています。
聴きどころ:同一曲の複数テイクを比べて、フレーズの変化や即興の発想を追うと、彼の即興構築の方法が見えてきます。
曲ごとの深掘り:代表演奏で見る演奏技法の細部
- 「One O'Clock Jump」系のリフ物
特徴:短いモチーフを基軸にしたリフ→ソロの展開。エヴァンスは限られたフレーズの中で強い個性を出すため、反復するリフと対比させるように太い音とシャープなアタックで聴衆の耳を引きます。
- バラード(例:「Blue and Sentimental」)
特徴:静かなテンポで音の“余白”を活かした表現。音を惜しむように使い、短いフレーズに感情の凝縮を与えるのが得意です。息遣い、タンギングの抑制、柔らかなビブラートが聴きどころ。
- コール&レスポンス的ソロ
特徴:バンドのリフ隊と対話するようなソロを頻繁に行います。こうした場面では、太い音で“応答”し、バンド全体の勢いを作る働きをします。
聴き方・楽しみ方の提案
- 初めて聴くなら「One O'Clock Jump」→「Blue and Sentimental」の順がおすすめ。アップテンポでの迫力とバラードでの情感という両面が短時間で掴めます。
- 同じ曲の別テイクを比べて、フレーズの微妙な変化や、テンポに対する歌い方の違いを確認すると、即興家としての思考プロセスが見えてきます。
- レスター・ヤング等、同時代のテナー奏者(対照的なスタイル)と並べて聴くと、それぞれの美学がより明らかになります。例えばレスターの軽快さに対して、エヴァンスの「圧」と「暖かさ」を対比してみてください。
ディスク選びのヒント
- エヴァンス自身のリーダー作は少ないため、カウント・ベイシーのDecca期や同時代のセッションを収めた“コンプリート集”が最も効率よく彼のプレイを網羅できます。
- 編集盤やリマスターで音のバランスが変わることがあるため、音色(テナーの低域の厚み)が好みのものを選ぶと良いでしょう。解説やトラックリストを確認し、エヴァンスがクレジットされている曲が含まれるかを確かめてください。
エヴァンスの影響と位置づけ
短い活動期間ながら、エヴァンスは「力感あるテナーの一つの理想像」を示しました。ビッグバンド時代のソロイストとして、リフやホーン・アンサンブルに埋もれない存在感を持ち、後のテナー奏者達に「音色の重さ」「ブルースに根差した即興表現」という方向性を残しました。また、同一バンドにおける対照的なテナー(例:レスター・ヤング)との並列は、スウィング期のサクソフォン像の多様性を象徴する好例です。
購入・入手のすすめ
入手しやすさからはコンピレーション盤や「The Complete Decca Recordings」系のCD/配信がまずおすすめです。LP派ならばオリジナル盤や良好なリイシューの情報をトレードや専門店で探すと、独特の音色や空気感を強く感じられます。
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参考文献
- Herschel Evans — Wikipedia
- Herschel Evans — AllMusic
- Herschel Evans (1909–1939) — The Syncopated Times
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