Kluster（クラスター）の軌跡：前衛電子音楽の起点とクラウトロックへの影響を解き明かす入門ガイド
エバープレイ編集部Kluster — プロフィールと概観
Kluster（クラスター／当初の表記は“K l u s t e r”）は、1969年から1971年頃にかけて活動したドイツの前衛音楽トリオです。主要メンバーはコンラート・シュニッツラー（Conrad Schnitzler）、ハンス＝ヨアヒム・ローデリウス（Hans-Joachim Roedelius）、ディーター・メビウス（Dieter Moebius）。既存のロックやポップの枠組みから離れ、電子音、フィールドノイズ、即興演奏、テープ操作などを用いて独自の音響世界を切り開きました。その後、シュニッツラーが脱退したことでバンド名を「Cluster」と改め、ローデリウスとメビウスはアンビエント／エレクトロニックの重要人物として成長していきます。
結成の背景とメンバーの役割
- コンラート・シュニッツラー：ノイズ志向の電子実験や即興を牽引した中心人物。後に多数のソロ作・コラボレーションを残し、欧州の実験シーンに大きな影響を与えました。
- ハンス＝ヨアヒム・ローデリウス：ピアノやキーボード類、メロディックでミニマルなアプローチを担当し、後のアンビエント志向に繋がる感性を提供しました。
- ディーター・メビウス：電子音や処理、シンセ的な実験を取り入れてテクスチャーを豊かにしました。
彼らは当時の「クラウトロック」的ムーブメントと同時代にありながら、ポップやロック的構造を意図的に避け、より実験的・アカデミック／現場感覚の強い表現を重視しました。
音楽的特徴と手法
- 即興演奏とテープ編集：演奏の即興性を尊重し、録音後のテープ編集で形を整える手法を多用。予測不能で生々しい空気感が残ります。
- 音響的テクスチャーの重視：メロディーやコード進行よりも、ノイズ、ドローン、反復するパーカッシヴな音、電子的な処理音を中心に据えています。
- 日常音や物音の利用：フィールドレコーディング的な要素や、金属音・物体音などを積極的に取り込み、環境と楽器の境界を曖昧にします。
- 非標準化された楽器使用：オルガンやヴィオラなど伝統楽器もノイズ源として扱い、即興的な演奏法で音色を引き出します。
- ローファイ／未加工感：初期録音の低解像度・現場録音的な質感が、逆に緊張感と臨場感を生む重要な要素です。
Klusterの魅力を深掘りする
単なる「ざらついた音」を超えて、Klusterの音楽には幾つかの核心的な魅力があります。
- 未知への開放感：形式や規則に頼らないため、聴き手は常に「次に何が起きるか分からない」という期待と緊張を味わえます。これが冒険性・先鋭性を生みます。
- 感情の混濁と距離感：音響の冷たさや断片性は、しばしば孤立感や不安、あるいは静謐さといった感情を呼び起こし、即物的な感覚では捉えきれない心理的余韻を残します。
- 物質性の強調：サウンドが「物の鳴り」に近いことで、音が抽象的な音楽よりも「物質」として捉えられる。これがライブ体験での没入度を高めます。
- 後続ジャンルへの橋渡し：アンビエント、ノイズ、インダストリアル、実験エレクトロニカ等の要素を同時に包含しており、後の多様なシーンへ影響を与えました。
代表作・おすすめ作品（入門ガイド）
Klusterの入門としては、彼らの初期録音に触れることをおすすめします。とくに以下はその精神をよく伝えます。
- Klopfzeichen（初期の主要作） — 生々しい即興性と実験精神が色濃く残る作品。Klusterの音世界を理解する上で必聴の一枚です。
- 初期のライブ録音やアーカイヴ音源 — スタジオ録音とは異なる、即興の緊張感やノイズの奔放さが堪能できます。リイシュー盤やコンピレーションで聴けることが多いです。
- KlusterからClusterへと続く流れ — Kluster期の荒々しさから、Cluster期（ローデリウス＋メビウス）でのアンビエント志向へと変化する過程を辿ることで、両者の対比がよく分かります。
聴く・楽しむためのポイント
- 一度で完結して聴こうとしない：断片的で抽象的な音楽なので、繰り返し聴くことで構造や質感が見えてきます。
- ヘッドフォン推奨：微細なノイズや空間感がよく分かります。再生環境が音の印象に直結します。
- 文脈を理解する：1960年代末〜70年代初頭の前衛芸術やクラウトロックの文脈を押さえると、より深い味わいが得られます。
- ライブ・録音の差を楽しむ：スタジオの整理された音と、現場録音の生々しさは別の魅力を持っています。両方を聴き比べると面白いです。
影響と評価
Klusterの影響は直接的・間接的に広範囲に及びます。ローデリウスとメビウスのClusterとしての活動はブライアン・イーノとの共作などでアンビエントの発展に貢献しましたし、シュニッツラーのソロワークはノイズ／実験音楽の重要な参照点となりました。近年の実験音楽シーン、ポスト・ノイズ、ダークアンビエント、さらには現代のエレクトロニカ系プロデューサーまで、Klusterの「音の扱い方」は受け継がれています。
まとめ
Klusterは、既存の音楽言語に収まらない挑戦的な実験性を持ったバンドです。その魅力は「音の物質感」と「即興の予測不可能性」、そして聴き手に空間と感情の余白を与える点にあります。初期録音の粗さはむしろ作品の核であり、現代のリスナーにも新鮮な衝撃を与え続けています。Klusterを起点に、Clusterや各メンバーのソロワークへと広げて聴いていくと、20世紀後半から続く電子実験音楽の系譜が見えてきます。
エバープレイの中古レコード通販ショップ
エバープレイでは中古レコードのオンライン販売を行っております。
是非一度ご覧ください。
また、レコードの宅配買取も行っております。
ダンボールにレコードを詰めて宅配業者を待つだけで簡単にレコードが売れちゃいます。
是非ご利用ください。
https://everplay.jp/delivery
参考文献
投稿者プロフィール
