バンド幅とは何か?理論・単位・実測・改善まで徹底解説

バンド幅とは何か:基本定義と誤解

「バンド幅(Bandwidth/帯域幅)」はITやネットワークの文脈で頻繁に使われる言葉ですが、文脈によって意味が変わります。一般的には「単位時間あたりに伝送できるデータ量(ビット/秒)」を指しており、回線の容量や通信速度の上限として扱われます。一方、信号処理や電気工学では「周波数帯域の幅(Hz)」を意味することがあり、これは信号が占める周波数範囲を表します。ネットワークで使う「Mbps(メガビット毎秒)」等は前者、物理層での「Hz」は後者です。

単位と実用上の注意点

ネットワークのバンド幅を表す単位は通常ビット毎秒(bps)、キロ(kbps)、メガ(Mbps)、ギガ(Gbps)などです。ユーザーがよく混同する点:

  • 「Mbps」と「MB/s」の違い:1バイト=8ビットなので、100 Mbps = 12.5 MB/s(理論上)。プロトコルオーバーヘッドや誤り再送で実効速度はこれより低くなります。
  • 宣伝上の速度は「上り/下りの理論上限」であり、実際のスループット(ユーザーが得られる実効速度)とは異なることが多い点。
  • 物理的な帯域幅(Hz)とデータ伝送率(bps)は密接に関連しますが同義ではない点。

理論的な限界:ナイキストとシャノン(Nyquist & Shannon)

通信の理論的上限を扱う代表的な式が2つあります。

  • ナイキストの式(理想的ノイズ無しチャネル):

    最大データレート = 2 × B × log2(M)
    (Bは信号の周波数帯域幅[Hz]、Mは伝送シンボル数)

  • シャノン=ハートレイの定理(雑音のあるチャネル):

    C = B × log2(1 + S/N)
    (Cは容量[bps]、Bは帯域幅[Hz]、S/Nは信号対雑音比)

これらから分かる通り、同じ物理帯域(Hz)でも変調方式や雑音環境によって得られるビットレートは大きく変わります。光ファイバーや無線で同じ周波数資源でも実効スループットが異なるのはこのためです。

バンド幅とスループット/レイテンシの違い

「バンド幅(帯域)」はあくまで容量上限であり、ユーザー体感を決める要素はそれだけではありません。代表的な指標:

  • スループット(Throughput):実際に得られるデータ転送速度。ネットワーク混雑、プロトコル効率、パケット損失に左右される。
  • レイテンシ(遅延):往復時間(RTT)が短いほど小さいデータのやり取りや応答性は良くなる。バンド幅が大きくてもレイテンシが高いと体感は悪化する。
  • ジッタ:遅延のばらつき。音声/映像の品質に影響。

TCPのようなプロトコルでは「スループット ≒ TCPウィンドウ / RTT」で概算できるため、大きな帯域幅を有効活用するには適切なウィンドウサイズや遅延対策が必要です。

実際の速度が落ちる主な要因

  • プロトコルオーバーヘッド:TCP/IPヘッダ、TLSなどで実データが減る。
  • パケット損失と再送:ワイヤレスや混雑したネットワークで顕著。
  • 設備やケーブルの限界:古いルータ、スイッチ、銅線の品質など。
  • ネットワーク混雑(ボトルネック):プロバイダのバックボーンやピアリングがボトルネックになることもある。
  • 遅延(RTT):特に高レイテンシ環境では短時間のやり取りが遅くなる。
  • ユーザー端末側の処理能力:CPUやディスクI/Oがボトルネックになる場合。

計測方法とツール

バンド幅やスループットを測る手法はいくつかあります。代表的ツール:

  • Speedtest(Web/アプリ) — 一般ユーザー向けの簡易測定。
  • iperf / iperf3 — サーバ/クライアントで詳細なTCP/UDPスループット測定が可能。
  • SNMPやNetFlow/sFlow — ルータやスイッチで長期的なトラフィック監視。
  • Wireshark等のパケットキャプチャ — プロトコルレベルの解析。

測定時はピーク/平均、上り/下り、単方向/双方向、UDP/TCPの違いを意識し、複数回測定・時間帯別に比較することが重要です。

改善策とネットワーク技術

バンド幅不足や実効スループット低下の改善は、物理レイヤからアプリケーション層まで多層で対処できます。

  • 回線の増速/光ファイバー化:根本的な容量増強。
  • リンクアグリゲーション(LACP等):複数リンクを束ねて容量を拡張。
  • QoS(優先制御):遅延に敏感なトラフィックを優先して体感を改善。
  • キャッシュやCDNの導入:遠隔サーバからの転送を減らすことで見かけ上の帯域利用を下げる。
  • 圧縮・最適化:プロトコルの最適化やHTTP/2・QUICなどの採用で効率化。
  • TCPパラメータ調整:ウィンドウサイズやSACK等で高速・高遅延環境を最適化。

具体例と計算

簡単な換算例:

  • 100 Mbps = 100,000,000 ビット/秒 ≒ 12.5 MB/s(理論上の最大)
  • シャノンの例:B=3 MHz、S/N=30(約15 dB)のチャネルなら

    C = 3e6 × log2(1 + 30) ≒ 3e6 × 5 = 約15 Mbps(理論上)

これらは理想式で、実ネットワークではプロトコルや誤り、管理用トラフィックによりさらに低下します。

まとめ:運用で重要なポイント

バンド幅はネットワーク設計や性能評価で基礎的かつ重要な指標ですが、宣伝値=実効体感ではありません。設計時は「帯域(capacity)」「スループット(実効)」「遅延(RTT)」「損失率」の4つをセットで考え、測定と監視を継続することが重要です。理論(シャノン、ナイキスト)を理解すると物理制約や改善余地が見えますし、プロトコルや運用(QoS、キャッシュ、TCP調整)で現実の体感を改善できます。

参考文献