コントラバスの世界:歴史・構造・奏法から名曲・選び方まで徹底解説
序章:コントラバスとは何か
コントラバス(英: double bass、仏: contrebasse)は、弦楽器群の中で最低音域を担当する大型の弦楽器です。オーケストラや室内楽、ジャズ、ポピュラー音楽まで幅広く用いられ、低域の音色とリズム感が音楽の土台を支えます。本稿では歴史、構造、弦とチューニング、弓と奏法、主要レパートリー、楽器選びやメンテナンス、練習のコツまで、演奏者・愛好家の双方に役立つ知識を詳しく解説します。
歴史的背景と系譜
コントラバスの起源はルネサンスからバロック期にかけての“コントラバッソ(contrabbasso)”や“ヴィオーロン(violone)”にまで遡ります。現代のコントラバスは、ヴァイオリン属とヴィオール属の双方の影響を受けて発展しました。18世紀以降、オーケストラの低音補強の必要性から形態が標準化され、19世紀から20世紀にかけて独奏楽器としての技術的発展も進みました。
歴史上の名手としてはドメニコ・ドラゴネッティ(Domenico Dragonetti, 1763–1846)やジョヴァンニ・ボッテシーニ(Giovanni Bottesini, 1821–1889)が知られ、彼らの活躍がソロ・レパートリーの拡充に貢献しました。20世紀以降はフランソワ・ラバ(François Rabbath)やゲイリー・カー(Gary Karr)、エドガー・メイヤー(Edgar Meyer)らが奏法や表現の幅を広げています。
構造と材質:音の出る仕組み
コントラバスは基本的にヴァイオリン属と同様の構造を持ちますが、サイズや形状に独自性があります。主な構成要素は表板(通常スプルース)、裏板・側板(メイプルが主流)、ネック、指板(エボニー)、駒、魂柱(サウンドポスト)、弦を固定するテールピース、エンドピンです。内部には音響的な補強として弦を支えるためのバスバーやブロックが施されています。
素材は音色に直結します。表板は振動しやすいスプルース、裏板は硬さと反射を司るメイプルが多く使われます。指板は耐久性を重視してブラックウッド(エボニー)を用いるのが一般的です。
弦とチューニング
標準的な現代のコントラバスは4弦で、低音から順にE1(約41.2Hz)–A1–D2–G2の調弦(四度ずつ)を採用します。これはチェロなどの五度調弦と異なる点で、管楽器や鍵盤と重なる低音域の補強に適しています。
歴史的には3弦、5弦や異なる音割り(例えば5弦で低いCを加える)など多様な仕様が存在します。弦素材も重要で、古典的にはガット弦が用いられ、現代ではスチール芯に金属巻き(ステンレスやアルミニウム等)の弦、あるいは合成芯を用いたものが主流になっています。弦の選択は音色、応答性、音量に直結するため、演奏ジャンルや好みによって変えるべきです。
弓の種類と持ち方(フレンチ/ドイツ)
コントラバスの弓には主にフレンチ(オーバーハンド)とドイツ(アンダーハンド)の2系統の持ち方があります。フレンチ・ボウはヴァイオリン属の弓に似た握りで細かいニュアンスを出しやすく、ドイツ・ボウは手のひらで弓を支えるため太い音や重心ある音が出しやすいとされます。どちらが優れているかは個人の体格や奏法、所属する伝統によります。
奏法とテクニック
主要奏法はアルコ(弓奏)とピッツィカート(撥弦)です。オーケストラではピッツィカートでリズムの基盤を作る場面が多く、ジャズではピッツィカートでウォーキングベースを弾くのが一般的です。アルコでは長い持続音の支えや旋律的なソロ、ポルタメントやスピッカートなど多彩な表現が可能です。
左手の技術面では、低音域の大きな指間隔に対応する「シマンドル(Simandl)方式」のポジションシステムや、フランソワ・ラバに代表される新しい指使い(ラバ式)による効率的な移動、サムポジション(サム=親指を使うポジション、特に高音域)などがあり、独特の指板設計と合わせて発展してきました。
オーケストラと室内楽での役割
オーケストラにおけるコントラバスは低音の基礎として、和音の根音や和声の輪郭を支える役割を担います。チェロと合わせて低域の厚みを作り、ファゴット等の低音管と音色的に調和します。室内楽ではピアノを含む編成で低音の輪郭を整え、しばしば独自の対話的役割を果たします。
ソロおよび主要レパートリー
古典〜ロマン派では独奏曲は限定的でしたが、19世紀にはボッテシーニの協奏曲群やディヴェルティメント的作品が誕生し、以降ソロのための作品が増えました。代表的な曲や作曲家には以下が挙げられます。
- ジョヴァンニ・ボッテシーニ:多くの協奏曲・小品(19世紀の名作)
- ドメニコ・ドラゴネッティ:ピアノや管弦楽のための編曲や独奏小品
- セルゲイ・クーセヴィツキー(Serge Koussevitzky):コントラバス協奏曲(20世紀初頭の重要作品)
- 近現代:ラバの編曲/現代作曲家による新作—エドガー・メイヤー等がジャンル横断的に活動
(注:ここで挙げた作曲家は代表例であり、現代では多数の作曲家がコントラバスのための新作を書いています。)
ジャズ/ポピュラー音楽での役割
ジャズではピッツィカートによるウォーキングベースが最も親しまれ、チャールズ・ミンガスやポール・チェンバース、ロン・カーター、レイ・ブラウンらがジャンルを形作りました。スラップ奏法はロカビリーやロックンロールにおいてリズム効果を生み、ポピュラー系ではエレキベース(electric bass)に取って代わられる場面もありますが、アコースティックな温かみや表現力で現在も重宝されています。
楽器の選び方とメンテナンス
コントラバスを選ぶ際は以下をチェックしてください。
- サイズ:一般的には3/4が標準。ただし奏者の体格や腕の長さによって1/2や4/4を検討。
- 音のバランス:低音の深さだけでなく中高域の輪郭や響きの持続も重要。
- 材質と作り:表板の目の詰まり、裏板の割れ、接合の強度、魂柱の位置などを確認。
- ネックと指板の状態:フレットはないが、指板のすり減りやネックの反りをチェック。
- 弦と駒/サドルの適合:弦高や駒の形状が演奏性に直結。
日常のメンテナンスとしては、弦の汚れ拭き取り、湿度管理(理想は40〜60%程度)、温度変化の急激な環境を避けること、定期的な調整(駒位置、魂柱の位置、指板の摺り減り対策)を行うことが長期的な楽器の健康に繋がります。
練習のコツと上達法
低音域の大きな指間隔や弓の重心操作など特有の物理的課題があるため、以下のポイントを意識すると効率が上がります。
- メトロノームを用いた基礎リズムの徹底(特にピッツィカートのウォーキングやオーケストラのリズム感)
- スケール練習とポジション移動の反復(大きな音程差を正確に取る訓練)
- 弓の重心とスピードのコントロール練習(長い音の安定性)
- 録音して自分の低域のバランスやイントネーションを確認する
- 様々な弦・駒・弓を試して音色の違いを体感する
代表的な奏者と教育的文献
教育面ではフランツ・シマンドル(Franz Simandl)の教本が古典的基礎書として長く用いられてきました。一方、フランソワ・ラバの技法書は現代的なポジション移行を重視します。著名奏者としては歴史的にドラゴネッティ、ボッテシーニ、近現代ではゲイリー・カー、フランソワ・ラバ、エドガー・メイヤーなどが挙げられます。ジャズではレイ・ブラウン、ロン・カーター、チャールズ・ミンガスらが影響力を持ちます。
コントラバスの未来と拡張領域
現代では伝統的なアコースティック・コントラバスの技術を基盤にしつつ、エレクトリック・アップライトベースやピエゾピックアップを使った増幅、エフェクターを介したサウンドメイク、クロスジャンル(クラシック×ジャズ×民族音楽)での活躍が目立ちます。教育面でもオンラインレッスンや動画教材が普及し、学習の敷居は下がりつつあります。
エバープレイの中古レコード通販ショップ
エバープレイでは中古レコードのオンライン販売を行っております。
是非一度ご覧ください。

また、レコードの宅配買取も行っております。
ダンボールにレコードを詰めて宅配業者を待つだけで簡単にレコードが売れちゃいます。
是非ご利用ください。
https://everplay.jp/delivery
(ここには楽器レンタル・販売やレッスン紹介など、エバープレイのサービス紹介を入れてください。楽器の試奏やメンテナンス、専門スタッフによる相談窓口があると購入・レンタルの際に安心です。)
参考文献
- Encyclopaedia Britannica: Double bass
- Wikipedia: Double bass
- Wikipedia: Giovanni Bottesini
- Wikipedia: François Rabbath
- Wikipedia: Franz Simandl
- IMSLP (楽譜アーカイブ、ボッテシーニ等のスコア参照に便利)
投稿者プロフィール
最新の投稿
用語2025.12.02モジュレーション(転調)完全ガイド:理論・技法・実践的応用
用語2025.12.02EP盤とは何か──歴史・規格・制作・コレクションの極意(深堀コラム)
用語2025.12.02A面の物語──シングル文化が作った音楽の表情とその変遷
用語2025.12.02リードトラック徹底解説:制作・録音・ミックスで主役を際立たせる方法

