「間奏曲(Intermezzo)」の歴史・形式・名作解説 — クラシック音楽の“はざま”を聴く
はじめに:間奏曲とは何か
「間奏曲(intermezzo)」は文字どおりイタリア語で「間に挟まれたもの」を意味し、クラシック音楽の歴史のなかで多様な役割を担ってきました。初期は舞台芸術のなかの短い劇的・音楽的挿話として発展し、やがて器楽曲や室内楽、ピアノの小品として独立したジャンルになりました。本稿では、起源から近現代までの主要な変遷、代表作の分析、演奏・鑑賞上のポイントまでを詳しく掘り下げます。
起源と史的背景:オペラの「間奏」から
間奏曲の原型は17〜18世紀のイタリア、深刻で形式化されたオペラ・セリア(opera seria)の間に上演された短い場面、いわゆる〈intermezzi〉にあります。これらは本筋とは対照的に軽妙で喜劇的な性格を持ち、観客の息抜きや緊張緩和の役割を果たしました。最も有名な例の一つがジョヴァンニ・バッティスタ・ペルゴレージの『ラ・セルヴァ・パドローナ(La serva padrona)』(1733)です。この作品は当初〈インテルメッツォ〉として上演され、その人気はオペラ・ブッファ(喜歌劇)の発展に大きな影響を与えました。
用語の拡がり:インテルメッツォ、エントラクト、間奏曲の違い
音楽における「間奏曲」は〈intermezzo〉の他に英語の〈interlude〉や仏語の〈entr'acte〉と用語が近接します。一般に〈entr'acte〉は上演上の幕間のオーケストラ曲を指すことが多く、〈intermezzo〉は劇的要素を伴う短い歌劇的場面や、器楽作品としての短い楽曲の両方を指す場合があります。実際の用法は時代や国によって重なり合い、作曲家の意図によって意味が変わるため、文脈把握が重要です。
18世紀:オペラ間奏の黄金期と社会的役割
18世紀のインテルメッツォは、単なる音楽的“つなぎ”ではなく、社会的・文化的な意味を持っていました。重厚で格式張ったオペラ・セリアの合間に挿入されることで、階級や価値観の反転、風刺や日常生活の描写が可能になり、観客層を広げました。結果的にこのジャンルは独立して上演されるようになり、オペラ・ブッファの台頭を後押ししました。
19世紀:器楽作品としての「間奏曲」の成立
19世紀になると「間奏曲」は劇場に限られない器楽曲としての側面を強めます。オーケストラ曲としては、オペラの中のオーケストラ間奏(intermezzo/entr'acte)が演奏会で独立して採り上げられることが増えました。代表例として、ピエトロ・マスカーニのオペラ『カヴァレリア・ルスティカーナ』にある有名な〈Intermezzo sinfonico〉は、劇中の情感を濃縮した管弦楽作品として今日でも人気の独奏曲です。
ピアノ小品としての間奏曲:ブラームスを中心に
ピアノ文学における「間奏曲」は19世紀末から20世紀初頭にかけて重要なジャンルになります。ヨハネス・ブラームスは晩年に多くの〈Intermezzo〉を作曲し、Op.117, Op.118, Op.119などに収めました。これらは大規模なソナタ形式とは異なり、内省的で短い形の中に深い感情表現を閉じ込めたものです。形式的には単純な三部形式(ABA)や変奏的展開をとることが多く、テンポやニュアンスの自在な操作が演奏上の鍵となります。
20世紀以降の変容:オペラから映画・舞台へ
20世紀に入ると、間奏曲はさらに幅を広げ、作曲家個人の表現や劇的演出の一部となりました。リヒャルト・シュトラウスのオペラ『Intermezzo』(1924-25、本人の私生活を下敷きにした自伝的喜劇)では、〈間奏〉という語が作品の主題的・構造的な意味合いを帯びています。また、映画音楽やバレエでの挿入曲としての使用も多く、映像と結び付くことで新しい聴き手層に届くようになりました。
音楽的特徴と形式的分析
間奏曲に共通する特徴を挙げると、まず短さと凝縮性が挙げられます。短い時間の中で明確な感情や風景、場面転換を提示するため、主題が明瞭で反復や対照が効果的に用いられます。ハーモニーは状況により保守的から革新的まで幅広く、ロマン派以降は色彩的な和声やモードのにおいを帯びたパッセージが見られます。ピアノ間奏曲では、内省的な低音の支えに対して上声部の旋律が歌うように進行することが多く、呼吸感と間(ま)が大きな表現要素となります。
演奏と解釈のポイント
- テンポと呼吸:短い曲でも内的な流れをつくる。テンポに柔軟性を持たせてフレーズを歌うこと。
- 音色とダイナミクス:静けさの中に隠された緊張や解放を音色で表現する。ピアノ作品ではペダルの使い方が緻密に問われる。
- 文脈理解:劇的間奏の場合は台本や登場人物の心理を理解して演奏する。独立曲として演奏する際も、その場面性を想像することが有効。
代表作と鑑賞ガイド(抜粋)
・ジョヴァンニ・バッティスタ・ペルゴレージ『La serva padrona』(インテルメッツォとしての古典)— オペラ史上、間奏曲が独自のジャンルへと発展する契機となった作品。
・ピエトロ・マスカーニ『カヴァレリア・ルスティカーナ』のIntermezzo— 劇的な場面転換を超えて、独立した管弦楽曲としても高く評価される。
・ヨハネス・ブラームスのIntermezzi(Op.117/118/119)— ピアノの小品の中で最も内省的かつ濃密。短い形式に詩的世界が凝縮されている。
・リヒャルト・シュトラウス『Intermezzo』(オペラ)— 私的な素材を基にした“日常のドラマ”を描く作品で、間奏曲という題名の意味を拡張している。
鑑賞のコツと現代での位置づけ
間奏曲を聴くときは「はざま」にあるという性質を楽しんでください。次の大きな場面を予感させる、あるいは前の場面を反芻する——その曖昧な時間感が間奏曲の魅力です。現代ではコンサートやラジオ、ストリーミングで短い曲のまとまりとして取り上げられることが多く、入門的にも取り組みやすいジャンルと言えます。
結論:間奏曲の持つ多層性
間奏曲は単なる“つなぎ”を超え、劇的・音楽的な圧縮表現として重要な位置を占めてきました。オペラの喜劇的挿話としての起源から、ピアノの親密な小品、独立した管弦楽作品、さらには映像や舞台と結びついた多様な展開まで、その姿は時代とともに変容し続けています。聴き手は短い時間のなかに凝縮された物語や感情を受け取り、作曲家の意図や歴史的文脈を想像することで、より深い鑑賞体験を得ることができます。
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参考文献
- Intermezzo (music) — Wikipedia
- Intermezzo | music — Encyclopaedia Britannica
- La serva padrona — Encyclopaedia Britannica
- Cavalleria rusticana — Encyclopaedia Britannica
- Intermezzi (Brahms) — Wikipedia
- Intermezzo (Strauss) — Wikipedia
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