モーツァルト 交響曲第9番 ハ長調 K.73 — 作曲背景・楽曲分析・演奏上の考察

概要

ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトの交響曲第9番 ハ長調 K.73(以下 K.73)は、モーツァルトが少年期に手がけた初期交響曲群の一つです。標題は付されておらず、古典派期の典型的な三楽章または四楽章形式の簡潔さを備えつつも、随所に後年の成熟した作法の萌芽が見られます。本稿では、作品の成立背景、楽曲構成と様式的特徴、編成と演奏上の留意点、現代における評価と主要録音・版について、可能な限り一次資料や信頼できる版を参照しながら詳述します。

成立と歴史的背景

K.73 はモーツァルトが10代前半から中盤にかけて制作した交響曲群に属します。モーツァルトは1756年生まれで、幼少期から父レオポルトとともにヨーロッパ各地を巡りながら演奏・作曲活動を行いました。これらの旅行と演奏活動の経験が、イタリアやドイツの音楽様式を吸収する契機となり、K.73にもその影響が色濃く反映されています。 成立年については資料により差がありますが、研究者の多くはこの交響曲を1770年前後、イタリア旅行の時期もしくはその直後に成立した可能性が高いと見ています。原典や版についてはデジタル化されたスコア(例:Digital Mozart Edition / Neue Mozart-Ausgabe や IMSLP 等)を参照すると、初稿の筆致や補訂の履歴を確認できます。

編成(器楽編成)

K.73 の標準的な編成は、当時の慣習に従い弦楽器(第1ヴァイオリン、第2ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ/コントラバス)を中核に、木管としてオーボエ2本、金管としてホルン2本が加わります。通例、バスーンは通奏低音や音色補強のために用いられることがあり、チェンバロによる通奏低音(バロック以来の慣習)が残存している状況でも実演上は弦だけで済ます場合が多いです。

楽曲構成と詳細な分析

K.73 は古典派初期の交響曲らしく、簡潔で明快な楽章配列を持つのが特徴です。以下に典型的な楽章構成と、各楽章の聴きどころを示します。
  • 第1楽章:アレグロ(ハ長調)ソナタ形式を基盤にした楽章。活発な主題提示と、対位的処理や短い展開部を通じて古典派的な均衡が保たれます。主題は明快でリズムの切れ味がよく、ホルンとオーボエが主要な色彩を与えます。展開部では主題素材が分割・転調され、終結部(コーダ)は簡潔にまとめられる傾向があります。
  • 第2楽章:アンダンテ(ヘ長調などの近接調)緩徐楽章は歌謡的な旋律線と対位法的な伴奏パターンが組み合わされ、弦の内声が美しく整えられます。モーツァルトの初期作品には通奏低音的要素や宗教曲的な抒情性がにじむことがあり、本楽章にもそうした情緒が見られる場合があります。昂然としすぎない抑制された感情表現が聴きどころです。
  • 第3楽章:プレスト(ハ長調)終楽章は急速なテンポで明るく締め括られることが一般的です。リズムの跳躍や短い動機の反復を用いて勢いが持続されます。時にメヌエットとトリオを挟む四楽章構成の場合もありますが、K.73 は古典初期の三楽章構成を採ることが多く、躍動感のあるフィニッシュが特徴です。

様式的特徴と作曲技法

K.73 に見られる特徴は、以下の点に集約できます。
  • 古典様式の明快さ:主題の語り口が分かりやすく、和声進行や句構成が規範的です。
  • 対位法的処理の萌芽:主題の扱いにおいて短い対位的展開や模倣が見られ、後年のより複雑な楽器間のやり取りを予告します。
  • 色彩的配慮:オーボエやホルンの使用が巧みで、弦だけでなく管楽器による色彩的対比を効果的に生かします。
  • 簡潔な構成:長大な展開よりも均衡の取れた小規模ソナタ形式が多用され、当時の宮廷・サロン演奏に適した長さです。

演奏上の留意点

歴史的演奏慣習を踏まえた解釈では、以下の点が重要です。
  • 弾みとフレージング:第1楽章や終楽章におけるリズムのキレ、短いフレーズごとの明瞭なブレスやニュアンスを大切にすること。
  • アゴーギクと強弱:当時の楽器、特にホルンとオーボエの鳴り方を想定してダイナミクスを調整する。過度なピアニッシモは避け、音色の対比で表情を作るのが効果的です。
  • テンポの選択:部分によっては少しゆったり目にとって歌わせる箇所が生きるが、構造的緊張を損なわないように留意する。
  • 版選択:伝承の版によっては写譜の誤りや補筆があるため、ニュー・モーツァルト・アウスガーベ(Neue Mozart-Ausgabe)や信頼できる校訂版で確認することを推奨します。

楽曲の評価と位置づけ

K.73 はモーツァルトの交響曲全体の中ではいわゆる“前期作品”に分類され、技術的な完成度という面では彼の後期交響曲(例:第35番《ハフナー》、第36番《リンツ》、第41番《ジュピター》)には及ばないものの、作曲技巧と音楽語法の習得過程を示す貴重な資料です。当作品は、若き日のモーツァルトが伝統を受け継ぎつつ個性を形成していく過程を知るうえで重要で、演奏会や録音でも早期作品集の一部として取り上げられています。

版と資料について

研究・演奏にあたっては、以下の版・資料を参照することが有益です。
  • Digital Mozart Edition / Neue Mozart-Ausgabe(デジタル版モーツァルト全集):原典資料に基づく校訂版が掲載されています。校訂方針や原資料注記を確認できます。
  • IMSLP(国際楽譜ライブラリープロジェクト):公開されている写譜や古い版を閲覧可能で、比較研究に役立ちます。
  • 主要な録音のライナーノート:演奏解釈の違いや楽器編成の選択(ピリオド奏法 vs モダン演奏)についての考察が記されています。

現代の録音と演奏傾向

20世紀後半からはピリオド奏法による演奏が増え、テンポや発音、ヴィブラートの使用において歴史的慣習を意識した解釈が増えています。一方でモダンオーケストラによる演奏も多く、豊かな弦の音色や深い響きを活かした録音が好まれるケースもあります。いくつかの代表的な録音を参照して、演奏のアプローチの違いを聴き比べることを勧めます。

聴きどころとガイド

初めて K.73 を聴く際のポイント:
  • 各楽章の主題の違いに注目し、どの楽器が主題を担っているかを追いかける。
  • 展開部での調性移動や動機の拡張がどのように楽曲全体の緊張を生み出しているかを感じる。
  • 管楽器の使い分け(オーボエとホルン)による色彩効果を聴き取る。

まとめ

K.73 はモーツァルトの若年期における学習と実践の結晶であり、古典交響曲の構造的ルールと個人的表現のバランスを示す作品です。演奏・研究を通じて初期モーツァルトの特徴を理解するための重要な鍵となるでしょう。演奏に際しては原典版の確認と、時代演奏慣習を踏まえた解釈が推奨されます。

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参考文献