モーツァルト:交響曲 ニ長調 K.81(K.73l)——若き天才のイタリア期における輝き
序章 — 若きモーツァルトとK.81の位置づけ
ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト(1756–1791)が十代前半に手掛けた交響曲群は、後年の巨匠像を形作る萌芽に満ちています。その中でも「交響曲 ニ長調 K.81(旧番号 K.73l)」は、彼がイタリア訪問中に作曲したとされる初期交響曲の一つとして知られ、明るく快活な音楽性が特徴です。作品番号や成立年については研究史の中で諸説ありますが、現在の専門資料ではおおむね1770年前後の作とされ、初期の様式と成熟の過渡期を示す重要な一作と見なされています。
歴史的背景
モーツァルト一家は1769–1771年頃のイタリア旅行で多くの作品を作曲・上演しています。この時期の交響曲群(いわゆる「ミラノ=イタリア期」の作品)は、イタリアのオペラや公開演奏の影響を受け、観客に直接的な魅力を伝えることを意図した快活な楽想が多く見られます。K.81もそうした文脈の中で誕生し、コンチェルト風の華やかさや、主題の明快さ、舞曲的なリズム感が持ち味となっています。
楽器編成と演奏の実際
初期のモーツァルト交響曲に共通する編成として、弦楽(第1・第2ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ/コントラバス)を中核に、オーボエ2本、ホルン2本を加えることが一般的でした。低音には通奏低音(チェンバロやバスーンの補強)が用いられる場合があり、ニ長調という調性はトランペットやティンパニの使用にも適していますが、実際の初稿や当時の演奏実態によっては必ずしも常備されていなかったことにも留意が必要です。
楽曲の構成と特色(概説)
K.81は伝統的な古典派交響曲の型に沿った明快な構成を持ち、快活な主題、対位法的な処理、そして短いフレーズを積み重ねることでドラマを生み出す手法が目立ちます。以下は各パートの一般的な特徴です(楽章名や標題は稿本によって表記差があるため、演奏・校訂版により若干の相違があり得ます)。
- 第1楽章(アレグロ系):明るいニ長調で開始し、短い動機を活用して推進力を生み出すソナタ形式。主題は歌謡的でありつつも、展開部では転調や動機の分割・模倣が行われ、若きモーツァルトの造形力が感じられます。
- 第2楽章(アンダンテ/アダージョ系):第1楽章の熱気を受けつつ、歌謡性を強める緩徐楽章。弦の伴奏に乗る木管の対話や、呼吸を取った表情付けが魅力です。対位的要素は控えめで、旋律の美しさが前景に出ます。
- 第3楽章(フィナーレ):短い主題を反復・変化させながら進むロンド風またはソナタ=ロンド風の終楽章。活発でリズミカルな動きにより演奏会の締めくくりとしての爽快感を提供します。
作曲技法と作風の分析
K.81における特徴的な技法として、以下の点が挙げられます。
- 短い動機を繰り返し・発展させることで、簡潔な主題から豊かな表情を引き出す点。若いモーツァルトはここで既に動機処理の巧みさを示しています。
- オーケストレーションの経済性。木管とホルンは装飾的・色彩的に用いられ、弦のアンサンブルに焦点が置かれます。これにより室内楽的な透明感と、同時にオーケストラ的な広がりが両立します。
- イタリア音楽の影響による歌謡性と、当時の観客に届きやすい直接性。ロマン主義以前の「親しみやすさ」を重視した設計が見られます。
演奏史と現代における評価
K.81はモーツァルトの交響曲群の中では必ずしも頻繁に演奏されるレパートリーではありませんが、近年の古楽運動や全集復刻により再評価が進んでいます。歴史的演奏慣行を踏まえたピリオド奏法の録音では、テンポ感やアーティキュレーションの違いにより作品の魅力がよりクリアに伝わることが多く、短く明瞭な楽想が現代の聴衆にも新鮮に響きます。
鑑賞のポイント(リスナー向けガイド)
この交響曲を聴く際の注目点をいくつか挙げます。
- 第1楽章の主題提示部での動機の形をつかみ、展開部でそれがどのように分割・転用されるかを追うと、モーツァルトの構築感が理解しやすくなります。
- 緩徐楽章では、旋律のひとつひとつのフレージングと呼吸に注目すると、当時の歌唱的美学が聴き取れます。
- 終楽章はリズムの躍動と対比の効果を見ることで、単純な明るさ以上の構成的巧みさを味わえます。
おすすめ録音(入門)
演奏スタイルにより表情が大きく変わる曲です。ピリオド奏法での録音は透明感と機敏さが魅力で、モダン・オーケストラによる録音はより豊かな弦の響きや色彩感が特徴です。全集録音や若き頃の交響曲集に組み込まれた盤を探すと聴き比べが楽しめます。
まとめ — 若き創意のひとしずく
交響曲 ニ長調 K.81は、モーツァルトの若年期における創作の機微を伝える作品です。華やかさと端正さが同居するこの曲は、彼が成熟していく過程を窺わせる貴重な資料であり、聴く者にとっては飾り気のない純粋な音楽的喜びを与えてくれます。作品の成立背景や楽器編成、各楽章の構成に注意を払いながら聴くことで、より深い理解と感動が得られるでしょう。
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参考文献
以下は信頼できるオンライン資料と参照先です。さらに詳しく調べたい場合は、楽譜アーカイブや音楽事典を参照してください。
- IMSLP: Symphony in D major, K.81 (Mozart) — スコアや古版情報の参照に便利です。
- Wikipedia: Wolfgang Amadeus Mozart — モーツァルトの生涯と作品目録(概説)。
- AllMusic — 作品解説や録音レビューを探す際に有用です(個別作品ページを参照)。


