モーツァルト 交響曲第24番 K.182(K.173dA)— 若き日の技巧と古典様式の成熟

はじめに

ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトの交響曲第24番 変ロ長調 K.182(別表記 K.173dA)は、彼が十代後半頃の1773年に作曲した作品であり、短い演奏時間に古典派の形式感と若い作曲家の個性が凝縮されています。本稿では作曲の背景、楽器編成、各楽章の構造と音楽的特徴、演奏上の留意点、そして作品の位置づけを詳しく掘り下げます。正確な情報に基づき、研究資料や楽譜を参照して解説します。

作曲の背景と年代

交響曲第24番は1773年にザルツブルクで作曲されたとされます。モーツァルトは当時17歳前後で、父レオポルトのもとに戻りつつ創作活動を続けていました。この時期のモーツァルトはイタリアやロンドン滞在で得た交響曲やオペラの表現を吸収しつつ、ハイドンや当時の有力な交響曲作曲家の様式にも触れており、若いながら古典的様式の諸要素を巧みに取り入れていました。

楽器編成と典型的特徴

標準的な編成は第1第2オーボエ、2本の角(ホルン)、弦楽器(第1・第2ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバス)を基本とし、当時の実践としてバスーンが通奏低音を補助することも想定されます。管楽器は和声的・色彩的な役割を担い、ホルンはキーに特有の自然倍音に縛られた響きで響きの輪郭を確立します。

楽章構成(概略)

  • 第1楽章 アレグロ(ソナタ形式)
  • 第2楽章 アンダンテ(緩徐楽章、対比キーによる抒情)
  • 第3楽章 プレスト(フィナーレ、活発なリズム)
典型的な三楽章構成はイタリア・ドイツの交響曲伝統が混在した様式で、古典派の簡潔さと明確な動機処理が特徴となっています。演奏時間は通常12〜16分程度です。

第1楽章の分析:主題と形式

第1楽章はソナタ形式による構成で、明快な主題提示と対位的処理、ハーモニーの巧みな移動が見られます。第一主題は活力に満ちた主張を伴い、短い動機が繰り返されることで有機的まとまりを生み出します。提示部は主調での第一主題から始まり、移行句を経て属調(変ロ長調の属調であるヘ長調)へと向かうのが古典的な書法です。 モーツァルトはこの楽章でリズムの対比とアクセント操作を巧みに利用します。たとえば弦楽器の分散和音に管楽器が切れ目を与えることで、音楽に立体感が生まれます。展開部では短い動機が分割・転調しながら展開し、短調の領域や近親調を経巡ることで緊張を高め、再現部での帰着がより効果的になります。

第2楽章の分析:抒情性と和声進行

第2楽章は緩徐楽章らしい抒情性を持ち、しばしば主調の近親調で配置されます。この楽章ではメロディの歌わせ方、内声部のハーモニー処理、ホルンやオーボエの色彩的な介入が重要です。モーツァルトは単純な旋律線に対して微妙な和声付けを行い、短い装飾や弱起の処理によって表情を豊かにします。 和声的には明確な機能進行を保ちながらも、ディグレッション(よそ道)的な短い借用和音や並行移動がアクセントとして用いられ、安定と不安定の微妙な揺らぎが生まれます。テンポとアーティキュレーションの選択により、穏やかながらも内に緊張を含む演奏が望ましいです。

第3楽章の分析:疾走するフィナーレ

フィナーレはプレストやアレグロで書かれ、軽快な動機の連鎖とリズムの推進力で作品を締めくくります。単純なロンド形式やソナタ形式に近い構成が見られ、短い主題の反復と変奏、対位法的な模倣が活用されます。 終楽章では弦楽器のパッセージや管楽器の掛け合いが明快で、終結部に向けて速度感を増しながら和声の安定を取り戻します。ホルンが和声の基盤を補強する役割を担い、オーボエが旋律線の輪郭を整える配置が特徴です。

様式的考察と作曲技法

交響曲第24番はモーツァルトが古典派の基礎を熟知しつつ、若い感性で動機を凝縮する作風を示します。特徴的な点をまとめると次のようになります。
  • 簡潔な動機素材の反復と発展による統一感
  • 古典的ソナタ形式の枠組みを守りながらも、短調や近親調への短い逸脱で表情を追加
  • 管楽器の色彩的使用と弦の対話によるテクスチャの対比
  • 音楽語法の透明性と即効性の高いメロディ生成

演奏上の留意点

この交響曲を演奏する場合、以下の点に注意すると良い演奏が期待できます。
  • テンポ設定は古典派の明晰さを保ちながらも、各楽章の性格に応じた柔軟性を持たせること
  • 弦と管のバランスを重視し、ホルンの自然倍音に起因する音程の特徴を踏まえた調整を行うこと
  • フレージングは短い動機ごとに明確にしつつ、全体の流れを意識して呼吸を取ること
  • 装飾やトリル等の解釈は当時の演奏慣習を参考に、過度にロマン的にならないよう注意すること

作品の位置づけと受容

第24番はモーツァルトの交響曲群の中では中小規模の作品群に属します。後年の傑作群(例えば第35番『ハフナー』以降)と比べると規模・野心は小さいものの、若き日の形式運用能力とメロディメーカーとしての鋭さがはっきり表れています。演奏会で取り上げられる機会は大規模な交響曲ほど多くはありませんが、モーツァルトの初期交響曲を理解するうえで重要な位置を占めます。

研究と版・校訂に関する注意

楽譜を参照する際は信頼できる校訂版や原典版を利用してください。デジタル版の楽譜(IMSLP 等)や新モーツァルト全集(Neue Mozart-Ausgabe)に基づく校訂は、当時の転写や写譜の異同を明らかにするためにも有益です。演奏解釈を決める際には原典に残る表記やテンポ指示、反復記号などを確認しておくと誤読を避けられます。

おすすめの聴きどころ

聴く際には次の点に注目してください。
  • 第1楽章の導入部で示される動機が曲全体でどのように再利用されるか
  • 第2楽章における内声部の動きや管楽器のささやかな色彩付け
  • 最終楽章でのリズムの推進力と、短いフレーズの組み合わせが生む爽快感

まとめ

交響曲第24番 K.182は短くも凝縮された造形美を持ち、モーツァルトが若年期においてすでに古典的形式を自在に操っていたことを示す好例です。楽譜の細部に目を向けることで、彼の動機処理や和声感覚、楽器の色彩付けに対する繊細な感覚が浮かび上がります。研究者や演奏者のみならず、聴衆にとっても小品ながら豊かな発見をもたらす作品です。

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参考文献