モーツァルト「セレナード第9番 ニ長調 K.320『ポスト・ホルン』」徹底解説と鑑賞ガイド
モーツァルト:セレナード第9番 ニ長調 K.320『ポスト・ホルン』とは
ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトの『セレナード第9番 ニ長調 K.320』、通称「ポスト・ホルン(Posthorn)」は、1779年に作曲された作品で、明るく祝祭的な響きとウィンド・セクションの巧みな扱いが特徴です。ニ長調という調性の持つ開放感と、モーツァルトならではの旋律美、対位法的処理やホルン類の効果的な配置により、当時の社交的な場や屋外の演奏にふさわしい作品として親しまれてきました。作品番号K.320はモーツァルトの作曲年代順目録(ケッヘル番号)で1779年頃の作品群に含まれます。
作曲された時代背景と目的
1779年はモーツァルトがザルツブルクに滞在し、宮廷や市民のための演奏や祝典音楽の作曲に充てていた時期です。セレナードというジャンルは、結婚式や夕べの集い、祝祭行事などで演奏されることが多く、複数の楽章から成る大規模な娯楽音楽でした。K.320もその例に沿い、屋外でも聴衆に届くようなホルンやトランペットなどの金管の使用、広がりのあるフォームを意図しています。
編成と“ポストホルン”の起用
本作は弦楽器に加え、多彩な管楽器を配した典型的なセレナード編成を持ちます。オーボエ、ホルン、トランペット、ファゴットなどの木管・金管が重要な役割を担い、特に作品の一部においてポストホルン(郵便の合図に用いられた小型の自然号角)を独奏的に導入している点が本作のニックネームの由来です。ポストホルンは現代の演奏ではコルネットやトランペットで代用されることもありますが、歴史的な音色を重視する演奏では自然ホルンやレプリカのポストホルンを用いることがあります。
形式と楽章構成(概観)
セレナードの形式は交響曲と共通する要素を持ちながらも、より多様な楽章が並ぶことが多いです。K.320も複数の小楽章から構成され、ファンファーレ風のオープニング、舞曲的なメヌエット、木管やホルンの見せ場を作る協奏的(コンチェルタンテ)な楽章、そしてポストホルンを含む祝祭的な箇所など、変化に富んだ配列がなされています。各楽章はそれぞれ短いキャラクターを持ち、全体としては社交的で軽快な流れを保ちます。
和声と様式的特徴
モーツァルトはこの作品でも明確な古典派の語法を用いています。主部ではニ長調のトニック/ドミナントによる安定した調性進行が基盤を作りつつ、短い展開や転調を用いて彩りを加えます。第一主題の提示—展開—再現というソナタ形式的処理が見られる楽章では、対位法や短い連結句を駆使して音楽を推進させます。また、木管群に与えられた独立した対話的旋律、ホルンやトランペットによるリズミックな呼びかけが、全体のテクスチャを豊かにします。
聴きどころの具体的ガイド
・冒頭:開放的な和音と明快なリズムで祝祭的に始まる部分は、全曲の性格を即座に示します。ニ長調の明るさとホルン・トランペット群のファンファーレが印象的です。
・木管の協奏的場面:オーボエやファゴットが旋律を受け渡す箇所では、モーツァルト独特の歌わせ方と呼吸感が際立ちます。ここはアンサンブルのバランスやブレス感が魅力を左右します。
・ポストホルンを用いる楽章:実際に“郵便の合図”を想起させる短いモチーフが現れることで、郷愁とユーモアが同居する瞬間となります。自然楽器の素朴な音色が加わると、効果は一層強くなります。
・舞曲的楽章(メヌエット等):均整の取れたフレーズとリズム感が心地よく、古典派の均整美が堪能できます。
演奏・指揮の実務的ポイント
演奏する際には、以下の点が重要です。
- 音量バランス:金管群が多用されるため、弦楽や木管とのバランスに注意。特に屋外での演奏を想定した書法でも、室内楽的な繊細さを失わない配慮が必要です。
- 歌わせ方(フレージング):モーツァルトの旋律は呼吸に素直であることが美しさの条件。短いフレーズの終わりや連結句で自然な呼吸を与えると効果的です。
- テンポ設定:舞曲楽章と行進的な楽章ではテンポ差を明確にし、曲全体のコントラストを際立たせるべきです。速すぎると様式感が損なわれ、遅すぎると軽快さが失われます。
- 歴史的演奏慣習:原典主義的アプローチでは、ナチュラル・ホルンや古典的なアーティキュレーション、ピッチ(A=430〜415Hz程度)を採用して当時の色合いを再現する手法もあります。
楽曲が伝える意味と受容
このセレナードは単なる軽音楽に留まらず、モーツァルトの器楽センスが凝縮された作品として評価されます。祝祭音楽としての即時的な魅力に加え、器楽間の対話や短いドラマ性が繰り返し聴きたくなる要素を与えています。現代でもコンサートや録音で取り上げられ、古楽演奏とモダン楽器演奏の双方で異なる魅力を示している点が興味深いところです。
鑑賞のヒント(聴き方の提案)
初めて聴く場合は、まず全体のコントラストに注目してください。序盤の華やかさ、木管のソロ・パート、舞曲的な中間楽章、そしてポストホルンの登場といった音色と役割の変化を意識すると、曲の構成が立体的に理解できます。2回目以降は和声進行の巧みさや主題の再利用、モーツァルトの短い動機による大きな効果(モティーフ処理)に耳を向けると、新たな発見があります。
現代における演奏と録音
近年は原典版や古楽器による演奏が増え、自然ホルンや古楽奏法を用いた録音も多く出ています。モダン・オーケストラによる演奏は表現の幅と音色の豊かさが魅力です。どのアプローチも一長一短があり、音色やテンポ、アーティキュレーションの違いを聴き比べることで作品の多面性を楽しめます。
まとめ
『セレナード第9番 ニ長調 K.320』は、モーツァルトの社交音楽的才気と器楽での語り口がよく表れた作品です。祝祭性と室内的な繊細さが同居し、ポストホルンというユニークな音色の導入が曲に特徴的な彩りを与えます。初めて聴く方はその明快な構造と美しい旋律に心惹かれるでしょうし、繰り返し聴くことで細部に宿る工夫やモーツァルトの天才的な経済性に気づくはずです。
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参考文献
- IMSLP: Serenade No.9 in D major, K.320(楽譜と概要)
- Encyclopaedia Britannica: Wolfgang Amadeus Mozart(作曲家についての概説)
- AllMusic: Serenade No.9 in D major, K.320 ‘Posthorn’(作品解説)
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