モーツァルト:行進曲 ニ長調 K.189(K^6 167b)徹底解説 — 編成・様式・演奏実践と名演ガイド
序章:短い楽曲に宿る宮廷的色彩
モーツァルトの「行進曲 ニ長調 K.189(K6 167b)」は、短く簡潔でありながら当時の宮廷や教会の行事、軍楽的な用途に適した様式感をコンパクトに示す作品です。今日ではオーケストラの前座や教育的な演奏会、小編成の室内楽で取り上げられることが多く、モーツァルトの多様な作曲活動の一端を感じさせます。本稿では来歴、楽曲構造、編成・楽器法、演奏・解釈上のポイント、版・録音情報まで詳細に掘り下げます。
来歴と資料学的背景
K.189 は通称「行進曲 ニ長調」と呼ばれ、ケッヘル目録で K.189(旧表記や異表記として K.167b と併記されることがあります)。作曲年は一般に1773年頃とされ、モーツァルトがザルツブルクに滞在していた時期の作品群と位置づけられています。行進曲は公式行事や行列、祝祭で頻繁に必要とされたため、モーツァルトも多数の行進曲や舞曲を作曲しました。
現存する自筆譜や写譜は複数の写譜伝承をもち、版によって表記や編成の差異が見られます。代表的な楽譜資料としては、国際楽譜ライブラリ (IMSLP) に掲載された写譜・校訂版や、デジタル・モーツァルト・オリジナル(Digitale Mozart-Ausgabe)などが参照できます。これらの出典を比較することで、旋律線や装飾、楽器配列の差異を検討できます。
編成と楽器法
この行進曲の標準的な編成は弦楽合奏に加えて木管(オーボエ等)および金管(トランペット)とティンパニを含むものが一般的に伝わっています。実際の写譜には編成表記に若干の違いがあるため、上演時には以下の点を確認してください。
- 弦楽(第1・第2ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ/コントラバス)
- オーボエ 2、本来の写譜では代替としてフルートが記される場合あり
- ホルンやトランペット:調性に合わせた自然管トランペット/ホルンが想定される
- ティンパニ:主要アクセントで用いられる(ニ長調ならばニとソに調律)
18世紀後半の演奏慣習を考慮すると、金管は当時の自然管の音色と限られたファンデーションで用いられており、現代楽器での演奏では音量バランスに留意する必要があります。
形式と楽曲分析
曲は典型的な行進曲の書法に従い、短い反復形式(A–B あるいはAABB)を持つことが多いです。ニ長調の明朗な調性を活かし、付点リズムや短い動機の反復で安定した行進の推進力を生み出します。展開部といえる複雑な発展はほとんどなく、主要部の再現と短いコーダで締めくくられる構成が一般的です。
旋律面ではシンコペーションを避ける保守的な書法が見られ、対位的処理は最小限に留められています。和声面では主和音と属和音の明瞭な往復を基礎に、短い副属調や属調領域への短い動きが入る程度であり、聴衆に即座に調性感を伝えることを意図しています。
演奏・解釈のポイント
- テンポ感:行進曲としての安定した歩調を保ちながら、モーツァルト特有の軽やかさを失わない。ややルバートを抑えた明瞭な拍節感が求められる。
- 音量バランス:金管とティンパニはアクセントを付けつつも弦と木管の輪郭を覆わないようにする。特にトランペットは所与の強さを抑えめにし、合奏の透明性を保つこと。
- フレージング:短い動機を連続させる場面が多いため、各動機の終わりの音に微妙な減衰や色付けを与え、句の区切りを明確にする。
- 装飾とアーティキュレーション:原典に記された装飾は控えめ。古楽系の演奏では短いトリルや上行的な装飾を穏やかに用いることがあるが、過剰は避ける。
版と校訂上の注意点
伝承写譜の差異により、音符の長さや小節の反復指示、編成の記載が版によって異なります。演奏前には使用する版の注記(エディターの解説、校訂の根拠)を確認してください。特に、トランペットやホルンのパートは当時の自然管に基づくため、現代のバルブ楽器への移植では音域や調性に注意が必要です。
聴く・聴かせるためのプログラミング
この行進曲は短く、コンサートの前座や幕間曲に最適です。また、教育的プログラムで子どもや初学者に古典派の典型的な舞台音楽を紹介する際にも有効。ほかのモーツァルトの祝典用小品(行進曲や序曲)と組み合わせることで、18世紀の儀礼音楽の流れを示すことができます。
録音と演奏例の薦め
多数の録音が存在するわけではない短い曲ですが、古楽器アンサンブルやプロの室内オーケストラの演奏が参考になります。録音を選ぶ際は音色の透明性、バランス、テンポ設定を基準に聴くとよいでしょう。可能であれば古楽奏法に基づく演奏と現代オーケストラの対比を聴き、表現の違いを学ぶのも有益です。
まとめ:機能音楽としての普遍性
K.189 は長大な交響曲や協奏曲と比べれば軽量な作品ですが、モーツァルトがいかに様式に合わせた即応的な作曲力を持っていたかを示します。短い楽章に調性的明快さ、舞踏・行進に適したリズム処理、そして儀礼的な品位を保持する技術が凝縮されています。演奏者はこの楽曲を通して、簡潔さのなかにある表現の機微を磨くことができます。
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参考文献
- IMSLP: March in D major, K.189 (Mozart)(スコアと写譜の参照)
- Digitale Mozart-Ausgabe(デジタル・モーツァルト・アウスガーベ)(モーツァルト作品の学術的資料)
- List of compositions by Wolfgang Amadeus Mozart(Wikipedia)(作品目録の参照)
- AllMusic(録音情報・解説の参考)
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