モーツァルト「2つの行進曲 ニ長調 K.335(K.320a)」:楽曲の背景・構造・演奏の読み解き
はじめに — 小品に宿る古典の様式美
モーツァルトの「2つの行進曲 ニ長調 K.335(K.320a)」は、短いながらも古典派の均整の取れた造形、明快なリズム、機能和声に基づく説得力ある進行を備え、式典音楽やお稽古曲として広く親しまれてきました。本稿では、史的背景、楽曲構成、演奏上の注意点、楽譜・版問題、録音・編曲史など多面的に掘り下げ、実演や鑑賞に役立つ視点を提示します。
史的背景と来歴
「K.335(K.320a)」と表記されるこの2曲は、モーツァルト作品目録(ケッヘル目録)の複数版による番号付けの差異を示しています。ケッヘル目録は後年の研究で番号の修正や付番の追加が行われ、K.320a のような補助番号が付される場合があります。行進曲は宮廷・軍楽・市民的な催しなど公式の場で用いられる短い儀礼曲として各地で需要が高く、モーツァルトも断続的にこうした短い器楽曲を手がけました。
本作の正確な作曲年や初演の詳しい記録は残されておらず、資料や版によっては成立時期に諸説があります。古典派の行進曲として一般的な編成(弦楽器群を中心に木管やホルンを加えた小編成管弦楽)を想定したものと考えられます。
楽曲の概観と編成
2曲はともにニ長調で書かれており、明るく開放的な性格を持ちます。行進曲というジャンル柄、拍子感とアクセントの明確さが重要で、短い動機の反復や対位的な受け渡しが効果的に用いられます。おおむね以下のような特徴が挙げられます。
- 調性:主にニ長調(D major)。クラシック期の行進曲にふさわしい明るさと力感。
- 形式:簡潔な二部形式(A–B)または小規模の繰り返しを伴う構造。各部は反復されることが多い。
- 編成:標準的には弦楽器(第1・第2ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ/コントラバス)に加え、オーボエやホルン等の木管・金管が加わる小規模オーケストラ向けとされるが、ピアノ(あるいはピアノ連弾)編曲も多く流通する。
- 用途:式典、行列、室内での小規模演奏など汎用性が高い。
楽曲の構造と和声的特徴(分析)
両曲ともに短い主題と付随する対句を用いて、古典派の「明瞭な周期感」を保ちながら進行します。以下は一般的な分析視点です。
- 主題性:短く覚えやすい動機(例えば付点リズムや跳躍を伴うフレーズ)が反復され、行進の歩調感を生み出す。
- 和声進行:基本はトニック(I)–ドミナント(V)関係を中心にした機能和声。副次的な属調への短期的な移行や、ドミナントへの延長が効果的に用いられる。
- 対位と伴奏:第1主題はしばしば第2ヴァイオリンやホルンで補強され、チェロやヴィオラは定型的な伴奏進行でリズムを支える。
- 対比部(中間部):ニ長調から属調(A)やその近傍に移ることで色彩の変化を付与し、再現部でトニックに戻る構造を取ることが多い。
演奏上のポイント
行進曲の演奏では、まず拍節感とアーティキュレーション(音の切り方)を明確にすることが第一です。以下の点が実践的な注意点になります。
- テンポ感:行進曲としての「歩調」を意識し、過度に遅速を変えない。フレージングでの微妙なテンポ操作(rubato)は控えめに。
- アクセント:各小節の拍の位置や動機の冒頭に明確なアクセントを置き、行進らしい重心を保つ。
- 音色の対比:主題は明るく前に出し、伴奏は柔らかく均一に保つことで主題が浮かび上がる。
- ダイナミクス:古典派の写譜版には細かな強弱記号が少ないことがあるため、資料に基づきつつも時代的慣習(自然なクレッシェンド/デクレッシェンド)を用いると良い。
- アーティキュレーションと弓遣い(弦楽器):短めのスティッカートとレガートの対比を生かし、行進のステップ感を表現する。
版と校訂—ケッヘル番号の扱い
モーツァルト作品には長年の研究の過程で番号や成立時期の見直しが行われており、本作もケッヘル目録の版間で番号表記に差異が見られます。K.335 と K.320a の併記は、補助番号や番外扱いの由来を示すもので、版ごとに校訂や異稿が残る場合があります。演奏や出版に際しては、原典版(Neue Mozart-Ausgabe など)や現存する自筆譜/写譜の台本を参照することが推奨されます。
編曲と利用史
短く親しみやすい性格のため、ピアノ独奏や連弾、吹奏楽への編曲が多数存在します。教育目的での採用も多く、特に室内楽やオーケストラ入門曲として扱われるケースが見られます。また、式典での定番曲として長年用いられてきたため、録音や放送で親しまれている例も多いです。
代表的な録音・演奏の聴きどころ
録音を聴く際は、以下の点に注目すると作品理解が深まります。
- アーティキュレーションの違い:古楽(原典主義)アプローチと近代オーケストラのアプローチでフレーズの切り方やテンポ感が異なる。
- ダイナミクスの解釈:楽譜に明記されていない箇所での強弱処理が、曲の印象を大きく左右する。
- 各楽器の音色配分:ホルンやオーボエの扱い方で主題の表情が変わる。
実践ガイド:練習・演奏に向けて
学習者・演奏者向けの実用的アドバイスです。
- メトロノームを用いて基本的な拍節感を固め、実際の施行では軽微な表情付けに留める。
- 二部形式の各部を独立して練習し、再現部での返し(リキャピチュレーション)での緊張の戻し方を確認する。
- アンサンブルではリーダー(指揮者や第一ヴァイオリン)を中心にアクセントと休符の処理を統一する。
結び — 小品に見るモーツァルトの均衡感
「2つの行進曲 ニ長調 K.335(K.320a)」は、短い格式的な枠組みの中で古典派的な均衡と歌心を同時に示す作品です。音楽理論的には単純に見えても、演奏におけるディテールが曲の魅力を決定づけます。版や編曲の違い、演奏解釈の選択肢を意識しつつ、まずは拍節感と明晰な主題提示を優先して演奏・鑑賞することをおすすめします。
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参考文献
- Digital Mozart Edition (DME) — Neue Mozart-Ausgabe のデジタル版
- Köchel catalogue — Wikipedia
- IMSLP / Petrucci Music Library — 楽譜と写本のデータベース
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