モーツァルト:行進曲 変ロ長調 K.384b — 真贋、構造、演奏ポイント

はじめに

モーツァルトの小品群の中に位置づけられる「行進曲 変ロ長調 K.384b」は、演奏会の序曲やセレモニーで取り上げられることのある短い楽曲です。本稿ではこの作品をできるだけ厳密に検証し、来歴(プロヴェナンス)や帰属問題、楽曲の音楽的特徴、演奏上のポイント、入手可能な版や録音情報までを整理して解説します。K番号に「b」が付される背景や、18世紀の行進曲が持つ様式的特徴を照らし合わせながら読み進めてください。

作品の概要と来歴

「K.384b」という表記は、原コーシュル目録(Köchel-Verzeichnis)およびその改訂版において、特定の作品が初期目録編纂後に補遺的に収められた際に付される添字の一例です。モーツァルト研究において、こうした添字が付された作品は必ずしも確実にモーツァルトの筆によるとは限らず、写譜者の誤記や後世の編曲、他作曲家の作品が混入したケースもあります。

K.384b とされる行進曲は、短い二部形式(あるいは反復付きの二段構成)を持ち、変ロ長調という明るい調性、明確な拍子感、節度ある装飾が特徴です。18世紀後半の宮廷・市民社会において行進曲は公式行事、パレード、式典で広く用いられ、オブリガート楽器(オーボエ、ホルン、トランペット、ティンパニ)を伴った編成から、室内的な弦楽のみの編成まで、用途により様々な編曲がなされました。

真贋問題(帰属の議論)

K.384b に関しては、学界・資料館・校訂版において帰属を巡る慎重な扱いが見られます。いくつかの重要点は次の通りです。

  • コーシュル目録の添字:『b』のような添字は本来、後から発見された断片・補遺・異本を示すもので、必ずしも筆者がモーツァルト本人であることを証明するものではありません。
  • 筆写譜と筆跡証拠:真正性を判断する際、現存する自筆譜(autograph)があるか、それとも写譜(copy)に頼るかが鍵となります。自筆譜がない場合は写譜者の注記や楽譜の由来が重要です。
  • 様式的分析:和声進行、旋律語法、フレージングの習慣がモーツァルトの他作品と整合するかを比較します。K.384b は様式的に18世紀の行進曲の一般的特徴を示すため、単独で確実な帰属決定には至りにくい場合があります。

結論として、K.384b をモーツァルトの作品として扱う版もあれば、帰属不確実として注記する版も存在します。研究的には、デジタル版や版元の注釈(例えばデジタル・モーツァルト・エディション等)を参照して各版の判断基準を確認することが重要です。

楽曲の音楽分析(形式・和声・旋律)

行進曲というジャンルの特性を踏まえ、K.384b の音楽的骨格を以下の観点から整理します(以下の分析は一般的様式論に基づく記述です。版により細部は異なります)。

形式

短い行進曲はしばしば二部形式(A–B)を取り、各部分に反復記号が付されます。A 部は主題提示と属調への導入、B 部は属調からの展開・対比、そして主調への復帰を担当することが多いです。K.384b もこの構造に沿っており、楽節ごとに明瞭な呼吸点があり、反復による安定感が重視されています。

旋律とリズム

行進曲的リズム(強拍を明確にするアクセント、しばしば四分の四拍子や二分の二拍子)が基調で、短い動機の反復・変形を用いて親しみやすさを保ちます。旋律線は三和音やスケール進行を基にしており、技巧的な装飾は控えめです。これは屋外や行進の場での聞こえ方を意識した実用的な書法です。

和声進行

和声は機能和声を基盤とし、属調(V)への明瞭な移行と確実なカデンツが用意されています。中間部では副次的調性(属調や平行調への短期的な移調)を経て、終結部で主調に戻るのが典型的です。和声的な驚きや複雑な調性操作は少なく、明快さが優先されます。

編成と演奏実践

オリジナルの編成については版によって弦楽四部のみの簡易編成から、オーボエ・ホルン・トランペット・ティンパニを含む祝祭的編成まで幅があります。史実的観点からのポイントは以下の通りです。

  • テンポ感:行進曲としての標準テンポ(歩調を感じられる速さ)を基準に、曲想に応じて多少の変化を付けます。速すぎると行進感が失われ、遅すぎると陳腐になりやすいです。
  • アーティキュレーション:短いフレーズは明瞭に、門出や合図を想起させるような切れの良い発音が効果的です。ただし古典派の室内楽的ニュアンス(軽いレガートと自然な歌わせ方)も忘れてはいけません。
  • ダイナミクスとバランス:トランペットやホルンが入る編成では、金管の強さに留意し弦楽のテクスチャを潰さないバランスを取ります。ティンパニはアクセントを補強する用途に限定するとよいでしょう。
  • 装飾とリピートの扱い:反復部分では小規模な装飾や様式的な変化を加えることが許容されますが、過度なロマンティック装飾は時代感を損なう可能性があります。

録音・楽譜・版について

K.384b のように帰属が慎重に扱われる作品は、版元や録音により取り扱いが分かれます。信頼できる参照先としては以下が有用です。

  • デジタル・モーツァルト・エディション(Digital Mozart Edition, DME/Neue Mozart-Ausgabe):版注や出典情報が示されているため、原典主義的な観点からの確認に最適です。
  • IMSLP(国際楽譜ライブラリプロジェクト):パブリックドメインの写譜や近代版が集められており、版による差を比較できます。
  • 主要な録音:行進曲類はアンソロジー盤やセレモニー音楽のアルバムに収録されることが多く、演奏スタイルの違い(古楽系 vs 近代フルオーケストラ)を聴き比べることで解釈の参考になります。

活用と現代の意義

K.384b のような短い行進曲は、教育現場や小・中規模のコンサート、地域の式典などで重宝されます。演奏団体にとっては、モーツァルト風の古典的様式を学ぶ格好の教材であり、編曲によってはアンサンブルの色付けや観客の導入曲として有効です。また、帰属問題を題材にした研究的考察は、史資料学・写譜学の入り口としても面白みがあります。

まとめ

K.384b は、形態的には古典派の行進曲の典型を示す小品でありながら、帰属や版によって扱いが分かれる作品です。演奏する際は版注や出典情報を確認し、様式に即したテンポ・アーティキュレーション・バランスを心掛けることが重要です。研究面では原典資料の調査(自筆譜の有無、写譜の系譜、初出の状況)と、音楽様式の比較が帰属判断の鍵となります。

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参考文献